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現象としての保守とインターネット|石戸諭
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現象としての保守とインターネット|石戸諭

2020-09-01 07:00
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    今朝のメルマガは、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。
    本日は、ノンフィクションライターの石戸諭さんをゲストにお迎えした「現象としての保守とインターネット」です。新著『ルポ 百田尚樹現象』で、この国の右派ポピュリズムの現在に迫った石戸さん。
    「新しい歴史教科書をつくる会」から百田尚樹「現象」へ、引き継がれたものとはなにか。この国の「普通の人たち」の本質に迫る議論を試みます。(放送日:2020年7月21日)
    ※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
    【本日開催!】
    9/1(火)19:30〜藤川大祐「withコロナの時代に教育はどう変わるのか」
    今回のゲストは、千葉大学教育学部教授の藤川大祐さんです。大学教育に携わるだけではなく、附属中学校の校長もつとめる藤川先生。
    オンライン授業の導入や9月入学の是非についてなど、コロナ禍が炙り出した学びの課題について、教育現場の実態をふまえて斬り込みます。

    生放送のご視聴はこちらから!

    遅いインターネット会議 2020.7.21
    現象としての保守とインターネット|石戸諭

    たかまつ 皆様ごきげんよう、本日ファシリテーターをつとめます、お笑いジャーナリストのたかまつななです。

    宇野 みなさん、こんばんは。PLANETSの宇野常寛です。

    たかまつ 遅いインターネット会議、この企画では、政治からサブカルチャーまで、そしてビジネスからアートまで様々な分野の講師をお招きしてお届けいたします。本日は、有楽町にある三菱地所さんのコワーキングスペースSAAIからお送りしています。本来であれば、トークイベントとしてこの場を共有したかったのですが、当面の間は新型コロナウィルスの感染防止の為、動画配信と形式を変更しております。本日もよろしくお願いいたします。

    宇野 よろしくお願いします。今日、爽やかじゃない?

    石戸 憑き物が落ちたような顔してるよ。

    たかまつ ちょっと、個人的に肩の荷が下りたようなことがありまして。今日も幸せいっぱいの回となっております。それでは、本日のゲストの方を紹介したいと思います。本日のゲストは、ノンフィクションライターの石戸諭さんです。よろしくお願いします。

    石戸 よろしくお願いします。今日は、たかまつさんの憑き物の落ちっぷりがすごいですね。このあと出馬会見も予定されているそうで。

    たかまつ いやいや、しないですよ。そういうこと言うと変にネットニュースになって、また呼び出されるんですよ(笑)。

    宇野 またって、過去に呼び出されたことあるの?

    たかまつ いや、ないですけど(笑)。
     
     ということで、本日のテーマを発表したいと思います。本日のテーマは「現象としての保守とインターネット」です。いま評判となっている『ルポ 百田尚樹現象』(新潮社)で、この国の右派ポピュリズムの現在に迫った石戸さんと、「新しい歴史教科書をつくる会」から百田尚樹現象へ引き継がれたものとは何か、この国の普通の人々の本質に迫りたいと思っています。宇野さん、今日はいかがでしょうか?

    宇野 僕はこの本の前半に収録されている百田尚樹さんについてのルポをNewsweekに掲載された時に読んで、これは当時は賛否両論があったのだけれど、傑作だと思った。それは、百田尚樹という「現象」の持つ厄介さをノンフィクションならではの手法で浮き彫りにしていたからです。今の出版ジャーナリズムの衰退において、ノンフィクションの衰退が僕は一番痛いと感じています。単に事実を機械的に報道するのでもなければ、理論だけをつらつらと書くのでもなく、時間とお金をかけて自分が足を運んで目で見てきたものを、じっくりとディティールを描写してその場の空気やニュアンスまでしっかり描き出すのがノンフィクションの魅力です。これはもともと週刊誌などが担っていたものなのだけど、それが今、雑誌不況の20年くらいでほとんどなくなってしまったところに、彗星のごとくというか、久しぶりにこんな骨太のノンフィクションが出てきたなと思って感動した覚えがあります。しかも、「リベラル」で「文化的な」という自意識を持っている研究者やメディア人が「ケッ」と言うだけで触れようともしない百田尚樹にここまで肉薄したということに僕はすごく感動して、本になるのをすごく楽しみにしていたんです。そして後半の百田尚樹のルーツを探っていって、かつての「新しい歴史教科書をつくる会」の周辺の人びとにアタックしていく過去編がもっと面白い。これは文句なしの傑作なので、今日は楽しみにしていました。

    石戸 すごく嬉しいです。ありがとうございます。

    たかまつ ということで、早速議論に入っていきたいと思います。

    石戸 入っていきましょう。

    「百田尚樹現象」から考えるべきこと

    たかまつ 本日は大きく二部構成でお届けいたします。まず第一部では、新著『ルポ 百田尚樹現象』とはどんな本なのか。石戸さんからご紹介いただきたいと思います。続いて第二部では、普通の人々に対して言論ジャーナリズムができることとは何か、という問いを立ててみたいと思います。石戸さんはご著書の中でも、「百田尚樹現象から見えてくるもの、それはリベラルメディアが捉えきれなかった普通の人々の心情である」ということも述べていらっしゃいましたが、現状の分析を伺うとともに、なぜリベラルメディアがこのような現状になってしまったのか、それに対してできるアプローチとはどういうものか、ということを考えていきたいと思います。それでは、さっそくご著書について内容をお伺いしたいと思います。

    石戸 どんどん聞いてください。なんでも答えますよ。

    たかまつ まず、さきほど宇野さんもおっしゃられた通り、百田尚樹さんはあれだけ本が売れているにも関わらず、そういえばこういう本を見たことがなかったなと思うのですが、なぜ百田さんに関する取材を始めようと思ったのですか?

    石戸 宇野さんは同意してくれると思うんですけど、今の右派論壇を象徴する人物って誰かという問いを立てた時に、百田尚樹をおいて他にいないでしょうと思うんですよね。

     これは本人がツイッターで、本書の1/4が割かれている自分のところの記述は面白いと書いているんです。別に百田さんに好意的に書いたわけでもないのに、自分のところは面白いけど、他は面白くない、なぜなら自分は右派論客ではないからだ、ということを言っているんです。

     ここがまた本人の面白いところで、つまり自意識として、あれだけ右派論壇の中核にいるように見えながら、しかも安倍晋三政権にもっとも近い作家だと思われていながら、本人の中にはその自覚がない。この自覚のなさがある意味、時代の空気を象徴しているように僕には思えたんですね。それが見えてきたというのが、この本の中では一番の収穫だった。やはり、いろんな意味で面白い人で、今の時代というものを象徴する何かを持っている人だと思います。

    たかまつ 自覚のなさが時代を象徴する、というのはどういうことですか?

    石戸 ノンフィクション業界でみんなが認める大ヒットでいうと──これは広い意味でのノンフィクションと捉えるべきですが──50万部を超えたブレイディみかこさんが去年出した『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がありました。久しぶりに骨太な、本格派のノンフィクションでいうと、この間、石井妙子さんが文藝春秋から出した『女帝 小池百合子』が挙げられますね。その中で石井さんが書いていたことと、僕が『百田尚樹現象』で書いていたことは、リンクするところもあります。

     票のためだったら何でもいいというのが、小池さんのやり方で、あれを読んで「この人は体系的だな」とか「実はすごい理念を持っているんだな」と思う人はいないと思うんです。あの本については賛否両論ありますし、批判的な意見もよくわかりますが、そこはひとまず置いておいて、さしあたり大事なのは小池さんには信念とか体系とかはなくて、その場その場でのずば抜けた反射神経のよさと、ある種の敵作りで票を取ってきたなという事実です。

     百田さんも同じで、その場その場で思ったことをちゃんと言う。しかも、百田さんと小池さんの決定的な違いは、あんまり計算してないことなんですよね。小池さんはかなり計算していると思いますが、百田さんが計算高く何かをやっているかというと、そうではない。瞬間的にやっていて、かつ本当に思っていることをツイートしている。ほとんど瞬間芸のようなツイッターで、あれこそが本体だとみんな思ってしまうんですけど、実は僕は違う見方をしています。百田さんの一番の特徴は、特に小説を読めばわかりますが、作品の中にあまり自分を投影しないで書けてしまうことです。つまり、自分の信念や思いとは関係がないところで、売れるものが作れ、ファンを喜ばせることができるということなんです。とにかく売りたいとか、売れるものが好きというのが彼の本質なので、売れるためだったらよい、票を取れるものがよいと思う空気が醸成されて、しかもそれが支持されていく。そういうところに時代の空気感があるように思うんですね。
     
     いろんな人たちが表面的に百田さんのツイッターを取り上げて、右派だ、保守論客だと言って歴史観を問いますが、本人にはほとんど響いていないんですよ。だから、まったく議論が噛み合わなくなる。この噛み合わなさこそが時代的だなと思うわけです。SNSのようにすぐ反応して、すぐ流れていく。百田さんの言葉も、百田さんをめぐる現象もとてもSNS的なんですね。彼は別に安倍政権を強くバックアップしたいとは考えていないし、だからこそ自分の意に沿わない政策は批判する。その場その場で感動できるものとか思ったことについて発言するだけなので、そっちばっかり見ていても仕方がないんです。逆に、小説で書かれていることに「本人が投影されているんだ」と思って読もうとすると、あまり自身が投影されずに書かれているから百田現象を捉え損なう。しかし、百田さんは現実にとてつもない影響力を持っていて、批判を無視できないから安倍さんもすぐに会おうとする。

     こういう人間に対してどう向き合うべきか、考えなきゃいけないのです。


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