アン・リー監督『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
1960年インド・ポンディシェリに生まれた少年パイは、父親が経営する動物園でさまざまな動物たちと触れ合いながら育つ。パイが16歳になった年、両親はカナダへの移住を決め、一家は動物たちを貨物船に乗せてインドをたつが、洋上で嵐に遭遇し貨物船が沈没。必死で救命ボートにしがみついたパイはひとり一命を取りとめるが、そこには体重200キロを超すベンガルトラがいた。
原作/ヤン・マーテル 監督/アン・リー 製作/デビッド・ウォマーク
出演/スラージ・シャルマ、イルファン・カーン、タブー、レイフ・スポール、ジェラール・ドパルデュー
☆☆☆☆☆ スピリチュアルな体感的トリップムービー
☆
【森直人:6点】
IMAX 3Dで観たら、ちょっと船酔いしたような……。トラと一緒に海を漂う冒険譚も、これだけ映像の体感精度が高いとワクワクを通り越してリアルに過酷だなと(笑)。全体としてはエキゾチシズムとスピリチュアルな世界観が前面化したトリップムービーといった趣。アン・リー監督が手掛けるジャンルの広さには畏れ入るが、何より質感や肌理にこだわった美学や演出タッチが、彼を「職人」よりも「作家」として際立たせているのだろう。
☆☆☆☆☆ 完璧なビルドゥングスロマン
☆☆☆☆
【松谷創一郎:9点】
素晴らしい作品。見事としか言いようがない。物語がドライブするのは遅いが、伏線となる前半がきれいに回収されていく。ネタバレになるので多くは触れないが、ビルドゥングスロマンとして完璧だ。それは原作の良さでもあるが、漂流シーンで3Dを巧みに使うことで映画的な跳躍にも大成功している。アニメだけでなく、3DがファンタジーやSFと相性が良く、その魅力を最大化する可能性を持つ技術であることを改めて証明した。
☆☆☆☆☆ これぞ大ボラ吹きのプロフェッショナル
☆☆☆
【那須千里:8点】
“ウソでしょ!?”と一度はつぶやかずに観られない。CGのトラは見た目も動きも美しく、それが本物っぽいかどうかなんてどうでもよくなる。そこがキモで、嘘を本当らしく見せるフェイクドキュの手法とは逆に、本当の物事まで嘘の世界に取込むことで両者を曖昧にする究極のマジックリアリズム。『ブロークバック・マウンテン』の羊に続きアン・リーは生き物の大群に特別な思い入れでもあるのか……何であれ作風の幅が広すぎる!
▼公開中!『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』公式サイト
http://www.foxmovies.jp/lifeofpi/
▼執筆者プロフィール
森直人
1971年生まれ。映画評論家、ライター。
著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)など。
http://morinao.blog.so-net.ne.jp
松谷創一郎
1974年生まれ。ライター、リサーチャー。
著書に『ギャルと不思議ちゃん論 女の子たちの三十年戦争』(原書房)など。
http://d.hatena.ne.jp/TRiCKFiSH
https://twitter.com/TRiCKPuSH
那須千里
映画文筆業。
「クイック・ジャパン」(太田出版)、「キネマ旬報」等の雑誌にて執筆。