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本誌編集長・宇野常寛による連載『汎イメージ論 中間のものたちと秩序なきピースのゆくえ』。この展示会に「境界のない世界」をテーマに選んだ理由を、チームラボ・代表の猪子寿之さんはこう語ります。「そこが2017年のロンドンだったから」ーーその言葉の意味を解説します。(初出:『小説トリッパー』 秋号 2017年 9/30 号

2 群鳥はロンドンに飛んだ

 二〇一七年一月から三月、チームラボはイギリス・ロンドンで「teamLab: Transcending Boundaries」と題した展示会を行った。このときのチームラボの展示は(彼らのものとしては)決して大規模なものではなかったが、同展は大きな驚きを持って迎えられた。

 たとえば前述の〈ウォール・ストリート・ジャーナル〉(二〇一七年一月九日号)は、「The Top Selfie-Worthy Museum Shows of 2017」という記事で、当時まだ開催中だったこのロンドン展「teamLab: Transcending Boundaries」を草間彌生や村上隆と並べて選出した。このときチームラボはロンドンで発行される同誌の雑誌版の表紙も飾ったという。(4)

 同展のコンセプトは「境界のない世界」だ。

 たとえば同展の中心をなすもっとも大きな展示室では、展示されている七つのまったく異なる作品の間を、蝶のグラフィックが横断しながら飛び交っていく。この蝶たちは単に作品間を横断するだけでなく、それぞれの作品の状態に影響を受ける。たとえばある作品の中で花が咲いていれば、そこに集まる。さらにこの蝶たちは常に鑑賞者の存在の干渉を受ける存在でもある。蝶たちは鑑賞者の足元から発生し、そして飛び立っていく。鑑賞者が蝶のグラフィックに触れるとその身体は四散し、死ぬ。

 そう、ここでは様々な境界が同時に無効化されている。

 まず、蝶が作品間を横断することによって、作品と作品、事物と事物との境界が曖昧になる。そして鑑賞者の存在が蝶の生死に関与することで、人間と作品、人間と事物との境界も曖昧化することになる。

 そして別室に展示された〈Flowers Bloom on People〉では、これに加えて人間間の境界が曖昧になっていく。この展示は一見、ただの暗室だ。そこに鑑賞者が入室すると、その身体に花(のグラフィック)が咲き(投影され)はじめる。そして鑑賞者の身体に咲いた花たちは、近くにいる別の鑑賞者に向けて広がり、足元の花々がつながっていく。こうして、同作は鑑賞者同士の境界をも曖昧にしようとしていく。

 なぜ「境界のない世界」をつくりあげたのか。答えは明白だ。猪子は言う、「そこが二〇一七年のロンドンだったから」だ、と。


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