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ソーシャル時代のコンシューマーゲームと
新世代ハードの応答
〜『デモンズソウル』『ダンガンロンパ』『P.T.』〜
(中川大地の現代ゲーム全史)
【毎月第2水曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.4.13 vol.563

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今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。前回まではスマホゲーム全盛となった2010年代を分析してきましたが、今回はコンシューマーゲームとハードの最新状況がどのように推移していったのかを概観します。


▼執筆者プロフィール
中川大地(なかがわ・だいち)
1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。

第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(5)



■グローバルかドメスティックか〜国産コンシューマー作品が歩んだ二つの道

 翻って、コンシューマー機でリリースされた国産ゲームソフトの側に目を転じれば、この時代に人気を集めた新規オリジナルタイトルには、大きく二つの傾向が読み取れる。
 一つには、海外で主流となっているゲームデザインや意匠テイストへと漸近していく「和製洋ゲー」化の流れである。すでに2000年代後半の『モンスターハンター』シリーズの時点で見受けられた傾向であるが、さらなる徹底を見せたのが、フロム・ソフトウェア開発のPS3向けアクションRPG『デモンズソウル』(SCE 2009年)および『ダークソウル』(フロム・ソフトウェア 2011年)のシリーズであった。

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▲『デモンズソウル』(SCE 2009年)

 両作は、ただ時間を費やしてレベルを上げるだけでは勝てない、プレイヤー自身の技量の向上に大きく依存する高難度のアクション要素を妥協なく投入し、市場の成熟につれてひたすら〝ユーザーフレンドリー〟になる一方だったJ-RPGの傾向に真っ向から反旗を翻してみせる。ストーリーによる誘導ではなく、一般のMORPG等よりもあえて貧弱なコミュニケーション手段しかもたない一期一会のマルチプレイを通じて他のプレイヤーから攻略手段を学ぶというスタイルにも、本作のストイックなスタンスが顕れていた。その硬派な姿勢は、ハードなダークファンタジーを追求した世界観とも相まって、ソシャゲ登場以降の国内ゲーム全体のカジュアル化に辟易していたコアゲーマー層の支持の受け皿となり、テレビCMなど表だった宣伝のなかったタイトルながら口コミで支持を集めてロングラン型のスマッシュヒットへと化けたのである。
 さらに、従来ほとんど海外大作ゲームの謂であったオープンワールドを謳う国産アクションRPGとして、『ドラゴンズドグマ』(カプコン 2012年)がPS3および360向けに登場する。キャラクターの声優にも外国人俳優を起用するなど、一見して洋ゲーと見分けのつかないルック&フィールを持った本作は、全世界で累計200万本という、この時期の新規の日本製タイトルとしては異例のセールスを記録。『The Elder Scrolls V:Skyrim』(ベセスダ・ソフトワークス 2011年)のような、年季を重ねたオープンワールドRPGの定番シリーズの作り込み規模や世界的人気には遠く及ばないものの、巨大な敵に乗り移って攻撃したりすることのできるアクションゲームとしての秀逸さなどで独自性を発揮し、国内外の感性の差を一定程度埋めることには成功したと言えるだろう。

 もう一方では、アニメやライトノベル等の国内キャラクターコンテンツと徹底的に密着しつつ、クラシカルなジャンル表現を洗練させていったタイプのゲームからも、いくつか重要なタイトルが生まれている。とりわけ新しい世代のジュブナイル層に訴求したのが、『STEINS;GATE』(5pb. 2009年)や『ダンガンロンパ  希望学園と絶望の高校生』(スパイク 2010年)といった、テキスト中心のAVG系タイトルであろう。いずれも、2000年代までのノベルゲームや新伝綺ムーブメントなど、AVG発のエンタメ文芸で培われたトリッキーな作劇手法を高度に継承発展させた作品だが、前時代ならPCでのポルノゲームや同人ゲームからブレイクしていったタイプの作風が、はじめからメジャー向けコンシューマータイトルとしてリリースされるようになったわけである。

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▲『STEINS;GATE』(5pb. 2009年)

 前者の『STEINS;GATE』は、音楽プロデューサーの志倉千代丸が企画原案を務める「科学アドベンチャー」シリーズの第2弾として、360版を皮切りに発売された。マッドサイエンティストに憧れる〝厨二病〟をこじらせた主人公が、偶然開発したタイムリープマシンで意識だけを過去に送れるようになるという仕掛けで、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』『ひぐらしのなく頃に』等で培われた「ループもの」のシナリオのさらなる洗練が追求されたことが、本作の特徴と言えるだろう。
 システム面では、一般的なノベルゲーム等とは異なり、携帯電話でのメールの送受信や通話の内容やタイミングによって自然なかたちで展開が分岐するという仕掛けにより、プレイヤーのリアリティに即した日常性と大がかりなSF的虚構とがいつの間にか接続していく世界観を醸成する。その上で、現実のスポットに取材した秋葉原を舞台に、CERNなどの実在の組織や人物名をアレンジしてシナリオの謎に絡ませたほか、さらに1980年代の架空の8ビットマイコンをキーアイテムと絡ませたり、「電器の街」から「オタクの街」と化した街の変貌を偽史的に改変したりする等、国内のゲームファン層の個人史とピンポイントに照応するエピソードをシナリオに濃密に盛り込んでみせた。こうして虚実の度合いをシャッフリングしていくリアリティレベルの巧みな操作により、本作はクラシカルなAVGタイプの作品でありながら、〈拡張現実〉的な現代性にアプローチすることに成功したのである。

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▲『ダンガンロンパ  希望学園と絶望の高校生』(スパイク 2010年)

 後者の『ダンガンロンパ』はPSPで発売され、『バトル・ロワイアル』『Fate/stay night』等で00年代に隆盛した「バトルロワイヤル系」ないし「デスゲーム系」と呼ばれるクローズドサークル型の群像劇の類型を、『逆転裁判』を踏襲したケレン味あふれる法廷バトルの様式に接合してみせた変則ミステリーと言える。超高校級のフリーキーな才能を持った生徒たちが、閉鎖された学園内で邪悪なホスト「モノクマ」に誘導されて互いのコロシアイに追い込まれ、その犯人を学級裁判での議論で推理して当てて吊し上げ処刑していくデスゲームに巻き込まれるという骨格は、2001年にアメリカで登場し世界的なブームを引き起こしたパーティーゲーム『汝は人狼なりや?』(人狼ゲーム)のそれにも近い。こうした「ゲーム内ゲーム」を描くストーリーラインに加えて、学級裁判の中にシリアスな状況にそぐわない能天気なミニゲームを遊ばさせられるあたりの不条理さなどは、コンシューマーゲームの成熟時代を対象化する、本作のシナリオライター小高和剛の批評的な作家性を強く感じさせるものだ。
 こうしたゲーム史への批評性は、続編の『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』(スパイク・チュンソフト 2012年)ではさらに強烈に先鋭化され、第8章に取り上げた『moon』などにも通ずる「ゲームを遊ぶ」ことそれ自体のメタ的な捉え直しに至った作品群の文芸的な主題が、空疎な希望を寄せ付けないデスゲーム的なリアリティで同時代を生きる新世代のゲームファンたちに向けたメッセージを伴うかたちで、改めて問われていくことになる。

 以上のように、片や3DCGでのリアルタイムアクションをベースに、ローコンテクストなグローバルゲームを目指していく動きと、片や2Dキャラクターイラストと膨大なテキストをベースに、ハイコンテクストなドメスティックゲームを突き詰める動きとが両輪をなし、比較的熱心なゲームファンたちの嗜好の牙城となった。かくしてコンシューマーゲームのカルチャーは、一種の教養主義的な装いをも帯びつつ、かろうじて受け継がれていったと言えるだろう。


■ コンシューマー各機の〝撤退戦〟〜「Wii U」「PS4」「Xbox One」

 スマホゲームへの潮流を横目にするかたちで、2012年末には任天堂の「Wii U」、13年末にはSCEの「プレイステーション4」とマイクロソフトの「Xbox One」が発売。携帯型ゲーム機に続き、据置型コンソールゲーム機の代替わりも、相次いで進行する。いずれもまずは米欧圏をはじめとする世界での発売が先行し、日本国内での発売が後回しになったことで、世界のゲーム市場における日本の地位の相対的な凋落を人々に印象づけることになった。
 加えて、ソーシャルゲームやスマホアプリゲームへの潮流がますます強まり、据置機への注目がはっきりと失われていく中で、いかにモバイルゲームとの差異化を打ち出してユーザーの目減りを防ぐかという撤退戦的な課題が、とりわけ国内では強く意識されていた点もまた、この世代の機体の特徴と言えよう。

 そうした苦心の跡が、前世代機からの変化として特に見てとりやすいのがWii Uであろう。本機の最大の特徴は、コントローラー内にタッチスクリーン式の6.2インチ液晶ディスプレイや各種モーションセンサーを備えた「Wii U GamePad」にある。基本的な設計思想としては、「We」に由来したWiiに対して「You」のニュアンスを加えた製品名に象徴されるように、リビングの大画面テレビで家族や友人たちと場を共有できる体験に加えて、プレイヤー各自が自分だけのセカンドスクリーンを持つことで、マルチプレイゲームの戦略性を高めたり、テレビのない部屋でも同じゲームをワイヤレスに楽しめるようにするなど、家庭用ゲームの体験をよりパーソナライズする方向に拡張することを狙うものだ。


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