今朝のPLANETSアーカイブスは、テクノロジーによってお笑いを拡張した舞台『テクノコント』を企画・開発した、AR三兄弟の川田十夢さんへのインタビューです。『テクノコント』で、メディアアート的な枠組みを超えて「芸能」を志向した理由や、各演目に込められた意図、テクノロジーを通じた「お笑い」の表現の可能性など、さまざまなお話をうかがいました(構成:米澤直史/菊池俊輔)
※この記事は2018年7月19日に配信した記事の再配信です。
【イベント情報】
4月7日(火)のイベント「遅いインターネット会議」に川田十夢さんがご出演されます。 「仮想現実から拡張現実へ」の情報技術の応用トレンドの変化は世界をどう変えたのか。川田十夢さんと宇野がいま改めて彼のテーマである「拡張現実」という概念について議論します。(『遅いインターネット』第2章の拡張現実論を踏まえながら)。
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『テクノコント vol.1 mellow Yellow Magic Orchestra』
原案・企画:川田十夢
構成・制作:おぐらりゅうじ
作・出演:ラブレターズ / 男性ブランコ / ワクサカソウヘイ
開発:AR三兄弟
実施:2018年5月25日・26日 渋谷ユーロライブ
テクノロジーによる演出で「お笑い」の拡張を試みたコントライブ。舞台の小道具としてセルフィー、VRヘッドセット、スマートスピーカーなどのガジェットが登場するほか、芸人による寸劇とARを組み合わせることで、「お笑い」の新しい可能性を提示した。劇場の観客が手元のスマートフォンから公演に参加する新しい試みも行われている。演者には、ラブレターズ、男性ブランコ、ワクサカソウヘイら、コントに定評のあるお笑い芸人たちが出演している。
「メディアアート」から「芸能」へ
――『テクノコント vol.1 mellow Yellow Magic Orchestra』、大変面白く観させていただきました。まずは企画のきっかけからお聞かせください。
川田 AR三兄弟という開発ユニットで活動をはじめて、来年で10年目くらいになります。これまで一貫してくだらないことしかやってこなかったのですが、10年も続けると立場ができてきて、間違って「メディアアート」と言われることも増えてきた。僕らはあくまでお客さんにウケたり面白いと思われたくてやっているだけなんですけどね。
そこでよく引き合いに出されるのが、チームラボやライゾマティクスなのですが、彼らの表現はあくまでアートの方向にテクノロジーのクリエイティブを発揮するもの。対して、僕が興味があるのは「アート(芸術)」というよりも「芸能」で、10年の節目を迎える前に、彼らとは違う「芸能」の分野で作品をつくりたかったという思いがありました。
また、僕の小学校の同級生で、今でも仲がいい友人に、ピン芸人のマツモトクラブがいます。彼を見ていると、今の芸人の置かれている状況は、お笑い番組や賞レースといった活躍の場がたくさんあるようでいて、実はけっこう厳しいということを感じます。そこで、テクノロジーの要素を加えることで構造のレベルから更新を試みたお笑いの公演をやってみることが重要になるのではという考えもありました。
――たしかに、これまでのAR三兄弟の作品を見ても、「お笑い」と非常に親和性が高いという印象があります。
川田 Media Ambition Tokyoなど、お笑いの要素を求められていない場所で、笑いを取ろうとしてきましたからね(笑)。AR三兄弟として、ちゃんとお笑いの要素が求められる場所で、笑いを提供する作品をつくってみたかったという思いはずっとありました。
――その一方で、AR三兄弟の作品はメディア芸術祭をはじめ、メディアアートの領域で高い評価を得ていますが、「メディアアート」と「芸能」の違いはどのようなところにあると考えているのでしょうか?
川田 先日、中国の厦門で開かれた文化庁メディア芸術祭に出展したときに、ちょうどライゾマが隣りだったんです。そのときに真鍋大度くんと話をしたんですが、彼はアートにしか興味がないんですよね。商売には興味がないし、もちろん「お笑い」にも興味がない(笑)。
以前、真鍋くんと飲んだときに、「僕は〈点〉の人ですが、川田さんは〈物語〉の人ですね」と言われたんです。彼は技術を〈点〉で表現することだけを考えていて。たとえば、Perfumeとライゾマが組んだプロジェクトでは、真鍋くんが〈点〉としての技術を担当し、振り付けのMIKIKOさんがダンスによって〈物語〉をつくる。そういう関係性が真鍋くんは好きみたいです。
芸能と違って、アートはモヤモヤしたものでいい。鑑賞時間が1秒でも1分でも、観客の心に何か引っかるものがあればそれでいいんです。でも芸能、特にお笑いは観客にウケないといけないし、舞台であれば二時間、笑わせ続けなければならない。
アートは時代に対して「垂直に立つ」表現ですが、僕らは時代に対して「水平に寄り添う」ことを目指していて、それを舞台の上での笑いに変換したい、ということですね。
これまで僕らが手がけてきたメディアアート的な作品は、長くても5分程度だったのですが、2013年に、ヨーロッパ企画の上田誠くんと一緒に「プライマリースクール・ウォーズ」という約20分ほどの演劇を作ったことがひとつ大きな転換点になりました。学校の教室で、誰もいない黒板に、勝手にチョークで文字が書かれていくという作品です。
プライマリースクール・ウォーズ(動画)
種明かしをすると、掃除箱に仕込んだプロジェクターから黒板に向けて映像を投影し、チョークの音は黒板の後ろのスピーカーから出しています。
この作品の持ち時間は20分だったんですが、そのときに〈物語〉の力はすごいと思った。それで、自分たちで舞台を作ったりもしたんですが、舞台での表現は、運動選手と同じで演じる側に瞬発力が求められるんです。そこで今回のテクノコントでは、芸人さんの助けを借りながらネタからつくるというやり方を選んでいます。
――人間が演じるコントにARを実装する処理は、技術的にもハードルが高かったのではないでしょうか?
川田 難しかったです。芸人さんたちもテクノロジーを相手にコントするのは初めてですからね。ただ、彼らには、同じ舞台上の仲間をフォローするという素敵な文化があるんです。実際にARの演出が上手くいかない回があって、勢いよく飛ぶはずの元気玉がゆっくり飛んでしまった。そのときに「ゆっくり飛んできたからー、ゆっくり倒れるー」という対応を即興でやってくれた。テクノロジーを新人芸人のようにフォローしてくれて、凄くありがたかったですね。芸人はスポーツ選手みたいなところがあって、スプリンターのような瞬発力、反応と対応力が身体に叩き込まれているんです。
今回、芸人のお客さんから、陣内智則さんの映像を使ったコントを引き合いに出して、その進化系だということを言われたんですが、僕らからすると別物なんですよね。陣内さんのネタは、映像相手にあらかじめ決まった内容を演じている。それをアドリブのように演じている陣内さんが凄いんです。
それに対して『テクノコント』では、段取りを固めておく必要はなくて、お客さんのリアクションを見ながら、その場で呼吸を微妙に変えたり、アドリブを挟んだりする余地があります。この両者を同じように言われてしまうのは、ちょっと課題だと思っていて、次はもっと明確に違いが分かるような見せ方をしたいです。
点線としての想像力を「線」にするー『数学泥棒』
――ここからは具体的な演目についてお聞きしたいと思います。公演序盤の「数学泥棒」は、2人組のコンビによる正統的なコントをAR技術で拡張した、『テクノコント』を象徴するような作品でした。
『数学泥棒』:数学の授業中、先生が描いた三角形の中から、「点A」を取り出し、持ち去ろうとする生徒。そこから先生と生徒との、数学記号を駆使した追いかけっこがはじまる。生徒は「点X」をまきびしのように撒いて授業を邪魔し、先生は「√」を使って生徒を捕まえようとする。お笑いコンビ・男性ブランコの代表的なネタのひとつだが、今回、ARによって拡張されたことで、より視覚的に分かりやすい作品となった。
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