4月にアルバム「Vanishing Vision」をリリースした後、5月に初のホールでのワンマンライブを、そして6月からは全国ライブハウスツアーが始まる、という大まかなスケジュールを小村君から聞いていた僕は、2つの大きな目標を自分の中で決めていた。
 
 まずひとつは、その全国ツアーが始まるまでの約2ヶ月で、メンバーと交流を深め信頼関係を築いた上で、僕の思う「進化」を促すポイントを見つけること。
 
 もうひとつは、その全国ツアーで進化が始まると想定し、その成果を基に、僕の所属する新しいセクションでXのプロデュースを手がける土壌を用意すること。

 どちらもハードルはとても高いけれど、この機会を逃しては、自分がXのプロデュースを手がけるチャンスはもう二度と訪れないだろう、と僕は思っていた。

 保坂康介と別れて自分の部屋に戻ると、僕はその2つの大事な目標をもとに、新しいセクションへXのことをどう話すべきか考えた。
 
 まず、進化のポイントを見つけてちゃんと進化が始まるまでは、新しいセクションのメンバーにXのステージを見せたり、詳細の説明をしたり、といったことはしたくない。
 
 その一方、早く僕がメンバーに「共闘宣言」をできるよう、いずれ新しいセクションでXのプロデュースを手がける可能性があることを理解してもらい、ビジョンを共有していきたい。
 
 となると・・・。

 新しいセクションで毎日行われているブレーンストーミングの中で、僕なりにきちんとXプロデュースを新たなプロジェクト案件候補としてプレゼンするのが正しいだろう。

 やはり明日その話をするべきだ。

 企画書などはいらない、口頭で充分だ。

 それより中身が重要だ。

 そのプレゼンについて、何より大事なもの・・・。

 それはXのプロデュースが新しいセクションの使命に対して、ちゃんと答えになっている、という根拠だ。
 
 通常のレーベルと同じことをやるのであれば、プレゼンにはならない。
 
 僕はそのポイントをさっき保坂と話していて気がついた『Xというバンドの新しさ』をもとにして考え始めた。