宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。4月9日に放送されたvol.30のテーマは「これからのクリエイターの育て方」。株式会社コルクの佐渡島庸平さんをゲストに迎えて、「自分の物語」が中心になった時代にコンテンツは何ができるのか。マスメディアではなくコミュニティと繋がって生きる新しいクリエイターのあり方について考えます。(構成:佐藤雄)
NewsX vol.30 「これからのクリエイターの育て方」
2019年4月9日放送
ゲスト:佐渡島庸平(株式会社コルク)
アシスタント:加藤るみ
宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。
番組公式ページ
dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
日本のマンガはもう売れない! 今必要な「エンタメのIT化」とは?
加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは株式会社コルク代表の佐渡島庸平さんです。佐渡島さんと宇野さんはどこでお知り合いになったんですか?
佐渡島 私が独立してから会いました。宇野さんのイベントによく呼んでもらっています。
宇野 PLANETSを見てくれている人には常連になっていますね。
加藤 佐渡島さんのコルクという会社を簡単に説明いただけますでしょうか。
佐渡島 もともと僕は講談社で編集者をやってたんです。アメリカだとクリエイターはエージェント会社と契約していることが多くて、エージェントはクリエイター側に立ってどういう戦略を練れば良いか考える仕組みがあるんですが、日本ではまだ数少ないのです。作家は全部自分で出版社と交渉しなきゃいけないんですよね。だから日本では実質的に作家は出版社と交渉ができない存在だったんです。そこを世界基準に合わせたほうが良いなって思って、クリエイターのエージェント会社を作った感じですね。
加藤 今日のテーマはこちら「これからのクリエイターの育て方」です。
宇野 僕はコルクがやっていることは大きく分けて2つあると思う。自分も書き手だからよくわかるんだけど、日本は圧倒的に作家の立場が弱い国。そこに作家のエージェントという文化を入れることで作家の権利をしっかり保護するシステムを日本に根付かせるのが最初のミッション。もうひとつが、インターネットの登場によって根本的に世界中の文化産業の仕組みが揺らいでいる。従来の出版ビジネスや放送ビジネスが成り立たない時代にどう作家と作品を守っていくのか。そのための新しい仕組みづくりが必要で、そこに挑戦している。それが第二のミッション。外から見ると今は第二のミッションの比重のほうが大きくなっていると思う。
佐渡島 たとえばテレビ業界で働いていて、ニュース番組を作っている人がいるとします。田舎に戻って、親戚のおばちゃんに「テレビ業界で働いてるならドラマ作れるでしょ。ちょっと家族ドラマ撮って」みたいなことを言われる。同じテレビでもニュースとドラマは違うし、同じドラマでもテレビドラマと映画では脚本のルールや映像の撮り方が違う。ほんの少しメディアが変わるだけで文法が全然変わるんです。マンガ文化も貸本が雑誌連載になったことで、マンガの描き方はすごく変わっていってた。さらに、今まで紙の本で楽しんでいたものがスマホで読むものに変わってきた。メディアが変わると絶対に中のコンテンツの在り方も変わるはずなんですよ。
中国ではそれがすごくうまく変わりだしています。5〜6年前の中国では日本の海賊版マンガを無料で読めるマンガアプリが500万ダウンロード近くあったんですよ。日本人の感覚だと、それだけ読まれていたら日本のマンガが輸出できないって考えるんですけど、中国の人口で考えると500万ダウンロードは少なすぎて投資に値しないんです。中国人マンガ家のチェン・アンニーという人が自分で「快看漫画(クァイカンマンホア)」というマンガアプリ作っているんですけど、それが今どれくらいダウンロードされているか知っていますか?
宇野 500万よりは多いってことですよね。2000万とか?
佐渡島 1億4000万ダウンロードになります。MUU(マンスリーユニークユーザー)は4000万人いて、掲載されている漫画は全部縦スクロールなんですよ。4〜5年前に中国の会社との交渉に日本のマンガを持っていくと一応は買ってくれたんです。それが今、クァイカンと交渉すると「日本のマンガは誰も読まないので要らないです」って言われるんです。縦スクロールじゃないと誰も読まない。クァイカンは今1000人のマンガ家を抱えています。中国人は今は平均所得が上がってきてるので、むちゃくちゃ課金するんですよ。好きなマンガのためなら、日本人よりも所得の低い人が、それなりの価格帯でも全然課金する。中国人が無料じゃないと読まないなんてことは全然ないんです。
それに合わせて、日本のマンガも作り方や内容が変わっていかなきゃいけないんですが、日本の出版社のシステムがあまりにもうまくいきすぎていた。もちろん書店や出版社が潰れるようなことはもう起きてますけど、2000年からの約20年間、ほぼ右肩下がりの業界なのに大手出版社でまともなリストラがまだ起きてないのは、それだけ余裕のあった仕組みなんだと思います。非常に優れた仕組みの上で、まだマンガが売れていて、電子書籍市場もマンガに牽引されてどんどん大きくなっているという状況です。さらに日本ではほとんどの出版社が上場していないので、イノベーションのジレンマが起きまくっています。今ジャンプとマガジンがコラボをやってますけど、それは「マンガのIT化」が起きているだけで、僕らのところで起きなきゃいけないのは「エンタメのIT化」なんです。人材がまったく流出してないので、エンタメのIT化に挑戦しているクリエイティブを支える周辺人材がまったくいないんです。新しいクリエイターと一緒にそれを作っていくというのが、今僕がやってることです。
加藤 本日のテーマにいきたいと思います。「クリエイターエージェント業について」。既にお話いただいてますが、もう少しお話いただければと思います。