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今朝のPLANETSアーカイブスは、レゴ認定プロビルダー・三井淳平氏のインタビューです。世界で13人目、日本人初のレゴ認定プロビルダーである三井さん。レゴの世界に魅せられたきっかけや、レゴビルディングにおける微分派・積分派という流派の違い、日本画とレゴの意外な関係性などについて、お話を伺いました。(司会・構成:池田明季哉) ※この記事は2014年11月14日に配信した記事の再配信です。

■微分と積分、見立てと積層 

宇野 僕は最近レゴがすごく面白いなと思って、子供の頃以来にキットを買って作っているんですが、今年はレゴがすごく大人に注目されている一年だと思うんです。『LEGO ムービー』も公開されましたし、『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』という書籍が翻訳されてビジネスマンの間で盛り上がりました。

でもその現状に対して、ひとりのレゴファンとして不満もあるんです。『LEGO ムービー』はすごく大好きな映画で傑作だと思っているんですがあの映画の中核にあるのは、言ってみればレゴを取り巻く状況に存在するイデオロギー対立ですよね。レゴをめぐる「思想」に焦点を当てている。そして書籍の方は「最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理」というサブタイトルがついていて、ビジネスとしておもちゃメーカーが頑張った話に終始している。

もちろん、そういった視点も興味深いのだけど、個人的にはレゴブロック自体の魅力や、組み立ての魅力に踏み込んだ議論があまりないことが不満だったんです。そこで世界で13人目、日本初のレゴ認定プロビルダーである三井さんに、そうしたところも含めていろいろお話を聞こうと思ってお呼びしました。今日はよろしくお願いいたします。

三井 ありがとうございます。よろしくお願いします。

――まずは三井さんの作品作りについてお伺いしていきたいと思います。三井さんはいろいろな作品を作っていますよね。一番最初にレゴに興味を持ったきっかけはなんなんですか。

三井 小さいときからずっと遊んではいたんですが、本格的なものを作ろうと思ったのは、中学生くらいのときにインターネットで作品を見たのがきっかけです。ブロックをたくさん使って模型に近いようなものを作っている人がいたんですね。それが大人としてのレゴのはじまりです。

――模型に近いような、ということは、精巧さに感動したということでしょうか。

三井 精巧さももちろんそうなんですが、発色の感じとか、敢えてデジタルな感じとか、素材をさらに面白く見せることができるという印象を持ったんです。

――言わば大人のレゴとしての最初の作品は何を作ったんですか。

三井 戦艦大和の小さい模型ですね。

――戦艦大和のどこに魅力を感じて選んだのでしょう。

三井 やはり形が魅力的だったことが大きかったです。機能美と言いますか、洗練された使いやすさや性能を求めた結果、形が綺麗になっていくものに面白さを感じていて。いくつか候補はあったんですけども、戦艦大和の形は、ぜひレゴで表現したいと思いました。しかもまだ誰も手をつけていなかったので、これは作りたいなと思ったんです。

――それからどんどんレゴビルディングをしていくことになるわけですね。一番最初にレゴで周りに認められたのは、どういった作品だったのでしょうか。

三井 それも戦艦大和で、6m近くある巨大なものを、マンションの一室をまるまる使って作りました。レゴファンが画像をアップする「ブリックシェルフ」というサイトがあるのですが、そこにアップしたらランキングに乗ったりして、海外の方にもたくさん見ていただきました。
 
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――僕もレゴは昔からすごく好きで、三井さんの作品もたくさん見てきたのですが、他のレゴビルダーさんと違う独自の世界観や方法論があると思ったんです。ご自分では、レゴビルダー三井淳平の作品の特徴は、どのようなものだと思われますか。

三井 できるだけ基礎的なブロックを使っているところでしょうね。カーブしているパーツとか、ある程度形が出来上がっているパーツは使わないようにしています。表現がちょっと極端になっても、そこは基礎パーツを使って表現したいという思いがあります。

――なるほど。三井さんの限定されたピースで作るという作風が、レゴの魅力とマッチして素晴らしいものになっているんですね。どうしてそういった手法に辿り着いたのでしょう。

三井 辿り着いたと言えるかどうかわかりませんが、自分の中で整理されるきっかけになったのは、日本の方が作ったスヌーピーのモデルを見たことです。その方はウェブサイトを運営していて、制作過程も全部掲載されていたんですね。そこで紹介されていたのは、レゴを形作るとき断面を意識して重ねていくという手法で、「積分モデル」という表現がされていました。自分も断面図を常に意識して、断面を縦からも横からもCTスキャンのように積み重ねていく手法を使っていたので、それが「積分」という形で整理されたという経験はありました。
 
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▲こちらも三井氏による球体の制作動画。さまざまな方向に積層したパーツを最終的にひとつにまとめている
 
宇野 僕は模型も好きなんですけど、コンピュータ上で3Dデータを使って設計したり、固まりから原型を削りだすような手法ではそういった発想にならないはずですよね。僕はレゴだからこそ表現できる快楽は、リアルなモデルとは別にある気がするんです。レゴと他の立体物は、どう決定的に違うと思われますか。

三井 いくつか要素はありますね。ひとつはさきほど言いました、積分的な手法です。粘土だと全く同じものを作るのは指先の器用さがかなり必要ですが、レゴの場合はコピーを作ろうと思えば簡単に作れます。特にブロックを積み重ねる積分型の作品の場合、形状の再現性が高いんです。だから試行錯誤がしやすいというのが大切です。断面を意識しながら形を作るという方法に、レゴが最も合っている部分ですね。

これとは別に、見立てによって対象を近似的に置き換えていくという作業も出てきます。これは言わば微分的な手法と言えます。対象を細かく分解して、それぞれの部分を最も合ったパーツで置き換えていくわけですね。さらにパーツ同士を組み合わせて、このパーツとこのパーツを組み合わせればこうなる、というパターンがある程度あって、あとはそれを空間的に配置していく、というイメージです。これもレゴの再現性に関わる良い部分だと思います。

――なるほど、レゴのユニークさには、単位を積み重ねて行く積分的な手法によるものと、細部に分解していく微分的な手法によるものがあると。この積分的な作り方と微分的な作り方というのは、結構はっきり分かれるものなんですか?

三井 はい、これは結構はっきり分かれています。ビルダーもふたつの方向にだいたい分かれていますね。

宇野 以前カーデザイナーの根津さんとレゴについて対談したときに、「レゴというのはディフォルメと見立てだ」という話をしたんです。そのときには、今三井さんがおっしゃったような、積分的な手法と微分的な手法のふたつをあまり厳密に区別していなかった。でも今日お話を聞くと、明確にふたつの対立した流派があるということですね。北斗神拳と南斗聖拳みたいな(笑)。
 
 
三井 そうですね(笑)。積分派というのは、作りたい対象を機械処理的に分析していくところがあります。使うブロックも基礎ブロックが中心です。対して微分派の人はパーツありきで始めます。このパーツはこういうカーブを描いているから、このカーブと言えばエイリアンの映画に出てきたエイリアンの頭の形だな、みたいなそういう発想になっています。だからパーツも、特殊なパーツを多く使う傾向があります。

宇野 つまり三井さんの属する積分派というのはレゴドットによる構造把握の面白さを出す、構造批評のような方に向かって行くと。対して微分派というのは対象の表層を別のものに近似していくことによって、ユニークな模型を作る方向であると言えるわけですね。どちらが多いとか少ないとかあるんですか?

三井 日本の住環境として狭いというのがあるので(笑)、積分派の方はひたすらにブロックを必要とするということもありまして、微分派がやや多いかもしれないですね。

――解像度を上げるためにはスケールが必要になってきますからね。

三井 解像度という意味では、実はスケールを大きくする以外にも、多次元的に積層を行うという方法もあるんです。普通は下から積み上げて行くのですが、ブロックの向きを縦にも横にも使っていくと、単に積み上げるのではないモデルを作ることができます。例えばホワイトタイガーはまさにその考え方で、多次元的な積層をした結果、動物の姿を作っているといった感じです。
 
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▲ホワイトタイガー。「TVチャンピオンレゴブロック王選手権2010」の番組内で制作。ブロックのポッチの部分が様々な方向を向いているのがわかる

ディフォルメの批評性――層の再構築

宇野 僕はレゴの魅力というのは、独特のディフォルメにもあると思うんです。三井さんはそれについてはどう思われますか。

三井 それは私も常日頃から感じているところです。対象をレゴのモデルとして構築していくときにディフォルメをしていくわけですが、その中で本質に近づく機会はいくつもあります。
例えば建築物だと「構造上この部分が芯になっている」という部分があります。こうしたキーになる部分をしっかり作ると、当然その部分が強調された作りになります。こうした鍵になる部分というのは、多くの場合対象物を外から見てもふんわりとしかわからないのですが、レゴにすることによってより明確になることがよくあります。

彫刻家の方がよく使われる表現ですけど、「人を考えるときにはまず骨格を考えて、それから形を作って行くとリアルなものが作れる」と言います。そこはレゴにも通じている部分があって、表面的な肉のつき方から入るのではなくて、骨格がこうなっているからこうなっているはずだ、というところから考えた上で作って行くと、非常に良いものができる、ということはあります。

宇野 これはとても大事な話だと思います。絵画や彫刻の場合は、あくまで表層にリアリティを出すために骨格を仮定しようということですよね。でもレゴはそもそも骨格を想定して構築しない限りモノができない。なぜなら構造がしっかりしていないと崩れ落ちてしまうからです。このふたつは似ているようだけれども、レゴの方が圧倒的にその条件に支配されている。レゴによる優れて批評的、本質的なディフォルメをするためには、積分的な思考によって構造というものを把握して再構築しないといけないということですよね。

三井 そうだと思います。私は実際に設計図というのは全く書きません。やるとしても自分でスケッチを描くくらいです。設計図を作ってしまうと、どうしてもそれを表面的にトレースする形になってしまうんです。そうではなく、表現したい頭の中のイメージに近づけていくようにしています。

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