そのオーディションは、とてもシンプルで合理的な判断基準によって審査が進行する。
 
 理由はレコード会社(+プロダクション)であるソニーミュージックによるオーディションだからだ。

 今回の決選大会の前に、予備審査が行われている。
 
 そして、エントリーアーティストの中から、メジャー契約しデビューさせたいアーティストを、既にその予備審査によって各制作セクションが検討し始めている。

 たまに検討の結果、アーティストの獲得を決め、決選大会を待たずに明確な希望を我々に告げてくるセクションもある。

 しかし複数のセクションが1アーティストの獲得を希望する場合もあるため、最終決定は全て決選大会後に決まる。

 お祭りではなく、あくまで新たな才能をソニーミュージックとしてきちんと世に送り出していくためのオーディション。

 そういった意味合いから、何よりも重要なのは、どの制作セクションが、どのアーティストと契約したいのか、という判断だった。

 それらを最終的に決めるのが、この決選大会だった。
 
 予選大会から決選大会まで1ヶ月以上の期間があるため、各制作セションの獲得希望情報などは、ある程度精度の高いものになっている。
 
 そういった背景の上で今回のように決選大会が行われ、各制作セクションはアーティストの大きなホールにおけるパフォーマンスを改めて確認し、あらかじめ決めてあった獲得希望の意志を再確認する。
 
 面白いもので、そういった事前の意志が、決選大会で変わることもある。
 
 前年度の決選大会の事だった。
 
 僕は半年以上コミュニケーションをとってリーダーの宮本浩次の人間性とバンドの大きなテーマ、そして若いバンドならではの限りない可能性を把握した上で、エレファントカシマシをていねいにプレゼンし続け、最終的に決選大会へ送り込んだ。
 
 決選大会までの間に、興味を持つディレクターやプロデューサーはいたけれど、当日まで決定的な獲得希望の情報はなかった。
 
 そして決選大会後の審査が始まった時に、それまで他のアーティスト獲得を強く希望していたある制作セクションの部長が、現場のディレクターと話し合った結果、急遽エレファントカシマシの獲得を決定し、名乗りを上げた。
 
 実はその審査の瞬間まで、それほどはっきりとした獲得の意志をどこの制作セクションからも確認していなかったからこそ、僕はいずれエレファントカシマシのプロデュースを自分自身が手がける、というイメージを膨らませていったのだった。
 
 しかし、突然だけれど、それまで希望していた別のアーティストへの意志を取り下げてまで、ある制作セクションが明確な獲得の意志を提示した結果、エレファントカシマシは見事、賞をとり、オーディションに合格した。
 
 このダイナミックな動きをした決選大会の結果により、僕は2年続けてデビューアーティストを発掘した、という評価と実績を得て、その一方で自分がエレファントカシマシのプロデュースを手がける、という大きなチャンスを失ったのだった。
  

 
 あれから1年経った今、新たな8アーティストの中から、制作部セクションによる契約・デビューの確約、という明確な判断に基づく、審査が始まったのだった。