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落合陽一「デジタルネイチャーと幸福な全体主義」 第6回 インターネット時代の新帝国主義(前編)【毎月第1木曜配信】
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落合陽一「デジタルネイチャーと幸福な全体主義」 第6回 インターネット時代の新帝国主義(前編)【毎月第1木曜配信】

2017-04-06 07:00
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    メディアアーティストにして研究者の落合陽一さんが、来るべきコンピュータに規定された社会とその思想的課題を描き出す『デジタルネイチャーと幸福な全体主義』。今回は、〈物質〉と〈実質〉の境界を突き崩すデジタルネイチャーラボの研究、そしてGoogleとAppleによって成立した新しい帝国支配の核心に迫ります。(構成:長谷川リョー) 

    ヴァーチャル・リアリティに欠けている感覚を補完する

    ここまでの連載では、「ネットワークに住み着いた人間と機械の共進化関係」という概念について論じてきました。

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    これまでの世界は、〈人間(生物)〉と〈機械〉、〈物質〉と〈実質〉という4象限に分割されていました。しかし、ネットワークによってあらゆるものが接続された現在、〈人間(生物)〉と〈機械〉、〈物質〉と〈実質〉の区分はあいまいになりつつあります。この4象限の中間地点に「オルタナティブ」が生成され、そこを中心に新たな価値基準が形成されていく。デジタルネイチャーラボでは、こういった変化が作り出す新しい世界について、日夜研究を進めるため、各象限の変換法や相転移を目指す研究を行っています。

    たとえば、現在のヴァーチャル・リアリティに不足している要素に「触覚」があります。その例として、僕たちが朝、目覚めてから触るものを考えてみましょう。まず、パジャマやパンツといった衣服に触りますよね。朝食を食べるとき食べ物にも触る。あとは家から出るときにドアノブを触るし、出勤のために自動車のハンドルに触るかもしれない。会社に着いたらパソコンのキーボードにも触ります。
    だけど、自動ドアになればドアノブは不要だし、ハンドルも自動運転車になれば触らなくてもいい。キーボードも音声認識になれば触らなくなります。そう考えていくと、一日中VRゴーグルを被ってヴァーチャルの世界で暮らしたときに不足する触覚というのは、実はかなり限られてくる。そうすると「人間が直接触るところはアナログでマテリアルなものが欲しいけど、それ以外はヴァーチャルでいい」という発想も出てきます。人間が触ることのない箇所は、マテリアルであるべきか、それともヴァーチャルでいいのか。これは各人の趣味嗜好の話でしかないし、突き詰めていくと「〈物質〉と〈実質〉のどちらを信じるか」という宗教的な情念に近づいていくでしょう。その世界では、私たちの考え方は今とはまったく違ったものになっているはずです。

    ここでデジタルネイチャーの世界観を実現するための重要なテーマを3つ挙げてみましょう。
    ・「拡張現実/現実拡張」――存在しないものをあるかのよう見せる、存在しているものをさらに拡張する
    ・「データ化/物質化」――〈モノ〉をデジタル化する、〈モノ〉をコンピュータが操作する
    ・「人間機械化/機械人間化」――コンピュータによって〈人間(生物)〉を制御する、〈人間(生物)〉がコンピュータやロボットに乗り移る。
    この3つのアプローチによってデジタルネイチャーという新しい世界観を実現するのが、我々のラボの目指すところです。

    「拡張現実/現実拡張」――存在しないものをあるかのよう見せる、存在しているものをさらに拡張する

    まずは「ディスプレイ」の研究から紹介していきましょう。弊ラボでは、プリンティング・マテリアル(刷版材料)の反射を自在に制御する研究を行っています。これは高澤和希くんという学生の卒論で、「Leaked Light Field」という技術です。皮財布や木製のボードの表面にドットが浮き上がっていますね。

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    皮や木材といったアナログ素材の表面を発光させてデジタルな表現を可能にする。具体的には、マテリアルな素材の質感を損なわずに光を透過する、微細な穴を開ける加工技術を開発しているのですが、これはいわば、「物質的な素材」と「実質的な存在」の間を埋めるための研究です。
    同様の技術で、光の反射を自在に制御することで、見る方向によって映る内容が違う鏡を作るという研究も進めていて、そこでは「視覚的な見た目」と「投影される事象」の間に、新しい関係を作り出すということを考えています。

    この研究は後で紹介する素材研究の一面も含んでいます。

    〈物質〉と〈実質〉の中間の研究の例としてもう一つ、これはタッチパット上で「動く心臓」を表現する技術です。

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    タッチパットの画面に流体が敷き詰められていて、導電性幕により表面が凹んだり出っ張ったり変化することで、見た目だけでなく触り心地を再現できます。これは弊ラボの橋爪智くんの「Cross-Field Haptics」という研究ですが、液晶による見た目の表現と、触覚による感触の表現の間を埋めることで、独特の感覚を出現させています。


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