『Marvin Gaye』(マーヴィン・ゲイ)
アメリカ合衆国ワシントンD.C.出身のソウル・R&B歌手。モータウンレーベル出身。
生前はもちろん没後も、世界のアーティストたちに大きな影響を与え続ける。
<TSUYOSHI評>
小学生の頃、マーヴィン・ゲイといえば「Sexual Healig」を歌っているなんかカッコいい大人の男っていう認識くらいだった。しばらくしてマーヴィン・ゲイといえば「What's Going On」であると知り、それ以降この曲を意識して聴き始めた。
今でこそ私の音楽人生において多大なる影響を与えてくれたマーヴィン・ゲイだが、始めはなかなか彼にハマっていかなかった。ラジオか何かで「What's Going Onが大好きです」と言っていたデビュー間もない小比類巻かおるのその意図を聞いてみたいものだ…などといぶかしがる反面、「What's Going On」を耳にする度にこの曲にハマりたくてもハマることができない自分の感受性の低さを嘆いていた。
今にして思えば、この曲のサウンドの良さ、ましてや歌の内容やその意味などは10代中頃のガキには分かるはずもなく。伝説のベーシストであるジェームス・ジェマーソンを始め、Motownの腕利きミュージシャン達に支えられた素晴らしいサウンド。麗しいアレンジ。ベトナム戦争などの当時のアメリカの社会問題についての嘆き。お子ちゃまには到底理解できない物事だったわけで。いつしか「What's Going On」という曲は、自分にとっては「大人」たるものへの指標となってしまっていた。
大学の軽音楽部にいた20歳くらいの頃、私は主にサザン・ソウルを演るバンドにいたりもしたが、Motownモノも少なからず手をつけていた。その中で「What's Going On」を歌う機会が多かった。ある時、バンドのMC兼トランペットの男が「お前の歌うWhat's Going Onは好きだ」といった主旨のことを言ってくれたことがあった。そうか、少しは大人になれたのかなと嬉しく思ったのを覚えている。やがてそんなこんなしているうち、年月を経るごとにマーヴィン・ゲイのことが自然と受け入れられるようになっていった。
誰しもが大人になれば必ずその良さが解るマーヴィン・ゲイ、是非色んな曲を聴いて欲しいところ。マーヴィン・ゲイという人は「Mercy Mercy Me (The Ecology)」のようなストイックで真面目な面だけを持っていたわけではない。というか基本エロい。官能さ加減でいえば、直接的に性愛を歌うR.ケリーよりもエロ度は多めなのではないだろうか。分かりやすいところだと「Let’s Get It On」、「Sexual Healing」あたりが代表選手。エロ度が少々薄いところでは「I Want You」、ダイアナ・ロスとのデュエット曲「You Are Everything」といった具合だろうか。とはいえ単純に愛を歌っていても、どうしても隠しきれない移り香が。嗚呼、天城越え。
そんな中、個人的に好きな曲の一つに「Distant Lover」がある。アルバム「Let’s Get It On」に収録のオリジナルバージョンはもちろん素晴らしいのだが、1976年のオランダ・アムステルダムでのLiveバージョン(http://youtu.be/66uVdgVlbdA)がとても興味深い。イントロ中の語りから歌に入る所の変わり身の凄さ。ところどころ小粋で姑息なステージング。曲の最後の最後にマイクを頭上に放り投げ、ドンピシャのタイミングでのキャッチからのラストシャウト。どれもこれもパーフェクト。これぞR&B劇場。ちなみにこの動画は所属するMotownの社長であるベリー・ゴーディーの妹と結婚したものの、別の女性と同棲の末に子供まで作り、多額の慰謝料請求を伴う離婚裁判を起こされている渦中でのツアーのLive映像である。自業自得だが凄い精神力。しかしながらその後の彼の生涯といえば、止まらない薬物常習からの、最後は実の父親に銃で撃たれて亡くなるという波乱の幕引きとなってしまっている。
このオランダ・アムステルダムでのLiveのフルサイズ動画(http://youtu.be/rcg_S5z1M74)があったので、興味のある方は是非見ていただきたい。当然の如くちょいちょいツッコミどころはあるけども、全編素晴らしいステージ。若い頃このLive映像が好き過ぎて、寝る前には必ずこのLiveビデオを観ていたものだった。
だからというか、それだけではなく前掲の事も多分に影響して、マーヴィン・ゲイは少なからず唄うたいとしての私の血肉となっている。
<西崎信太郎 評>
音楽を愛する者であれば、ジャンルを問わず一度は名前を聞いた事があるであろう、ソウル・シーンが生んだレジェンドの中のレジェンド。プライベートでは色々と問題を抱えていたり、実の父親に射殺されて一生を終えるという悲しい結末を迎えたアーティストでしたが、音楽シーンに多大なる影響を与えた素晴らしいアーティストであった事は間違いないです。
マーヴィンが亡くなった時、僕はまだ3歳だったのでリアルタイムでマーヴィンの魅力に触れた事が無い世代ですが、間接的にマーヴィンの影響は日々受けっぱなし。レジェンドすぎて、大したウンチクは語れないのですが、マーヴィンが残した楽曲の中で最も印象的な楽曲は"Sexual Healing"。
個人的にマーヴィンの印象といったら「元祖セクシャル・リリシスト」とでも言いましょうか、そのストレートな詞の内容のエロティシズム・ソウル。マーヴィンがいなかったらRケリーも今のようなスタンスじゃなかったのではないかというくらい、エロスと音楽の境界線を緩めたアーティストかなと思いますが、その代表曲がこの"Sexual Healing"。初めて聴いた時は、その意味すら理解せずに純粋に「良い曲だなー」と聴き入った覚えがありますが、よくよく考えたら詞の世界観やコンセプトがかなり独特ですよね。「君の効き目が待てないんだ こんな気持ちの時にはセクシャルな治療が・・・セクシャルな治療が必要なんだ」って、何気ない詞の一幕ですけど、マーヴィンの人生を象徴しているのかなーとも。因に僕がこの曲を初めて聴いたのは、マックス・ア・ミリオンというラガ・ユニットのカヴァーでした。あ、でも日本のラッパーECDさんの楽曲"ロンリーガール"("Sexual Healing"のトラックをサンプリング)の方が先に聴いていたかも。
"Sexual Healing"は、マーヴィンのキャリア最後のヒット曲となりましたが、当時の社会情勢を詞で表現した"Mercy Mercy Me"や"What's Going On"、そしてマーヴィンの人気を決定付けた、当時マーヴィンと同じMotownに所属していたタミー・テレルとのデュエット曲"Ain't No Mountain High Enough"などは、今後も世界中のアーティストに歌い継がれるであろう名曲。本当にどれも名曲ばかり。今年、ニューヨークにてMotownのミュージカルを観てきましたが、公演中に"Ain't No Mountain High Enough"が流れた時の会場全体がマーヴィンを敬愛する空気感、あれは一生忘れないですね。
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