宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。2月19日に放送されたvol.22のテーマは「エストニアの現在」。ハーバード・ビジネス・レビュー編集部の小島健志さんをゲストに迎え、東欧の小国でありながら、世界最先端の電子国家として注目を集めるエストニアの実態についてお話を聞きました。(構成 籔 和馬)
宇野常寛 News X vol.22 「エストニアの現在」
201年2月19日放送
ゲスト 小島健志(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部)
アシスタント 得能絵理子
宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。
番組公式ページ
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エストニアの電子政府、その成功の理由
得能 NewsX火曜日、今日のゲストはハーバード・ビジネス・レビュー編集部の小島健志さんです。小島さんは週刊ダイヤモンドを経て、今の編集部へ移られたとのことなんですが、これまでにどういう取材をされてきたんですか?
小島 エネルギー関係から証券、金融、最後のほうはITやデータ分析を担当していました。そのときに、孫泰蔵さんの連載を担当しておりました。
得能 宇野さんとはどのようにしてお知り合いになられたんですか?
宇野 今は会場の都合でなくなっちゃっているんだけど、個人的な勉強会を去年までやっていたんですよ。小島さんはその勉強会に参加されていて、そこで知り合った感じですね。
得能 小島さんと今日考えるテーマは「エストニアの現在」です。宇野さんが小島さんを呼ばれた理由は何ですか?
宇野 小島さんが年末に出された『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』という本がすごくうまくまとまっていて、僕も非常に勉強になった。なので、著者の小島さんをお招きして、日本はエストニアから何を持ち帰るのかを正面から議論していきたいと思っています。
▲ 『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』
得能 今日もキーワードを三つ出していきます。まず一つ目は「エストニアのここがすごい」です。
宇野 エストニアは数年前から電子政府がうまくいっている。なんでこれが日本でできないんだと思う。エストニアがあたかも理想郷のように紹介されているわけじゃん。実際にエストニアは多くの成果を出しているんだけど、噂がひとり歩きしちゃっているところもあると思うんだよね。そこで、すごく時間とお金もかけて取材された小島さんに、まずエストニアとはなんなのかを教えてもらいたい。だって、僕らが子どもの頃、エストニアを含むバルト三国は小国の代名詞だったじゃないですか。僕がエストニアを最初に認知したのはソ連が崩壊していくときでした。ソ連から最初に離脱したのが、バルト三国だったのね。そういう印象だったところが、こんなに世界中から注目を浴びるような国になるとは本当に思っていなかった。エストニアの奇跡の要点を、小島さんに教えてもらうことから議論を始めたいと思うんです。
小島 エストニアというと、こういう『ドラゴンクエスト』の町のような非常に美しい牧歌的なイメージがありますよね。
宇野 ロシアンテイストというよりは北欧テイストに見えますね。
小島 まさに文化圏が北欧ですからね。
小島 エストニアをご存知じゃない方も多いと思うので、基本的な情報をまとめました。特に注目すべき点は、人口が130万人なんです。
宇野 130万人って福岡の人口くらい?
小島 福岡の人口と同じくらいですね。面積も九州ぐらいの国家なんです。だから、日本の地方自治体と同じぐらいの面積と人口の国と言えます。電子国家としてエストニアは非常に有名で、「enter e-estonia」という言葉を使っております。それは電子政府ということなんですけど、99パーセントの行政手続きがすべてオンラインでできるということが今起きています。私が聞いて驚いたのが、子どもが生まれたとき、日本だとお母さんとお父さんが出生届を出しに行くと、いろいろな助成制度の手続きのために列をなして2〜3時間待っても全部終わらないですよね。それがエストニアだと、病院側が国民番号を交付してくれます。システムがつないであって、生まれた瞬間に番号が発行されて、もうその瞬間に手続きがほぼ終わっている状況になります。だから、基本的に列をなしたり、行政手続きに並ぶことはないんですね。特に確定申告のシーズンをこれから迎えますけども、それも15分くらいチェックするだけで終わってしまうんです。
得能 日本の場合だと、列ができますもんね。
小島 あれは大変じゃないですか。それが一瞬で終わってしまうのが、非常に優れていると言われています。私も実際見させてもらったんですけども、カードをつないで、ポータルサイトの画面にいって、そこで手続きをすることで、車の所有権移転なんかも1分あれば終わるんですね。もし、これを日本でやろうとすると、陸運局に行って、もしくはそれを誰かに頼まなきゃいけない。下手したら、半日から一日かかるんですが、それも一瞬で終わる、という仕組みができております。
小島 こちらに歴史をまとめましたけど、91年に独立を回復して以来、ITで国を興すことで、バンキングから電子化をどんどん進めています。アイボーティングで、選挙もIDとカードがあれば、どこでもできます。世界中で自分たちの自治体の選挙ができるようになっています。イーヘルスは、電子医療システムですね。これが稼働したことで、処方箋がいらなくなったんです。普通だったら、病院に行って、診察券を出して、処方箋を出してもらって、薬局に並びますよね。それがデータ化されているので、予約をして、薬出してくださいと言うと、データで全部飛ばすんですね。そうすると薬局にデータがすでにつないであるので、病院での会計待ちがなくて、そのまま薬局に入っていけます。だから、病院での待ち時間はほとんどないと聞きますね。ポイントは、IDに電子署名という暗号化されたサイン機能が入っていることです。銀行のカードも、健康保険証も、車の処方箋も、定期券も一枚のカードでできます。SUICAと運転免許と保険証がセットになっているような感じですね。今モバイルでもできるので、オンラインバンクですから、現金もいらないんですね。世界中のどこにいても、オンラインなので、別にどこからでもできるんですね。それを行政サービスで支えているのが、非常に優れていると言われています。
得能 カード1枚ですむのはいいですね。でも、私はカードをなくしがちなので、なくしたら大変そうと思ってしまいます。
小島 IDとパスワードを覚えていれば、カードを意識しなくてもいいんですよ。PINコードというんですけど、それをちゃんと持っていれば大丈夫です。
宇野 カードそのものになにかの情報が入っているんじゃないんですよね。
小島 アクセス権なので、そういう心配もないんです。
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