今朝のメルマガは、『宇野常寛コレクション』をお届けします。今回取り上げるのは2012年のテレビドラマ『最後から二番目の恋』です。都市生活を相対化するユートピアを描き続けてきた脚本家・岡田惠和が、〈ディストピアとしての現実〉(『小公女セイラ』『銭ゲバ』)へのコミットを経た後にたどり着いた、日常に隣接する涅槃的なユートピアとは……?
※本記事は「原子爆弾とジョーカーなき世界」(メディアファクトリー)に収録された内容の再録です。
日曜日の朝に早く起きて、数年ぶりに鎌倉に出かけた。湘南新宿ラインにゆられて一時間と少し、降りた駅前は観光客でごったがえしていた。これぞ秋晴れと言わんばかりの青空の下、僕はFacebookの自分が立てたイベントページに投稿した。「宇野です、今、駅前の広場に居ます」──おおよそ10分のあいだに、待ち合わせた仲間たちが集まってきた。かつて勤めていた会社の先輩(30代後半)、アドバイザーを務めていた会社の女性(30代後半)、別の仕事で知り合ったテレビディレクター(30代半ば)、非常勤講師を務めていた大学の教え子とその彼氏、ツイッターで知り合ったドラマファンの舞台女優(30代)、僕の読者だという八王子の専業主婦(40代)、個人的に開催しているAKB研究会メンバーの男子学生、そして新潟からわざわざ駆けつけてくれたNHKの討論番組で知り合った自営業者の男性(30代)……傍から見たら、どんな集団に見えていたのだろうと思う。しかし、ほとんどのメンバーが(僕を除いて)初対面であるという状況だったけれど、みんな瞬く間に意気投合して盛り上がり始めた。話題は一つ。ドラマ『最後から二番目の恋』のことだ。僕らは鎌倉を舞台にしたこのドラマの大ファンで、休日を利用してロケ地めぐり──いわゆる「聖地巡礼」にやって来たのだ。
きっかけはほんの思い付きだった。僕がなんとなく、このドラマが好きだ、聖地巡礼に行きたい、とツイッター及びFacebookに投稿したところ、瞬く間に十人以上のメンバーが集まった。中には、僕のツイッターアカウントをフォローしているものの一面識もない人もいた。でも、僕は気にすることなく彼女たちを誘った。このドラマが好きな人に、悪い人はいないと思ったからだ。
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