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今回より始まる新連載『考えるを考える』。あえて、テーマは設けず、僕、長谷川リョーが今一番会いたい人に話を伺っていきます。「会いたい」の基準は一つ。ただ情報を持っているだけではなく、思考をしている人です。第一回目にご登場いただくのは、貨幣論・情報化社会論を専門とする思想家であり、事業家の山口揚平さん。今回取材をさせていただいた僕とは東京大学大学院の同級生でした。
トランプが大統領に当選したとき、改めて気づかされたフィルターバブルの厚み。毎日のように誰かに取材をし、記事を書く私ですが、その営為は決定的にある情報系の枠内に限定されているのではないかと危惧を持つようになりました。それ以来、「そもそも」と考えるメタ思考の重要性について考える機会が増えています。
「20代から本や新聞を読むのを止めた」という山口さんにお話を伺うため、今回は軽井沢のご自宅へ。情報と思考の違い、シングルイシューの見つけ方、お金よりも大切なクレジットとクリエイティビティの育み方まで、普段なかなか議論することの少ない抽象的な問いに答えていただきました。

長谷川 日本のような成熟した先進国の場合、社会問題が複雑化していますよね。働き方がどうとか、子育てがどうとか。一方で、発展途上国の場合は、「明日食べる米がないこと」がシングルイシューになります。本日はシングルイシューを見定めるための視座や、考えることについて考えるメタ思考についてお話を伺えればと考えています。

山口 たしかに、日本における問題は有機的なのでシングルイシューを特定するのは難しいですね。でも本質にメスをいれれば問題は氷解します。いずれにしてもまずは、問題に切り込む強い視点を持つことが重要でしょう。そこから広範に広げてゆく。僕の場合は、大学に入る前から「お金とは何か?」、つまり貨幣論について考えてきました。7年ほどかけて書き上げたのが、『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』です。

経済のツールである「お金」を切り口に、「社会とはなにか?」、「テクノロジーとはなにか?」、「人間とはなにか?」を辿って行きました。自分が関心を持っているものから周辺のテーマを見通し、多面的に捉えていくことで、同じ現象もいろんな角度から入っていけるはずです。なので、入り口はなんでも良いと思います。

長谷川 ご自身のキャリアも「お金」に密接に関わるものですよね?

山口 はい。20代の頃はコンサルティング会社でM&Aの仕事をやっていました。その当時のコンサルティング会社は今の業務改革や統計解析とは違い、情報や知恵を売るのではなく、「考えること」を提供していたんです。いわば、たった一つの本質解を出すための「思考労働者」。この頃に「考えることについて」すごく考えました。それが今につながる根本的な自分の哲学につながっています。

M&Aをやるということは、会社を丸ごと見なくてはいけません。しかも限られた時間で。会社には人事、財務、税務、プロダクト、歴史があり、複合的な存在です。それら全てを俯瞰的に見通した上で、その会社を動かす本質を特定するのがM&Aのもっとも重要な仕事でした。てこの原理のように、本質に小さな力を加えることがもっとも生産性が高まることをこのときに理解したんですね。

よく、「PDCA(plan-do-check-act)」といいますよね。このなかで、9.5割重要なのは「Plan(計画)」です。残りの0.5が「Action(実行)」。M&Aの場合は、一度しかAction(実行)のボタンを押しません。このボタンのことを「ホットボタン」や「コアバリュー」といい、そのボタンを的確に押すために有機的なつながりの中から本質を特定するのです。ですから3ヶ月の仕事のなかで、2.5ヶ月以上は情報調査やインタビューをやりながらも、頭の中では考えごとをしていましたね。


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