現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。久しぶりの連載再開となる今回は、3月に通達された公務員の兼業・副業解禁について取り上げます。この動きの背景には、この20年の間に発達した官民の協働体制、民間の公益団体や社会事業家の献身的な活動がありました。
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
前回が2018年12月号でちょうど半年ほどお休みをいただいておりました。かなり忙しい部署に異動してしまったこともあり、体力と時間を確保するのがなかなか難しく、すみませんでした。元号も令和に改まりましたし、心機一転、頑張っていきたいと思いますので、またどうぞよろしくお願いいたします。
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さて、今回は、本年3月に内閣人事局が各省に通知した公務員の兼業・副業「解禁」について取り上げたいと思います。きっと皆様の中には、「これは公務員の働き方改革の話であって、一般社会、国民全体にとって直接は関係ない話だ」とお感じになる方もおられるかもしれません。しかし僕は、今回の公務員の兼業促進は、公務員個人や組織の生産性やライフワークバランスを改善する働き方改革の文脈よりもむしろ「小さな政府」を準備するための政策のひとつとしても捉えられるのではないかと思っています。
そしてその経緯や展開は、行政が担えなくなった公共領域を巡って、この約20年間、政府の表舞台・裏舞台で躍動してきた官民にまたがるリベラル・エリートたちの共闘ドラマの一幕として見てみても面白いのではないか、と思います。
「解禁」というよりは、基準の明確化
まず、公務員の兼業・副業について、何がどうなったか。多くの方がご存知と思いますが、国家公務員には国家公務員法第104条等が規定するとおり、兼業・副業への制限があります。
国家公務員法第104条(他の事業又は事務の関与制限)
「職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。」
素直に読むと、許可を得たなら兼業やってよさそうですよね。実際、昭和41年にもやってよい兼業の範囲に関する通知は出ていたのですが、相続した不動産の賃貸収入、原稿料、講演料といった、限られたケースの収入しか念頭に置かれていませんでした。それ以外の「報酬あり」かつ「定期的な労働」による兼業・副業は、どういう場合ならば許されるのか、これまで示されてきませんでした。
それが今回、非営利団体において、週8時間、月30時間を超えない範囲で、報酬(交通費等実費のほかにもらう分)も社会通念上相当と認められる額であれば貰ってよい、などというように、やってよい範囲の基準が示されました。もちろん、社会通念上相当の額っていくらだよ?というツッコミはあると思いますけど、業務内容や景気やご時勢によって変るので、まずはこう言っとくしかないんじゃないかな、と思います。
国家公務員のNPO兼業後押し 政府、許可基準を明確化 共同通信(2019年3月27日)
国家公務員の兼業について(概要)内閣官房内閣人事局(2019年3月)
内閣官房内閣人事局通知第225号 「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(通知)(2019年3月28日付)
いずれにせよ、NPO活動であれば「報酬」ももらってよい、という基準が示されたのは「職務専念義務=副業・兼業禁止=副収入一切ゼロ」が当然だと思われていた公務員業界において、非常に画期的だと思います。
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