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おそ松さん――
社会現象化した"覇権アニメ"が内包する
テレビ文化の隔世遺伝
(石岡良治×宇野常寛)
【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.4.27 vol.575

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今朝のメルマガは、『おそ松さん』をめぐる石岡良治さんと宇野常寛の対談をお届けします。『おそ松さん』が社会現象化した理由を、テレビバラエティの伝統を背景に語ります。(初出:「サイゾー」2016年4月号(サイゾー)


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▼作品紹介
『おそ松さん』
原作/赤塚不二夫 監督/藤田陽一
シリーズ構成/松原秀 キャラクターデザイン/浅野直之 制作/スタジオぴえろ 放映/テレビ東京ほか(15年10月~16年3月)
『おそ松くん』の世界から月日が流れ、ニートで童貞の大人になった六つ子が描かれる。各話が完全な続きもののストーリーになっているわけではなく、1回の放送で複数のショートネタが入っている回もある。

▼対談者プロフィール
石岡良治(いしおか・よしはる)
1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。

◎構成:金手健市

『月刊カルチャー時評』過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。


■ もはや社会現象化した“覇権アニメ”が内包するテレビ文化の隔世遺伝

石岡 『おそ松さん』、まさかここまで圧倒的な作品になるとは、始まる前は予想もしてませんでした。もはや深夜アニメの1作品というより、これ自体がひとつのジャンルなんじゃないかっていうくらい、コンテンツが広がりを持っている。監督・脚本は『銀魂』と同じ組み合わせ【1】ですが、『銀魂』がいま動かしにくくなっている中で、そこで本来やりたかったことのコアな部分を非常に拡大してやれてしまっているというか。正直この企画は、コケていたらめちゃくちゃサムかったはずの相当リスキーな作風だった。
 『おそ松くん』はこれまで2度アニメになっている【2】けど、どちらもイヤミの「シェー」で当たった作品だった。チビ太とイヤミの人気が出て、タイトルこそ『おそ松くん』だけど六つ子は完全な脇役。ただしそれは作者の赤塚不二夫が六つ子の描き方も台詞もほぼ区別していないという、いってみればポップアートのようなコンセプチュアルなネタだったからでもある。それを『おそ松さん』では六つ子それぞれに人気声優【3】を当てて、キャラをつけまくった。
 その上で、なぜ「コケていたらサムかった」と思ったかというと、「(六つ子の)こいつはこういうキャラ」というのを前提にして、そのキャラならやらなそうなことを急に豹変してやってしまうという、ハイコンテクストなネタをどんどんぶち込んでくる。これはいま観ると大ヒット前提で作り込んできたように見えるんだけど、外したらかなり痛々しいことになっていたはずで、そこをきっちり決めてきたのはすごい。“スベり笑い”も多くて、2話を観たときに「大丈夫か?」ってちょっと思ったんですよ。ローテンションな話が延々繰り返されて、ギャグも投げっぱなしであまり回収しない。人によっては本当につまらないネタも必ずあるはず。それを補ったのが、さっき言った通りひとつのジャンルと言ってもいいくらい幅広い作風にする、手数を増やすというリスクヘッジだった。つまりネタのバリエーションが広い。僕はそんなにバラエティを多く観るほうではないけど、お笑い番組的な知性が発揮された構成の良さが出たんじゃないかと思った。
【1】監督・脚本は『銀魂』と同じ組み合わせ:アニメ『銀魂』は、実在の人物やテレビ番組、ほかのアニメ作品をパロディにしたりキツめにイジったりするネタが多いことで知られている。『おそ松さん』の藤田陽一監督は第2期で監督を務め(現在は監修)、脚本の松原秀は3期から参加している。
【2】これまで2度アニメになっている:1度目は66年(白黒アニメ)、2度目は88年放映。
【3】人気声優:六つ子のキャスティングは以下の通り(カッコ内は代表的出演作)。おそ松:櫻井孝宏(『コードギアス 反逆のルルーシュ』)/カラ松:中村悠一(『劇場版 機動戦士ガンダム00』)/チョロ松:神谷浩史(『進撃の巨人』)/一松:福山潤(『暗殺教室』)/十四松:小野大輔(『ジョジョの奇妙な冒険』)/トド松:入野自由(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』)

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