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橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第13回 国債 ~国債は誰のものか。グラフの「註」を読み解く~
2020-01-21 07:00550pt
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回のテーマは「国債」です。国家予算の約3割を占める国債ですが、近年は海外投資家の保有比率が増えています。現在の国債価格は、マイナス金利政策の影響で上昇傾向にありますが、この保有比率の変化は、景気回復後の日本経済のファンダメンタルズに、大きな変化をもたらすことになるかもしれません。
(写真出典 Alice Pasqual on Unsplash)
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
そして、今更ですが、新年あけましておめでとうございます。本年もGQをよろしくお願いいたします。2017年12月が第1回で、その後拙著の刊行記念エッセイ全5回の連載を挟みつつではありますが、早いものでGQも3年目に突入です。これまでの12回を振り返ってみると、①EBPM、②水道法、③農業、④教育、⑤通商、⑥金融、⑦社会保障、⑧会計検査、⑨入国管理、⑩公務員人事、⑪SDGs、⑫防衛と、一応、各行政分野に万遍なく触れて来れた感じなのかなと思います。
また、当初は毎月の連載を目指していたのですが、昨年は業務の方が色々と詰まってしまいまして、だいたい2か月に1度くらいの投稿になってしまいました。書きたいことはたくさんあるのですが、体力、気力、時間といった条件を揃えるのがなかなか難しかったです。しかし、昨年末の人事異動で環境は改善したと思いますから、また気持ちも新たに令和の官報を解説していきたいと思います。
さて、まずは昨年11月、12月を振り返りますと、最後まで大きな出来事が目白押しでしたね。天皇即位のパレードや祝賀行事、東京オリンピックのマラソンの札幌開催決定、「桜を見る会」問題の紛糾(本当に立場上コメントが難しいです...)、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効回避、沢尻エリカ被告の覚せい剤所持、中曽根元首相の死去、ペシャワール会中村哲医師の死去、IRをめぐる収賄容疑、カルロス・ゴーン氏の逃亡などなど。海外では、アメリカとイランの緊張が高まり、両国のシビれる判断から戦争が一旦回避されたり、英下院総選挙の保守党勝利を受け今月末のEU離脱が確定したり、相変わらず激動の日々です。
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そんななか、いつものように、スポットの当たっていない重要な官報はないかなと検索しておりました。で、当初は、2019年11月の「農産物輸出促進法」の成立について取り上げようかなと、思いました。以前本稿でも取り上げたEUとのFTAとも非常に深く関連します。
橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第5回 通商 逆襲の自由貿易~日欧EPA~
EU等が求める、産地がどこかを証明したり、放射性物質の検査をクリアしていることを証明したりする「輸出証明書」を都道府県等が発行できるようにすることがポイントの一つですが、輸出証明書の発行の単位と、ブランド戦略の単位は、必ずしも同じではないのではないか、ということを論じようかと思ったのです。愛媛県産のミカンには愛媛県が、和歌山県産のミカンには和歌山県が、輸出証明書を発行するわけですが、大量注文に対応できるようにロットを確保するべく、小っちゃな産地でくくらないで「ジャパン・オレンジ」で売り出さないといけないのではないか、と。このことは以下の機会に「ミカンはワインに学ぶとよいのではないか。」という見出しで論じたことではあります。
橘宏樹「父性のユートピア」をあきらめない(『現役官僚の滞英日記』刊行記念エッセイ第三部・最終回)
しかし、年末、通常業務のなかで、とある統計の最新値を目にして、ちょっと驚いたことがありました。国債に関する、とある数値が、僕が記憶していた「大体この程度の数字だろう」という値よりも少し大きくなっていたのです。何かが直ちにどうである、というようなことは言えないのですが、なんというか、「地味にゾッとする」ものを感じたのです。とはいえ、国債という分野は、専門性も高く、議論百出で、ある種の機微にも触れるトピックですから、この感覚をお伝えするには言葉選びもなかなか慎重にしなくてはなりません。なので、GQで取り扱うのを一瞬、躊躇ったのですが、この「地味にゾっとした感触」を共有することこそがGQの本来の使命であろうとも思い直しまして、やはり今号で取り上げることにしました。折しも1月は通常国会が開催され令和2年度予算が審議されますから、GQ1月号としてもふさわしいと思われます。以下、そういう意味で、挑戦となります。
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橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第12回 韓国格下げが本質ではない~令和元年度「防衛白書」を読み解く~
2019-10-31 07:00550pt
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回は、令和元年版の防衛白書を読み解きます。日韓関係が冷え込む中、外交・防衛戦略上の韓国の重要度も格下げされたかに見える今回の白書ですが、その背景には、ASEANを中心にインド洋・太平洋を結ぶ巨大なビジョンが構想されているようです。
(写真出典 陸上自衛隊HPより)
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
まず、台風15号及び19号並びに間断ない豪雨によって被害を受けられた皆さまに謹んでお見舞い申し上げます。一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。また、豚コレラの猛威もなかなか収まらないのも心配です。他方で、ラグビーW杯での日本代表の躍進には大変に目覚しいものがありましたですよね。海外にルーツを持つ日本代表選手が躍動する姿は多くの日本人の目には新鮮に映ったことと思います。ちなみに僕は小さい頃からサッカーのラモス瑠偉選手が大好きだったこともあり、ソフトパワーとしてのサムライ魂がむしろ世界中に浸透していっている証拠を見たようにも感じていました。
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永田町・霞ヶ関にも大きな動きがありました。財務省は、2020年度一般会計予算の概算要求総額が104兆9998億円で過去最大になったと発表しました。高齢化による社会保障費の膨張などが主な原因です。僕の印象では、あまり大きく報道されなかった感がありますが、いかがでしょうか。そして、消費税率が8%から10%へと増えました。さらには第4次安倍第2次改造内閣の組閣。初入閣は13人にのぼり、各省の事務方も心機一転しています。小泉進次郎氏の環境相入りが特に注目を集め、就任後の各種発言ではこれまでにない困難に直面しています。そして、即位の礼です。休日となったこともあって、儀式の生中継に張り付いてい方々も多かったのではないでしょうか。分断や格差の時代、国民の統合の象徴としてのお役目は一層重くなっていくんだろうと思います。個人的には、テレビの前で、息をこらして紫色の幕が開くのを待ちながら、元号を定め、休日を設ける、「時」という至上のプラットフォームを左右する力は、大きいなあ、と感じたりしていました。ギリシャ神話でも、最高神ゼウスの枕詞(まくらことば)には「時の神クロノスの御子たるゼウス」と付されますね。ちなみに、枕詞と言えば、本稿にも大事にしている枕詞があります。「我が国の主権者たる国民」である僕たちという言い回しです。あくまでも国家経営の当事者である主権者が判断を行う上で大事な情報を届けるという点で、本稿はこの枕詞は強く意識しており、これからも繰り返し使っていきます。
さて、今号では、激動の9、10月を振り返るなかで、敢えて、「防衛」を扱いたいと思います。具体的には、2019年9月27日「令和元年版 防衛白書の閣議了承」を取り上げます。というのも、防衛白書とは、「わが国防衛の現状と課題及びその取組について広く内外への周知を図り、その理解を得ることを目的として毎年刊行」されるものですが、今年度版では、防衛協力国の紹介順において従来2番目だった韓国が4番目に移動していることについて、昨今の日韓関係の悪化と結びつけることだけで済ませてしまう報道が多過ぎると感じたからです。
韓国の重要度を引き下げ 安保協力で 令和元年版防衛白書(産経新聞 2019年9月27日)韓国の紹介順2→4番目に「降格」 防衛白書を閣議了承(朝日新聞 2019年9月27日)韓国との関係悪化を反映=防衛白書(時事ドットコム ニュース 2019年09月27日) (なお、日経のこの記事は僕が以下で書く内容に近いことにも触れています。)安保協力、距離感に変化 防衛白書 韓国後退、インドが浮上(日本経済新聞 2019年9月28日)
確かに、昨今の日韓関係の悪化は由々しいです。また、白書は、毎年出す書類なので、時事的な配慮をにじませたりと、細やかなメッセージの出し入れが行われたりします。しかし、日本国の主権者たる国民が、今年度版の防衛白書から読み取るべきメッセージは、「日韓関係の悪化が防衛白書にも反映された」という次元にとどまらない、もっと全然違うことだと僕は思います。踏み込んで言ってしまえば、日韓関係が良好であっても、今回、韓国の紹介順が下がっていた可能性はかなり高いのではないか、と思われます。
というのも、現在、とある巨大な、しかも、実は比較的長い経緯を有する構想に基づいて、日本の安全保障観のシフトが着々と進められています。外交上のスローガンにとどまらず、実体的な安全保障の次元にもその構想が反映されてきています。僕は、国民はこの構想の存在感を令和元年度防衛白書において確認することこそが重要だと思いました。 ではその安全保障観のシフトとは何でしょうか。以下、みなさんと一緒に情報をたぐってみたいと思います。
河野大臣の記者会見をよく聞く
まず、日韓関係と2位→4位の関係についてですが、河野防衛大臣は、白書発表時の記者会見で、
Q:韓国について伺います。本来友好的な書きぶりをするべき安全保障協力の章の中で、韓国については、昨年の国際観艦式での問題、レーダー照射問題、今年のGSOMIAの破棄など具体例を挙げた上で、韓国側の否定的な対応が防衛協力や防衛交流に影響を及ぼしている、と批判的・否定的な書きぶり(防衛白書366頁)になっています。このような書きぶりになった意図を教えてください。
という質問に対し、
A:事実を列挙しているということです。
と回答しています。
Q:防衛協力を進める国を紹介するコーナーにおいて、韓国を記載する順番が昨年2番だったのが、今年は4番になりました。その理由を教えてください。
という問いに対しては、
A:防衛大綱の順番に並べたということです。
と回答しています。
つまり、防衛白書の本文中では韓国をしっかり批判していても、それが安全保障パートナー国の紹介順を2番から4番に格下げした理由であるとまでは述べていません。理由は「防衛大綱の順番に並べたということ」であると述べています。なるほど。そうですか。では、防衛大綱を見てみましょう。
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橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第11回 SDGsのわかり方
2019-08-21 07:00550pt
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回は、最近メディアで目にすることが増えてきた「SDGs」がテーマです。日本では既に進めてきた取り組みと重複することもあり、特に反論もなく国を挙げて推進する構えですが、欧米ではその背景に複雑な政治的動きがあるようです。
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
またもやちょっと間が空いてしまいました。前回6月号以来、G20の大阪開催、韓国に対する輸出管理施策、参議院議員選挙(PLANETSファミリーの音喜多駿氏も当選おめでとうございました!)、ジャニー喜多川氏の逝去、京都アニメーションの放火事件、吉本興業の闇営業をめぐる一連の騒動、小泉進次郎議員と滝川クリステル氏の結婚、香港での空港封鎖デモなどの話題がメディアを席捲していました。
▲今週末の8月24日(土)PLANETS連載「中東で一番有名な日本人」でもおなじみ鷹鳥屋明氏をお呼びしたイベントをします!(詳細)学生は無料。PLANETS CLUBの皆様は割引があります!(詳細はfacebookグループの掲示板ご参照のこと。)好奇心だけで結構ですので、ぜひ聞きにいらしてください。
さて、今回は、ずばりSDGsを取り上げたいと思います。本年6月21日、持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合(第7回)が開催され、「拡大版SDGsアクションプラン2019」が決定されました。SDGsという単語はかなり日本社会でも浸透が進んだ印象があります。サステナブル・デベロップメント・ゴールズ。持続可能な開発目標。貧困撲滅とか環境保護とか男女平等とか、明らかに良いことがんがん進めていこうっていう世界的な運動でしょ?くらいの認識は共有されているのではないでしょうか。PLANETSファミリーのたかまつななさんも普及運動を推し進めておられますしね。レインボーカラーの輪っかのSDGsバッジをつけてる人は都内に限らず地方でも結構見かけます。
このままだと、地球と人類が滅びてしまいかねない、誰一人幸せから取り残さないために、全地球的にチカラを合わせて達成していかないといけないことがあるよね、というこの運動。解説ページは既にたくさんあります。僕はこちらのサイトなどがわかりやすいかなと思います。
イマココラボ SDGs総研 国連広報センター
そして、日本は今年、SDGsイヤーです。6月の大阪G20のテーマもSDGs。8月末の横浜でのアフリカ開発会議(TICAD)も当然SDGsがメイントピックになります。9月の国連サミット(HLPF:ハイレベル政治フォーラム)では、SDGsの進捗状況を首脳級が初めてフォローアップします。ちなみに、国内のリーダーシップは内閣直下に設けられた推進本部が担っており、国連マターなので、とりまとめは外務省が担当しています。(外務大臣は推進本部の副部長)
では、日本政府がSDGsのために具体的に何してるのか、という話になると、どうでしょうか。どのくらいの解像度で理解されているでしょうか。各省のHPで資料はたくさん出ています。ちょっとぐぐるだけでも、色々なキャンペーンや情報てんこ盛りPDFがたくさん出てきますね。最も根っこの資料となる「アクションプラン」も2018、2019とあるなあ、どこが違うんだろう、そんでもって、拡大版ってなんなんだよ、って感じじゃないでしょうか。(個人的には、同じ資料にどうしてもSociety5.0の話も混ざってくることが多いので、なんというか読んでいてキャパオーバーてしまいます…。)
本稿では、そんなSDGsと日本行政について、こうした資料の解説はしません。そのかわり、よそであまり書かれないけれど、主権者としての我々が知っておくべきではないかと僕が思う「SDGsのわかり方」について書きたいと思います。それは、SDGsとは、①行政そのものであること。②EBPMであること。③キャンペーンであること。の3つです。
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橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第10回 公務員の兼業促進と官民リベラル・エリート・ネットワークの思惑
2019-06-13 07:00550pt
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。久しぶりの連載再開となる今回は、3月に通達された公務員の兼業・副業解禁について取り上げます。この動きの背景には、この20年の間に発達した官民の協働体制、民間の公益団体や社会事業家の献身的な活動がありました。
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【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
前回が2018年12月号でちょうど半年ほどお休みをいただいておりました。かなり忙しい部署に異動してしまったこともあり、体力と時間を確保するのがなかなか難しく、すみませんでした。元号も令和に改まりましたし、心機一転、頑張っていきたいと思いますので、またどうぞよろしくお願いいたします。
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さて、今回は、本年3月に内閣人事局が各省に通知した公務員の兼業・副業「解禁」について取り上げたいと思います。きっと皆様の中には、「これは公務員の働き方改革の話であって、一般社会、国民全体にとって直接は関係ない話だ」とお感じになる方もおられるかもしれません。しかし僕は、今回の公務員の兼業促進は、公務員個人や組織の生産性やライフワークバランスを改善する働き方改革の文脈よりもむしろ「小さな政府」を準備するための政策のひとつとしても捉えられるのではないかと思っています。 そしてその経緯や展開は、行政が担えなくなった公共領域を巡って、この約20年間、政府の表舞台・裏舞台で躍動してきた官民にまたがるリベラル・エリートたちの共闘ドラマの一幕として見てみても面白いのではないか、と思います。
「解禁」というよりは、基準の明確化
まず、公務員の兼業・副業について、何がどうなったか。多くの方がご存知と思いますが、国家公務員には国家公務員法第104条等が規定するとおり、兼業・副業への制限があります。
国家公務員法第104条(他の事業又は事務の関与制限) 「職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。」
素直に読むと、許可を得たなら兼業やってよさそうですよね。実際、昭和41年にもやってよい兼業の範囲に関する通知は出ていたのですが、相続した不動産の賃貸収入、原稿料、講演料といった、限られたケースの収入しか念頭に置かれていませんでした。それ以外の「報酬あり」かつ「定期的な労働」による兼業・副業は、どういう場合ならば許されるのか、これまで示されてきませんでした。
それが今回、非営利団体において、週8時間、月30時間を超えない範囲で、報酬(交通費等実費のほかにもらう分)も社会通念上相当と認められる額であれば貰ってよい、などというように、やってよい範囲の基準が示されました。もちろん、社会通念上相当の額っていくらだよ?というツッコミはあると思いますけど、業務内容や景気やご時勢によって変るので、まずはこう言っとくしかないんじゃないかな、と思います。
国家公務員のNPO兼業後押し 政府、許可基準を明確化 共同通信(2019年3月27日)
国家公務員の兼業について(概要)内閣官房内閣人事局(2019年3月)
内閣官房内閣人事局通知第225号 「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(通知)(2019年3月28日付)
いずれにせよ、NPO活動であれば「報酬」ももらってよい、という基準が示されたのは「職務専念義務=副業・兼業禁止=副収入一切ゼロ」が当然だと思われていた公務員業界において、非常に画期的だと思います。
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橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第9回 入国管理 入管法改正を考える。3つの視点と国の器量
2019-01-10 07:00550pt
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回は2018年12月8日に成立した入管法改正を取り上げます。外国人労働者の受け入れについては、既にさまざまな議論が出揃っていますが、「共生」「生産性」「人材の質」という三つのポイントから、改めて整理します。
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
2018年11月はインパクトの大きい出来事が続いたように思います。まず2025年の大阪万博の決定。これでオリンピック後に不景気に陥ってしまうのではないか、という不安が和らいだとされます。他方で、そういう需要喚起で目先をごまかして根本的な問題解決がさらに先延ばしにされてしまうのではないか、という不安もさらに顕在化したとの声もあります。様々議論があるところだと思います。そしてカルロス・ゴーン氏の逮捕。報酬額に関して、有価証券報告書虚偽記載があったとのこと。捜査は続いています。国際社会でも大きなイベントがありました。米中間選挙では、下院では民主党が過半数となりました。共和党が過半数を占める上院と「ねじれ」ることになりました。「不安定になる」と報じる日本のメディアが多かったですが、一応、2000年代以降はねじれている時期の方が多かったという事実はおさえておきたいところです。パプアニューギニアで開催されたAPECでは、それぞれ自国中心主義的な貿易姿勢を強めるアメリカと中国の溝が埋まらず、首脳宣言が出せない異例の事態となりました。また、日本とロシアの首脳会談も開かれました。四島返還か二島返還か、北方領土問題に注目が集まっています。米中日ロの関係に大きな影響を与える事態が目白押しでした。
永田町・霞が関界隈では、臨時国会が開催されており、怒涛のごとく各種法案が成立していきました。本稿で取り上げたEUとの自由貿易協定が国会承認を受けて正式に発効しました。イギリスのEU離脱がもつれ、米中貿易摩擦が悪化するなか、さらに重要な意味を発揮していくことになるように思います。
橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第5回 通商 逆襲の自由貿易~日欧EPA~
さて、この連載では、本来重要なはずなのにあまり報道されていない官報にスポットをあてています。しかし、今回は、かなり十分に報道されているとは思いますが、あえて、入管法改正(出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律)について取り上げたいと思います。
出入国管理及び難民認定法 及び 法務省設置法 の一部を改正する法律の概要について(法務省)
入管法改正の経緯と内容については、見た限り、これらの解説が最も簡単でわかりやすいと思います。
5分でわかる入管法改正案|「なぜ今なのか?」「何が変わるのか?」2018年11月10日(おかんの給湯室)
入管法改正で何が変わるの?日本企業が直面する深刻な人手不足 2018年12月8日(外国人雇用就労センター)
また、この法改正の経緯については、非常に端的に言ってしまうと、
都市も地方も少子化で、圧倒的に人手不足だ。低賃金で単純労働の業種で特に深刻だ。このゾーンでは、これまで、技能実習生(日本で技術を学んだら母国に帰る人)と留学生を低賃金で働かせてしまっていた。だが人権上もよくないし持続可能ではない。なので、ちゃんと枠を新設しよう。条件満たした、ちゃんとした外国人労働者ならば、家族も連れて来れるようにしよう。賃金も日本人と同等にしよう。具体的な施策の中身はこれから考える。当然、各省とも連携が必要になっていくが、法務省が今後「総合調整」していく。
といった感じです。既に様々なメディアでも是非をめぐる議論は取り上げられました。どこの国の人が何万人来ているかといった統計も提出されましたし、各紙もたくさんの世論調査を行いました。 外国人受け入れについては、反対が賛成を圧倒的に上回る結果のものはなかったと言えるようで、「まあ、しょうがないよね」「てか、もう結構いるしね」という基調が滲んでいるように僕は思いました。
「時事通信の9月の世論調査で、外国人労働者の受け入れ拡大のため在留期間の上限を5年とする新たな在留資格を来年4月から導入する政府方針について聞いたところ、「賛成」は60.8%で、「反対」は25.4%だった。」(2018年9月14日 時事ドットコム)
「外国人労働者の受け入れ拡大に賛成が51%、反対は39%だった。」(2018年10月28日NNN・読売新聞)
「共同通信社が3、4両日に実施した全国電話世論調査によると、外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正案に賛成するとの回答は51.3%だった。反対は39.5%。」(2018年11月4日 共同通信)
「日本経済新聞社の23~25日の世論調査で、人手不足が深刻な分野に限って外国人労働者を5年間で最大34万5千人受け入れる政府の方針について聞いたところ、賛成は41%にとどまった。反対は47%だった。」(2018年11月25日 日経新聞)
「受け入れ拡大については賛成44%、反対46%に割れた。」(2018年12月29日 朝日新聞)
また、法案審議においては政府案に様々な批判も寄せられました。移民なのか、外国人労働者なのか、外国人材なのか、といった呼称の問題。受入れ見込み人数のデータ算出方法。技能実習生の失踪や人権侵害の反省。受け入れの各種施策の具体的な中身はほとんど未定であること。審議時間が短いまま採決したこと。そもそも供給不足の業種にちゃんとはまってくれるのか。人材の質は確保できるのか。などなど。いずれも重要な論点だと思います。
外国人労働力について (平成30年2月20日 内閣府)
【図解・政治】出入国管理法改正案をめぐる衆院本会議の論戦ポイント(2018年11月13日 時事ドットコムニュース)
参議院法務委員会(2018年12月5日)における移住連理事高谷幸の参考人意見陳述全文(移住者と連帯する全国ネットワーク)
このように、かなり注目が集まった本法案ですが、僕は、あまりにも多くの情報が飛び交ったことで、なんというか、逆に、今後の行方を注視していく上での俯瞰的な視座が見失わなれないかな、という問題意識を抱きました。改正法の問題点と、社会全体が外国人受け入れを考えていく上での留意点は、全く同じではありません。そこで、本稿では、現に増えている外国人の方々と、我々主権者がきちんと向き合っていくにあたって、何を考えていけばいいのか。今後の議論において、どこを見ていけばいいのか。視点というか視座というか、ポイントを僕なりに3点にしぼって指摘したいと思います。それはすなわち、共生の問題、生産性の問題、人材の質の問題です。
1. 共生の問題
既に日本には外国人労働者が約128万人います。東京でもコンビニの店員は8割近くがもう外国人のような気がします。一緒に暮らしています。では、同じマンションで隣に外国人が住んでいる方はおられますでしょうか。彼らは、町内会などの会合に出席するでしょうか。ゴミ出しのルールは守っているでしょうか。料理の香辛料などの匂いが強烈だったりしないでしょうか。夜中大音量の音楽をかけて、酔っ払ってダンスしていたりしないでしょうか。周囲で外国人が犯人の犯罪が増えていないでしょうか。そして、税金を納めているでしょうか。日本人が当たり前だと思っているルールを守らない外国人がいる場合、なんかこう、敵対心というか、排外心が育ってきてしまいます。そうした問題とも向き合っていかないといけないわけです。
在留資格「特定技能」とは|特定技能1号・2号の違いなど徹底解説します!(外国人雇用の教科書)
さらに、「特定技能2号」として認められれば、家族の帯同が可能です。配偶者やご両親なども日本語を覚えられるかどうか。なかなか難しい場合も多いように思われます。子供も連れてきて、地元の小学校などに編入した場合、日本語ができなくて、孤立していじめにあったりしないといいなと思いますし、また、日本語ができない子同士でずっとつるみ続けて、不良になっちゃったりしないといいなと思います。
ブラジルタウン・群馬県大泉町から考える「生活保護外国人」の現実(2018年11月30日 ダイヤモンドオンライン)
浜松市の外国人は約2万人、定住化の中で活躍する第2世代 浜松市の多文化共生の取り組み(5)共生の時代と浜松宣言(鈴木康友 浜松市長)
浜松NPOネットワークセンター【N-Pocket】 > 在住外国人との多文化共生
こうした外国人との共生の問題への対応においては、明らかに、地域に密着した市町村などの基礎自治体やNPO法人などの活動がカギになってくると思います。コミュニケーションの場をどのように設定するか。誰が窓口になるか。粘り強く対応していくのか。どういう地域に、どこの国の人が多くなるのか。状況や場合は様々で、きっと一括りにはできません。大勢のブラジル人が暮らす群馬県大泉町や静岡県浜松市など、ケーススタディも蓄積されています。
政府答弁では、法務省が司令塔として多文化共生を含めて「総合調整」を担うということになっています。法の所管という点ではそれはそうだと思うのですが、今後の施策の検討過程においては、特に地方六団体(全国知事会・全国市長会・全国町村会・全国都道府県議会議長会・全国市議会議長会・全国町村議会議長会)や総務省の、かなり積極的なコミットが必要になってくることは避けられないのではないかと思われます。なので、今後は、これらの関係者が本件についてどのような言動をとっていくかが要注目だと思います。
ちなみに、僕は、年に一度在邦外国人と日本人が100名以上集まって外国人と日本人の「共生」について議論する「トーキョー会議」というイベントの運営にかかわっています。これには昨年、我らが宇野常寛PLANETS編集長にも基調講演やパネルディスカッションに登壇していただきました。外国人向け住宅市場、コミュニティの場の創生、日本の人材採用の慣習、都市の国際化などについて議論しました。
▲前回のトーキョー会議の模様
「トーキョー会議2017」の報告
次回トーキョー会議は2019年1月14日(祝)に開かれます。開会挨拶には総務省出身の岡本全勝内閣参与・元復興庁事務次官が登壇します。基調講演には、外国人就職支援業者の第一人者、柴崎洋平氏(フォースバレー・コンシェルジュ株式会社代表取締役)、パネルディスカッションにはアクセンチュアの幹部など、非常に豪華で舌鋒鋭い論者が集います。本音トークが楽しみです。非常にホットな会になりそうです。日本語でも英語でもOKなので、皆様もぜひご参加ください。
第5回トーキョー会議(2019年1月14日)の詳細
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橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第8回 説明責任 狡猾な正義は、曖昧な恥の文化をハックできるか~平成29年度決算検査報告~
2018-11-27 07:00550pt
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回は「会計検査報告」について取り上げます。行政が正しく機能しているか、国民に代わって説明責任を問う会計検査院。公務員が恐れる機関でもありますが、一方で、その強大な権限を利用して組織内部の改革を進めようとする、志ある公務員もいるようです。
▲会計検査院長(代行)が総理に会計検査報告を手渡す様子。(2018年11月9日 首相官邸HPより)
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
2018年10月も色々な出来事がありました。本庶佑京都大学特別教授のノーベル医学生理学賞受賞はおめでたいニュースでした。シリアで拘束されていたフリージャーナリスト安田純平氏の解放に際しては「自己責任論」で世論が割れたりしました。国際社会では、ブラジル大統領選では極右のボルソナロ氏が当選、トランプ大統領は中距離核兵器撤廃条約から離脱と、大国の右傾化傾向は引き続き世界に不安感を与えているように報道されています。 永田町では、第4次安倍内閣が発足。2019年10月からの消費税増税が明言されました。これに歩調を合わせるように、日銀総裁も消費税増税が景気に与える影響について条件付きながら楽観論を表明しました。10月24日に召集された第197回臨時国会の、総理所信表明演説では、社会保障の「全世代型化」などについて語られました。そして、審議される法案の一本目には、外国人労働者の受け入れ拡大に関する法案が上がってきています。
ちなみに、僕は、年に一度在邦外国人と日本人が100名以上集まって外国人と日本人の「共生」について議論する「トーキョー会議」というイベントの運営にかかわっています。これには昨年、我らが宇野常寛PLANETS編集長にも基調講演やパネルディスカッションに登壇していただきました。外国人向け住宅市場、コミュニティの場の創生、日本の人材採用の慣習、都市の国際化などについて議論しました。
「トーキョー会議2017」開催のご報告
次回トーキョー会議は2019年1月14日(祝)に開かれるようですが、この外国人受け入れ拡大法案をめぐる審議と相まって非常にホットな会になりそうです。日本語でも英語でもOKなので、皆様もぜひご参加ください。
一方、霞が関では、毎年この時期、各省にとっては正直あまり楽しくはないニュースが、毎日のように発信されます。何でしょうか。そう、会計検査報告です。最近「税金の無駄遣い〇〇億円、会計検査院の指摘」といった見出しのニュースを目にした方も多いのではないでしょうか。
税金の無駄遣い1156億円 指摘件数は過去10年で最少 会計検査院の決算報告(産経新聞2018年11月9日)
国立病院機構運営65病院が経営悪化、改善計画達成できず...会計検査院指摘(読売新聞 2018年11月11日)
鳥インフルのワクチン代、3千万円過大 検査院試算(日経新聞2018年10月29日)
会計検査院調査高校奨学金代理受領12府県制度化せず(毎日新聞2018年10月23日)
2億円超かけたデータベース、中身すかすか 検査院指摘(朝日新聞2018年10月15日)
などなど、ずらり。
会計検査報告とは、会計検査院という役所が、行政のパフォーマンスを独立中立の立場からチェックした結果をまとめたものです。内閣はこれを決算に添えて国会に提出します。換言すると「平成29年度予算が適切に用いられているか調べたところ、こういうマズい点がありましたよ」ということを国会と国民に直接報告するシステムなのです。
決算検査報告とは(会計検査院ウェブサイト)
毎年10月頃になると、ぽつりぽつりと発表され、11月初旬には、それらをとりまとめた分厚い書類を会計検査院長が総理に手渡しする様子が報道されます。冒頭の写真がそれです。 また、今年は特に、森友問題の関連でメディアに出てきたことも多かったように思います。「なぜあんなに値引きされたのか調べろ」と国会に要請され、一度調べて、「わからないことが多い」と報告したのですが「なら、もう一度よく調べろ」ということになり、今も調査しています。この問題は、財務省や総理夫人のスキャンダルとして報道されることが多いわけなのですが、会計検査院の検査報告の原文を直接読まれたことがある方はどのくらいおられるでしょうか。僕も今号を機に少し読みかじってみたところ、大部ではありますが、断片を読むだけでも、現地の具体的な状況のイメージが湧いてきました。
学校法人森友学園に対する国有地の売却等に関する会計検査の結果について(会計検査院ウェブサイト2017年11月22日)
森友、改ざん文書提出「法違反」検査院、国会に中間報告(共同通信2018年6月19日)
実は、この会計検査院、僕たち公務員にとってとは非常に「恐ろしい」存在です。なぜ恐ろしいのか。それは、以下で述べるように、会計検査院とその調査官が非常に強い権限を有しているからです。何をどのように検査するか(アジェンダ・セッティング)がほぼ完全に自由ですし、質問は予測し切れません。会計検査対応が「当たる」と、調査官の質問に答えきれるよう、資料の整理や準備、業務のそもそも論の理解など、非常に大量の準備をしないといけません。日ごろからちゃんとしていれば、急に準備する必要はないじゃないかとお叱りを受けるかもしれませんが、日常業務に追われていたり、新任だったりすると、なかなかそうもいかないのがリアルです。なので、おそらく、すべての公務員は、会計検査対応に関しては、正直、非常にめんどくさいという本音を抱いていると思います。他方で、調査官に激詰めされるなかで、日ごろおざなりになりがちな、あるべき姿を直視させられる良い機会にもなっているというのも確かなようです。
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橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第7回 社会保障 官僚が「等」に託す想い~生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法「等」の一部を改正する法律の施行~
2018-10-18 07:00550pt
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。10月から施行された「「生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律」。生活保護法の改正も含んでいながら、「生活保護」という言葉を避けて「等」としたのは、改正の意図を曲解されないための、政策担当者たちの苦肉の判断があったようです。
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
2018年9月は、台風21号、北海道胆振東部地震など天災が続きました。一日でも早く被災地が復旧復興するよう心から祈念しております。また、大坂なおみ選手の全米オープン優勝、安室奈美恵引退、貴乃花親方の引退といったニュースも注目を集めました。樹木希林さんの訃報も大変印象深くて、ご冥福をお祈りしております。 永田町では、自民党総裁選における安倍総理再選とその後の組閣人事に注目が集まりました。霞が関では、麻生財務大臣は概算要求総額が102兆円台後半になるとの見通しを示しました。なかなか大規模です。また、いくつか興味深い統計の発表がありました。例えば、財務省は、2017年度の企業の内部留保(貯めている利益)が金融・保険業を除く全産業で446兆4844億円となったと発表しました。この金額は前年度比で9.9%増となっており6年連続で過去最高を更新しています。他方で、こうした利益剰余金を人件費に回した割合は43年ぶりの低水準にとどまっているとのこと。儲けてるなら給料増やせ、という労働者の声は強まりそうです。また、これはなんらかの将来不安感が強かったり、どういうイノベーションを目指せばいいのか投資先を決めあぐねていたりする企業が多いということも示しているのでしょう。
企業の内部留保、446兆円=6年連続で最高更新-17年度末(時事ドットコムニュース 2018年9月3日)
それから、法務省は9月19日、6月末時点の在留外国人数が263万7251人だったと発表しました。2017年末と比べ7万5403人増え、過去最多です。日本の総人口の約2%にあたります。「内なる国際化」がジワジワと広がっています。
在留外国人263万人、過去最多に 総人口の2%(朝日新聞デジタル2018年9月19日)
そしてさらに、自民党の行政改革推進本部が中央省庁の再々編を促す提言を行いました。これを受けて、厚労省をはじめいくつかの省庁の近辺が騒がしくなってきています。本当に激動の9月でした。
省庁再々編の提言了承、自民行革本部 厚労省の業務過大など問題視 (日経新聞2018年9月5日)
国民生活省構想(岡本全勝内閣参与のウェブサイトより)
ちなみに、僕自身にも想い出深い出来事がありました。9月22日、福島県本宮市で開催された「英国祭」にて講演をさせていただきました。拙著「現役官僚の滞英日記」を読んだ國分久徳理事長がわざわざ僕を訪ねてご依頼くださいました。貴重な機会をいただきましたこと、PLANETSが紡いでくれた縁に感謝しております。
9/22(火)高級車登場に笑顔 本宮で「英国祭」、文化や食など紹介(福島民友ニュース 2018年09月23日)
さて、今回のGQでは社会保障を取り上げたいと思います。今年6月に国会で可決された「生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律」が10月1日から施行(=世の中で実際に運用が始まる)されました。
行政文書の「等・など」
「生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律」には、「等」という文字が含まれています。この「等」、公務員はよく使います。公用文では、漢字の直後なら「等」、ひらがなの直後では「など」と書き分けたりします。(この書き分け、どうでもいいだろ…と思ったり、なまじそういうルールに目が慣れてしまっていると、違ってたらそれはそれで気になったりします・・・orz。)「等・など」は、一般的には、ほかに色々あるのを全部並べると文章が長くなってしまう時に、短さを維持するために使う言葉ですよね。また、まずは馴染みのあるものやメインのもの(ここでは生活困窮者自立支援法)を出してイメージを持ってもらい、相対的に重要性の低いものは「等・など」に入れ込んで済ますわけです。しかし、公務員は、色々考え抜いて、諸々の意図を込めながら、この「等・など」を用いる場合があります。例えば、議案のタイトル。たくさんの大事な内容を含んでいる時であっても、メリハリを効かせるために、一番議論してもらいたいものは名前を出して、それ以外は「等・など」のなかに「読み込もう」とします。書類のタイトルなどで「等・など」の中身に何を読み込むか、外にどれを並べるかは、文章の演出戦術そのものであり、いつも悩みどころです。裏を返すと、行政文書では、「(事務方が)一番議論してもらいたいこと」ではなくとも、かなり重要な話が、この「等・など」のなかに溶け込んでいる可能性もあるわけなのです。ですから、その辺をよくわかっている偉い人とかが「この『等』には何が含まれているのか?」とご下問になることも多いです。これに対して、事務方も、すっと答えられるように、俗に「等など表」と呼ばれる一覧表を準備していたりもします。(こういうこと、普通の会社でもあるのでしょうか…)
では、今回取り上げる「生活困窮者自立支援法『等』の一部改正」の「等」のなかには何が含まれているでしょうか。いくつかありますが、生活保護法の改正が含まれていることはポイントだと思います。でも、生活保護法の改正を「隠そうとしている」とまでは僕は思いません。実際、法改正の概要説明のペーパーに、生活保護法改正の内容についてもきちんと書いてあります。国会審議でも論点になっています。想像するに、あくまで法案の冒頭にあるように「生活困窮者等の自立を促進するための」法改正であることを強調したい、という意思から「等」に生活保護法を読み込ませているということなのではないかな、と僕は解釈します。なぜか。それをご理解いただくには、少し今の社会保障制度の構造や生活困窮者自立制度の説明が必要そうです。
そこで、以下では、まず、この生活困窮者自立制度についてざっと触れます。その上で、「等」に含まれている生活保護法の改正部分について述べたいと思います。そして、最後に、なぜ「等に生活保護法改正を含めたか」に関する僕の想像を添えたいと思います。
そもそも生活困窮者自立支援制度とは?
生活保護制度とは、ざっくり言えば、本当に困ったら、市町村役場から毎月生活費がもらえる、医療費が無料になるといった、基本的人権の最後の砦となっている制度です。 リーマンショック後の不況の中で、生活保護受給者はとても増えました。平成20年代は毎年飛躍的に増加し、受給世帯数も国庫負担額も過去最高を更新していきました。もちろん高齢者や病気の方々が大半ではあったのですが、働くことができるはずの受給者も多くいました。そこで、2015年、これらの働ける人々が生活保護状態から抜け出して自立できるように、就労支援や、生活相談、家賃支援、学習支援などを行う新しい制度が始まりました。これが生活困窮者支援制度です。
生活困窮者自立支援制度とは(厚生労働省のウェブサイト)
いわば、生活保護の手前に、新しいセーフティーネットを設けたわけです。雇用保険などが第1のセーフティーネットだとしたら、この生活困窮者支援制度が第2、生活保護制度が第3のセーフティーネットとなるわけです。今、日本社会の基本的人権は3層構造の制度で守る構えになっているわけです。
▲セーフティーネットの3層構造(筆者作成)
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橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第6回 金融 銀行はなぜ平日に休めるようになったのか 〜地銀を改革に追い込む怒涛の規制緩和〜
2018-09-13 07:00550pt
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。電子マネーやFintechの普及、仮想通貨の登場によって変革期を迎えている金融業界ですが、金融庁が監査の基準を大転換したことで、特に地方の金融機関は、地域経済において新しい役割を担わされることになりそうです。
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
2018年8月は、第100回となる夏の甲子園やアジア大会で熱戦が繰り広げられました。また、映画「カメラを止めるな!」のヒットも注目を集めました。他方で、月末のさくらももこさんの訃報も大変印象深く、心からご冥福をお祈りしております。 永田町では、国民民主党の代表選は玉木雄一郎氏の再選に落ち着く一方、9月の自民党総裁選は安倍総理と石破元幹事長と事実上の一騎打ちとなることが確定しました。そして、来年の統一地方選挙、夏の参議院選へと、政治の季節に備えてそれぞれ準備を整えていくことになります。霞が関では、各省の来年度予算の概算要求内容が公表され財務省との折衝が始まっていきます。 また、個人的には、8月21日にはPLANETS CLUBの定例会にお招きいただき、メンバーの皆様と「チャタムハウス・ルール」の下で楽しい時間を過ごすことができました。話題になった「『平成最後の夏期講習』の続き」を宇野編集長とやることができまして、いい夏の想い出ができました。
8/21(火)開催!現役官僚・橘宏樹さんに聞く、行政・政治の未来(PLANETS CLUB第6回定例会)
さて、今回は「金融」を取り上げたいと思います。色々な動きがありますが、今回は、8月10日の閣議では「銀行法施行令等の一部を改正する政令」などを中心に、特に地方銀行に対して金融行政が何をしようとしているかについて、ざっくりご紹介したいと思います。
たぶん、今、金融界ほど未曽有の激動に直面している業界はないのではないでしょうか。技術革新が金融の業態それ自体を猛烈なスピードで変化させています。例えば、“Fintech”(決済や送金など金融業務に情報技術を用いること)が広がっています。AIもどんどん取り入れられています。この数年で、電子マネーの利用、キャッシュレス化もかなり進んでいます。インターネット・バンキングも普通になりました。仮想通貨への投資もかなり身近なものになりました。またこれらの変化に伴って、銀行員の人員削減や支店の削減、地銀の経営統廃合のニュースも増加しています。「技術もグローバルスタンダードもどんどん変わっているのに、なぜかなかなか変わらない。」というような「ガラパゴスあるある」な話が多いコンサバ日本組織社会ですが、この分野はかなり違うようです。
◆変貌する金融庁
こうした状況に対して、金融庁も規制を設けたり緩和したり、と、施策をどんどん展開しています。「今、面白い仕事をさせてもらってる」という金融庁職員の友人も多いです。金融庁自身も変化しています。確かに、今年6月に出された金融庁の基本方針「金融検査・監督の考え方と進め方 (検査・監督基本方針)」は興味深いです。銀行等を検査監督する際に思考停止してしまわないように、ということで、なんと「検査マニュアル」を廃止するとまで言っています。「ルール・ベース」から、より本質や大局を捉える「プリシンプル(原理原則)・ベース」とのバランスを謳っています。
▲「金融検査・監督の考え方と進め方 (検査・監督基本方針)」より
さらには、7月4日に「金融庁の改革について」との文書を発して、時代に合わせたガバナンスを宣言し、組織体制も「総務企画、監督、検査」の3局体制から「総合政策、企業市場、監督」の3局体制に改めました。これらは、先月退任した大物長官と呼ばれた森信親前金融庁長官のリーダーシップによるところとも聞いています。
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橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第5回 通商 逆襲の自由貿易~日欧EPA~
2018-08-22 22:00550pt
本記事のタイトルの著者名に誤記があったため、修正し再配信いたしました。著者・読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。【8月22日21時50分追記】現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。7月17日に閣議決定された「日欧EPA」の背景には、英国の離脱が決定したEUの信頼性回復や、トランプの保護主義への反撃など、日欧双方の複雑な目論見が垣間見えます。激化する通商戦争から国際関係のあり方について考えます。
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
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2018年7月は、まず、西日本の集中豪雨が大変な被害をもたらしました。被災者の方々には心よりお見舞いを申し上げます。救援や復興支援のためにご尽力されている方々に深く敬意を表すとともに皆様の安全と1日も早い復旧、復興を心よりお祈り申し上げます。また、マスメディアの報道を振り返ってみますと文科省の汚職、「新アンガールズ」問題、といった、時代錯誤感すらあるスキャンダルも目に付きましたね。連日の猛暑も非常に厳しく、熱中症予防の呼びかけも頻繁になされていました。 永田町・霞が関界隈では、まず第196回通常国会が7月22日に閉会しました。会期中には話題のカジノ関連法案が可決されましたが、本稿第2回で取り上げた水道法の改正は、衆議院は通過したものの、参議院で継続審議となり、結局今国会でも成立は見送られました。今後は9月の自民党総裁選に向けた政局に注意が集まっていきます。その裏では、霞が関では各省からの概算要求(次年度予算の見積)を受けた財務省が予算編成を始めていきます。
橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第2回 水道法改正/PFI法改正から考える
さて、今回のGQのテーマは「通商」にしました。2018年7月17日閣議決定「経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定の署名」(いわゆる「日欧EPA」)を取り上げたいと思います。人口約6億人、世界GDPの約3割(21兆ドル)を占める先進国間による世界最大級の経済圏が新たに誕生することになります。
この度の日欧EPAでは、輸出入の自由化のほかにも大きな取り決めが行われました。しかし、協定の内容もさることながら、協定が締結されたこと自体に、国際政治経済上の重要な意味があります。日欧EPAはこれまでも長年協議されてきていたのですが、ついこの間まで、やや交渉が停滞気味でした。しかし「とある事情」が生じたことから議論が加速して、昨年末には大枠合意、そしてこの7月に署名がなされ、2019年中には発効する見通しとなりました。この「とある事情」そのものが引き起こした、現在の国際政治経済情勢に対して、メッセージ発信を伴うリアクションを起こした、かなり着目に値するニュースだと思います。内憂の多い昨今の日本ですが、外患に対しても、活路を見出すべくシビアな駆け引きを展開していることにも目を向けるべく、今回のGQで取り上げることにしました。
「スパゲッティ・ボール」化する通商世界
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橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第4回 教育。まだ見ぬ幸せを、その手に。~第3期教育振興基本計画を読み解く~
2018-07-10 07:00550pt
現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回のテーマは「教育」です。6月15日に閣議決定された「第3期教育振興基本計画」(2018-2022年) を、第1期(2008-2012年 )、第2期(2013-2017年)と比較しながら、この10年の間に国が掲げる教育のビジョンが、どのように変化したかについて検討します。
▲教育。政策にできること、できないこと。
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
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2018年6月のマスコミでの話題は、やはりワールドカップ開催ですよね。森友・家計問題も少し影を潜めたように見えます。西野ジャパンの大健闘や団結力に僕は勇気をもらいました。実はサッカー見るのは結構好きなので、色々と書きたくなってきてしまうのですが、誘惑を抑えます…。政治・行政関係では、会期の延長された国会で、働き方改革法案、TPP関連法案と、話題の法律が立て続けに可決されました。ちなみに、昨日(7月4日)から、霞が関では「官庁訪問」と呼ばれる、国家公務員総合職試験の合格者による就職活動期間が始まりました。毎日1官庁ずつ選んで訪問し、人事担当者や原課の職員と数回の面接を行います。訪問者も官庁側も、お互いに選んだり選ばれたりの4週間。ライバル?仲間?との待合室での待ち時間が異常に長いことが特徴です。この部屋に集められているのは1軍なのか?2軍なのか?と評価に気を揉んだりします。心身ともにかなりしんどいです。僕も面接官を務めます。イマドキの若者がどんな志望動機を語ってくれるのでしょうか。また僕の方でも、いい訪問者にはうちの役所への志望を固めてもらえるよう魅了せねばならず、真剣勝負の毎日が始まります。
さて、今回のGQのテーマは「教育」です。6月15日閣議決定「第3期教育振興基本計画(2018-2022年)」を取り上げたいと思います。閣議決定は普通官報には載らないのですが、あまり話題になっていないけれど非常に重要な行政の動きを伝えるGQの使命に照らしてうってつけかなと判断しました。「教育振興基本計画」は、今後5年間のあらゆる教育政策の根幹になります。なので、極めて重要です。ですが、一般的に存在はどのくらい知られているでしょうか。
第3期教育振興基本計画(2018-2022年)(概要)第3期教育振興基本計画(2018-2022年)(本文)
本文は96ページあって一見長いですが、パラグラフが細切れにされていて、文体も平易で一文の長さも短く、けっこう読みやすい気がします。なので、御覧になってみてください。(ちなみに、第1期計画は48ページ、第2期計画は84ページです。)
本稿では、第3期教育振興基本計画のポイントを、ザックリと第1期、第2期と比較してみます。政府の教育政策が力点の置き方がこの15年間でどのように変わっているか(または変っていないか)を確認してみます。 ちなみに、民主党政権は2009年から2011年でした。第2期の計画内容を議論し始める期間にかかっており、政権交代前後で議論するメンバーに入れ替えがあったりはしています。ただ、それが定例の入れ替えなのか、政権の意向なのか、今、僕にはわかりません。
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