不動産プランナーの岸本千佳さんによる連載『都市を再編集する』。今回は実際にひとつの建物のリノベーションを通して、街の課題を解決に挑戦した例を紹介していただきます。線路脇で電車音のうるさいボロボロの木造アパートが、クリエイターのためのアトリエへ、その変貌は周囲の人や街全体へと変化を及ぼしていきます。
ボロボロの木賃アパートをいかにリノベするか
不動産プランナーの岸本千佳です。連載第1回では、不動産プランナーという仕事がどのようなものなのか、また、私が働いている京都という都市が直面している課題について、ご説明しました。
今回は不動産を通じて街の課題を解決する。その解の一つを見てもらいましょう。
相談のあった物件は線路沿いの木賃アパート。オーナーさんは少年時代に、隣にある一戸建ての住宅に家族で住んでおり、木賃アパートに入居していた家族の子供達と一緒によく線路で遊んでいたという思い出深い場所。ご自身は結婚を機に別の家に住むことになりこの地域を離れました。その後、ご両親が亡くなられて以降空き家となっていました。
▲複数の線路と並んで建つ木造アパートが、今回の案件。
場所は京都駅から徒歩10分、エリアに際立った特色のない空白地帯に建つボロボロの木賃アパートです。
全8室の風呂無しアパートは、線路の真横に建っています。そのため電車音が激しく、住むにはなかなか厳しい状況です。前面道路はとても狭く、建物を撤去したとしても駐車場として利用できない。ひいては建て替えも難しい。
ただ、良いところもありました。建物は昭和感の雰囲気が漂い、2000年代初めに放送された小林聡美が主演のテレビドラマ『すいか』に出てきそうな階段。場所も色がないと言えばそうのですが、個性的な街が連なる京都市内中心部とは対照的に、この「色がない」という余白が逆に街の魅力的とも捉えられるのです。
予算も限られたなか、この条件をどう調理するか。ここで私は、大きな弱点でもある「電車音がうるさい」という絶対的な負の条件を逆手に取って、「音を出せるシェアアトリエ」としてリノベーションしたのです! まさに、“音がうるさい”から“音を出せる”へ、発想の転換です。
こうして、京都駅発クリエーターのためのプラットフォーム「SOSAK KYOTO」が誕生しました。
▲シェアアトリエSOSAK KYOTOの玄関。ブロック塀を使って玄関サインを作った。
▲各区画の室内。アトリエに必要な設えを最低限施し、改装自由で貸し出している。