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濱野智史『S, X, S, WX』―『アーキテクチャの生態系Ⅱ』をめざして 第1章 東方見聞録 #1-1 NRT発: 3/6~3/7~3/6: on United【不定期配信】
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濱野智史『S, X, S, WX』―『アーキテクチャの生態系Ⅱ』をめざして 第1章 東方見聞録 #1-1 NRT発: 3/6~3/7~3/6: on United【不定期配信】

2017-06-13 07:00
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    情報環境研究者の濱野智史さんの新連載『S, X, S, WX』―『アーキテクチャの生態系Ⅱ』をめざして が始まります。来たるべき時代の情報社会/現代社会を読み解くための試論を展開しようとする濱野さん。第1章では、Googleを訪ねるために西海岸へと向かいます。

    『S, X, S, WX』

    ―『アーキテクチャの生態系Ⅱ』をめざして

    第1章 東方見聞録

    #1-1 NRT発: 3/6~3/7~3/6: on United

     2017年3月6日、私は太平洋の上にいた。ユナイテッド航空、NRT17:55発 SFO10:10着の便だ。そのとき私は洋上にてある夢を見ていた。だが、それは眠る時にみる夢のことではない。夢よりも深い覚醒のなか、私がこれから本連載を通じて、いや人生を通じて現実のものとしたい、夢である。
     その内容は、かつて筆者が宇野常寛との共著『希望論』(NHKブックス、2012年)と小熊英二編著『平成史』(河出書房新社、2012年)に寄稿した小論「情報化:日本社会は情報化の夢を見るか」に書きつけたことである。その要約は後者から引用すれば次のようなものとなる:
     日本の情報化は、インフラ層の普及・整備という点では成功したが、アプリケーション層(特に経済/政治領域)においては、さしたる変化ももたらしていない(中略)。それは、変化を望まない既存勢力にとっては「成功」であろう。しかし日本社会全体にとっては、少なくともグローバルな規模でポスト工業社会への移行は進んでいることは明らかである以上、「失敗」であろう。せいぜい成功しているといえるのは、インフラの価格破壊を実現し、百科事典や音楽やアニメを無料でダウンロード可能にするという、デフレ消費を推し進めたくらいのものである。
     こうした見立ては、「日本の情報化はカスだった」という印象を与えかねないかもしれない。しかしこれはあながち間違いではない。前節の冒頭でも見たように、結局のところ情報化は、情報収集や消費行動といった「消費」の領域に影響を強く及ぼしている傾向が強い。イノベーションを生み出す、政策をつくる、といった「生産」の領域では、まだまだ情報化ないしはネットワーク・メディアはさしたる影響を及ぼしているとは言いがたい。比喩的にいいかえれば、インターネットはいまだ「夜」の世界のメディアなのだ。社会の実権を握り、動かしている政治や大企業の「昼」の世界は、いまだにマスメディアとハイアラーキー(階層型組織)によって動いている。日経新聞を読んで組織内のうわさ話に聞き耳を立てる。それがいまだに日本社会の中核を縛っている。
     これはあくまでデータの裏付けを欠いた想像にすぎないが、インターネット(特に匿名掲示板)がしばしばオタクたちのしがない遊戯空間だと思われていたのにも、それなりの構造的背景があるのかもしれない。実社会ではまともにコミュニケーションのできない、正規雇用にもついていないからこそ時間の有り余った、引きこもり気味のオタクが、匿名空間で息巻くという姿が、戯画的にこれまで抱かれてきた。(中略)
     しかしこれは少し引いた目線で見れば、平成期において、それまでの昭和的枠組み(大企業での正規雇用といったメンバーシップ)が温存され、そこから「こぼれ落ちた人々」(貴戸理恵論文)たちが、「生きづらさ」の解消と承認欲求を求めて、インターネット空間を夜な夜なさまよっている、という図式ではないのか。あるいは自分たちの怒りや不満が既存の政治勢力やメディアには通っていない不満を抱える人々ではないだろうか。彼/彼女らは、昭和期から強固に残存する「昼」の世界の諸制度なり組織なりにぶつかり、それが変えられるという希望を失っている。だからこそ、誰もが肩書きを外して自由に発言し自由に暴れまわることのできるインターネット空間に夜な夜な出没するしかない。つまりは「昼」の世界への失望と無気力が、「夜」の世界での熱量に転換させられるほかないのである。はなはだ客観性は欠いているけれども、もし平成期における日本のインターネットがどうしようもなく「ダメ」で「厄介」なものに見えるとしたら、そうした下部構造が背景にあるのではないか。
     しかし、もし仮にそうなのだとしても、私達はそろそろ情報化の空間を夜の領域にとどめておくのをやめる時がきている。そこが「夜」の領域だというのならば、私達はアメリカ社会の借り物ではない、しごくまっとうで正しい「夢」を見なければならない。本書に収められた各論文は、インターネットを使って私達が何をすればいいのか、何の制度改革に向かって声を集め、それをどこに届ければいいのかを、これ以上はないというほどに明らかにしている。社会保障、教育、労働政策に悩む者たちが、ネットで声を集め、知恵を出しあい、団結しあって、それを何らかの政治勢力に伝え、有効な「票集団」として結集すること。インターネットという自由で双方向なメディアがあれば、既存の政治を縛ってきた「地方」や「組織・団体」の枠を超えて、そうしたコミュニケーションと団結が可能なはずだ。それは胸踊るような「革命」の夢とは違うかもしれないけれども、現にいま、私達の社会が共有すべき夢であるように思われる。
     
    筆者「情報化:日本社会は情報化の夢を見るか」前掲書
     私はなぜ西海岸へ向かうのか。それは「現にいま、私達の社会が共有すべき夢である」と断言するためであり、かつ、いまや日本社会だけではなく、国際社会全体が共有すべき夢となったからだ。その理由はのちに述べる。まずは、なぜ私が2017年3月上旬、アメリカ西海岸へフライトしたのか。その背景と経緯から述べることにしよう。
     
    * 


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