宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。1月15日に放送されたvol.18のテーマは「不動産で都市を編集する」。不動産プランナーの岸本千佳さんをゲストに迎え、古い建物のリノベーションによって地域に変化を生み出す試みや、京都や和歌山といった地方都市の中心街に住人を呼び戻す、新しい取り組みについてお話を伺いました。(構成:籔 和馬)
宇野常寛 News X vol.18 「不動産で都市を編集する」
2019年1月15日放送
ゲスト:岸本千佳(不動産プランナー)
アシスタント:得能絵理子
宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。
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立地を考え、建物をリノベーションする
得能 NewsX火曜日、今日のゲストは不動産プランナー、岸本千佳さんです。岸本さんは京都生まれで、addSPICEという京都に拠点を置く会社の代表でもあります。宇野さんにとっても京都は馴染深い場所だと思うんですけども、接点はそのあたりからですか?
宇野 いや、そうではなくて、岸本さんは3年くらい前に著書『もし京都が東京だったらマップ』という本を出されていて、それを読んだのが初めて岸本さんを知ったきっかけなんですよね。その本では、京都の大宮は東京でいう赤羽というように、京都の地名を東京の地名で例えていて、東京に住んでいて京都に馴染みがない人に京都を親しみやすく説明する本として話題になっていたんですよ。若いけどどんな人なんだろうと思って検索してみると、京都でおもしろい取り組みをしていて、プロデュースしている建物にはリノベーションの物件が多いんですね。それも単に古民家を綺麗にしてカフェにしましたみたいな話だけではなくて、このエリアにはこういった建物を建てると、この街が位置付けていた文脈が変わるみたいなことをしっかりプロデュースされているんです。その取り組みで、地方都市や京都のような歴史のある街をプロデュースしていくのはおもしろいと思って、うちのメールマガジンに出てもらったり、紙の雑誌で取材したりして仕事をさせてもらっています。
得能 今日、岸本さんと一緒に考えるテーマは「不動産で都市を編集する」です。
宇野 土地や建物を通じて、どう街をプロデュースしていくのか。地方創生とか散々言われているじゃないですか。町おこしや文化をどうしようとか、ゆるキャラをつくるとか、伝統芸能を若い人に無理やりやらせてみるとか。あるいは、もうちょっと経済誌的な話で、グローカル戦略でベンチャー企業を誘致しましたとか、元々ある伝統工芸をちょっと外国に売ってみようとか、そういった話ではなくて、実際に僕たちが住んでいる空間を変えることによる町おこしを彼女はやっている。そういう視点から都市を、特に地方について議論してみたいなと思ってお呼びしました。
得能 今日もキーワードを三つ出していきます。まず一つ目は「不動産プランナーというお仕事」です。
宇野 岸本さんの肩書きの不動産プランナーってあまり耳慣れないじゃないですか。
岸本 自分で名づけたんです。
宇野 だから、検索しても、岸本さんしか出てこないんですよね。そのこと自体が岸本さんの活動のコンセプトをすごく表していると思う。そこから入っていきたいと思うんですね。
岸本 そもそも名づけようと思ったきっかけは、テレビに出たときに肩書をフリーランス不動産業と勝手につけられていて、これではまずいと思ったんです。それがすごく叩かれたりして、いろいろあったので、自分でつけたほうがいいなと思って、今の自分の仕事を形容した肩書きを考えて「不動産プランナー」にしました。
宇野 具体的にはどういうことをされているんですか?
岸本 建物のプロデュースなんですけど、建物を持っている大家さんから相談を丸投げにされて、お金のことなども考えながら企画を提案して、設計と工事を一緒にチームを組んで作って、借りる人を自分で見つけてきて、運営するという一連の流れをしています。設計や建築の人は作って終わりなんですが、私は使うところまで考えてやっています。
得能 めちゃくちゃ大変そうですね。ただ作って終わりではないんですね。
岸本 だから、関わっている期間は長いですね。
宇野 逆にそこまでやらないと、本当にコンセプチュアルな街づくり、建物を通した街づくりはたぶんできないんだと思うんだよね。
岸本 一貫して関わらないと、最初に考えたコンセプトがいつの間にか消えて、全然想定していなかった人が使っているようなことになるんです。それがこの仕事をしようと思ったきっかけではありますね。
宇野 設計事務所や建築業の人たちは作るところまでが自分の仕事で、運用はオーナーや実際にテナントに入った人におまかせいうことに、全部ではないかもしれないけど、結果的にどうしてもなっちゃう。アトリエを持っているような個人の設計事務所の人の中には、こういうふうに使ってほしいと希望を持ってつくる人も多いんだよ。でも、なかなかそこまで管理ができないし、逆に不動産屋はいかに坪単価を上げるか、坪あたりの家賃を上げるかしか考えていない。そのことが街の長期的なブランディングにどう影響するのかとか、どんなテナントさんを入れると、その建物の価値が最大化するのかを建っている場所や建物の特性を踏まえて考えるところまで、なかなか踏み込まないわけ。だから、リノベするところから出るところまで、ちゃんとしたコンセプトでやるのが今すごい必要。岸本さんはそれをやっているところにアドバンテージがあると思うんだよね。
岸本 出口を考えないといけませんからね。借りる人や使う人を見つけないと仕事のゴールがないんです。なので、エリアのことも考えて、絶対に需要があるものをつくらないといけない。そんなプレッシャーと日々戦っている感じですね。
得能 ほかに楽な道はたぶんあって、今やられているようなことをしなくてもいいのかなという気も勝手にしているんですけども、あえて苦労する道を進もうと思われたきっかけは何かあるんですか?
岸本 やっぱり建物を最初から最後まで見届けないとすっきりしないのと、みんなが使っている状態が自分の中の完成のイメージかなとなっています。ピカピカの建物が完成しましたというのは、自分の中の完成ではないなというのを前職のときに思っていて、それで仕事にしようかなと考えましたね。
宇野 ちなみに新築じゃなくて、リノベーションにこだわっているのは、どんな理由があるんですか?
岸本 こだわっているわけではないんですが、京都で仕事をすると建物を活かす仕事が多いのと、もともと京都で育っているので、昔ながらの建物を活かしたいという想いが自然と自分の中に備わっていた感じですね。
宇野 リノベーションは、それこそ十年ぐらい前から日本でブームになってきたじゃないですか。たとえば、東京でいうとセントラル・イースト・トーキョーとかですよね。東京の東側のオフィスビルはだんだん空き家になってきているから、そこをアーティスト・レジデンスみたいな感じでリノベしようという動きがあって。それがどこまで成功したかは横に置いておいてね。そういったリノベブームがどんどん地方に波及していっていると思うんですよ。その中で自分の仕事をどう位置づけているんですか?
岸本 そういうリノベーションのブームが日本にあって、次に第二波、宇野さんはよく「リノベ第二世代」というんですけど。それで考えることとしては、やっぱりただひとつの建物を綺麗に素敵にすればいいというよりは、今後そのエリアをどうにかしていくためのアイテム、不動産やリノベーションを手段として街をつくっていくのに使えたらなという気持ちでやっていますね。
宇野 初期のリノベーションは、バブルの贖罪だったと僕は思うんですよね。自分たちが作っては壊しをやりすぎてしまったと。そこでリノベーションという武器を手に入れることで、街への視線を切り替えてみようという運動だったと。ただ岸本さん世代は、そこと似ているようでちょっと違っていて、やっぱり最初に地域ありきで、自分たちが好きな地域のエリアのアドバンテージを活かすために手を入れていこうという発想なんだよ。そこには街にコミットメントする動機のレベルで差があると思うんですよ。
岸本 最近は街に対して抱いている課題などを圧倒的な企画書としてつくっていて、物件がきたら、それに当て込むことをやっていますね。
宇野 やっぱり最初にエリアありきなんですね。
岸本 だから、そこで考えていることを建物で表現する、そのアウトプットのかたちとして不動産は使えるんじゃないかなと最近思っています。
リノベーション建築で「京都らしさ」を取り戻す
得能 次のキーワードは「これからの京都の話をしよう」です。