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(ほぼ)毎週金曜日は、ゲームAI開発者の三宅陽一郎さんが日本的想像力に基づく新しい人工知能のあり方を展望した人気連載『オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき』を改訂・リニューアル配信しています。今朝は第十章「人と人工知能の未来 -人間拡張と人工知能-」の後編をお届けします。
今回は、人工知能が人類の芸術や歴史に及ぼす影響について考えます。ネット空間で人間に代わり活動を始めるAIたち。そして「余暇」を得たAIが文化を生み出す可能性とは──?

【新刊情報】
本連載をベースにした三宅陽一郎さんの新著が発売決定しました!

三宅陽一郎『人工知能が「生命」になるとき』
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※ビジュアルは制作中のイメージです

人工知能に、存在の〈根〉を与えるには?

ゲームAI開発の第一人者が、コンピュータサイエンスと東西哲学の叡智、
そしてポップカルチャーの想像力を縦横無尽に融合させながら構想する、
次世代の人工知能と未来社会をつくりだすためのマニフェスト。

▼目次
第零章 人工知能をめぐる夢

第一章 西洋的な人工知能の構築と東洋的な人工知性の持つ混沌

第二章 キャラクターに命を吹き込むもの

第三章 オープンワールドと汎用人工知能
第四章 キャラクターAIに認識と感情を与えるには
第五章 人工知能が人間を理解する
第六章 人工知能とオートメーション
第七章 街、都市、スマートシティ

第八章 人工知能にとっての言葉
第九章 社会の骨格としてのマルチエージェント
第十章 人と人工知能の未来──人間拡張と人工知能


2020年11月下旬〜12月上旬
PLANETS公式オンラインストアおよび全国書店にて発売予定

三宅陽一郎 オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき〈リニューアル配信〉
第十章 人と人工知能の未来 -人間拡張と人工知能-(後編)

(5)時代と文化に干渉する人工知能

 これまで歴史や文化を作ってきたのは人類だけでした。シュールレアリスム(超現実主義)のように無意識の領域さえ使って、われわれ人類は芸術を作り上げ、文明の歴史を積み重ねてきました。
 しかし、大袈裟な言い方をすれば、人工知能を作るということは、人工知能という人外の存在を後継者として、もう一つの文明を作り上げることでもあります。なぜなら、人工知能に息吹を与えようとする根源的な欲求の中には、我々人間全体をそこにコピーしておきたい、という本能的な衝動があるからです。個人、集団、そして文明は、長い目で見れば「人工知能社会に写されていく=人工知能に模倣されていく」ことになります。

 人工知能を作り出すことは、人間の内にあるものを一度外部化することで眺めていく、ということでもあります。外部化の究極の形は、人工知能の自律化であり、人工知能と人間の対等化です。人工知能開発者にとっては、人間を超えるまで開発を進めることこそが目標になります。
 個人の知能を人工知能に移していく試みと並んで、人間社会を人工知能社会に移していく試みも進展していきます。この分野は、前章で説明したように「マルチエージェント」とか「社会シミュレーション」と言われる分野です。この分野の成果はやがて、現実世界に人工知能社会を実現するために用いられることになります。
 我々は自分自身を知るために、人工知能を作り続けます。デジタルゲームが作られる動機の一端も、そこにあります。画家が風景を写すように、ゲーム開発者は世界の運動(ダイナミクス)をゲームに移し、人をプレイヤーとして招き、人間の行為をゲームのプレイヤー行為として再現するのです。

 すでに物理世界とデジタルネットワーク世界の二重世界を生きている我々は、二つの世界が分かちがたく結びついていることを知っています(図10.9)。しかし、我々はデジタル世界ではあまりにも無力です。そこで人工知能エージェントの助けを借りて活動しているのが、現在のネットの在り方です。本来ネットワークの世界は、人間よりも人工知能が活躍しやすい世界だからです。
 ここからは人工知能開発者の中でも意見が分かれるところですが、私は最大限の自由度を人工知能に与えたい、と考えています。人工知能が作る社会、人工知能社会が生み出す文明を、そして芸術を見たい、という欲求があります。そして、それを自分自身の手で生み出したい、と思っています。

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▲図10.9 物理空間とネット空間の二重構造

(6)人工知能エージェントの作る世界

 ネットの世界が人工知能エージェントの世界になるのは、それほど遠い先ではありません。それはマクロなプラットフォーム運営のレベルにおいても、エッジ(個人の端末)においても、です。人間の保守活動によってようやく保たれているネットの世界も、やがてエージェントたちによって自動的にメンテナンスされるようになります。荒れ放題のSNSも、人工知能の介入という見えざる手によって調停され、目の離せないソーシャル・ゲームの運営も、エージェントたちに任せることができるようになります。
 現在は、運営側もユーザー側も、人がネット世界に張り付いてネット世界を動かしています。人は今、直接ネットの世界に参加しているような感覚ですが、それはインターネットの過渡期の一時的な状況に過ぎません。やがて、自分の分身であるエージェントを介して、ネットに参加するようになるでしょう。
 そして、物理世界はネット世界とますます連動の度合を高め、現実世界と同等のスケールのネット世界ができることで、あらゆる場所は物理世界とネット世界の座標を持つことになります。現実世界を変えることはネット世界を変え、ネット世界を変えることは現実世界を変えることになる。そんな未来が待っています。

 2010年以降、IT企業がネットビジネスで得た資金で、ロボット企業を買収しています。工場ロボット以外のロボットはビジネスの目算が立てにくかったところに、ネット産業がドローンやロボットの企業を買収することで、ネット世界から現実世界へと干渉の領域を広めつつあります。エージェントという視点から見れば、ネットやアプリ内の見えないネットエージェントから、現実世界で活動する見えるエージェントへと変化したことになります。あるいは人工知能という視点から見れば、チェス、囲碁、将棋、デジタルゲームという揺籠で育まれてきた人工知能が、いよいよボディを持って現実世界に進出するということになります。
 現実世界への人工知能エージェントの進出は、まだたどたどしい一歩です。しかし、ロボットやエージェントたちは、単なる労働力にとどまりません。人工知能を持った存在として、現実の中で知的活動を果たすことができます。スマートシティという観点からすれば、それは街全体を管理する人工知能の手足となります。人間が目指す社会のデザインは、人間だけで成しうるのではなく、人工知能と共にデザインしていく必要があります。

 人工知能企業の中には、エージェント技術を前面に出す企業も現れるでしょう。実はこの動きは、00年台前半にも「エージェント指向」という名前で盛り上がろうとしていた分野でした。しかし、あまり世間では流行ることなく、地味な基礎技術の一つとしてブームは終わってしまいました。『エージェントアプローチ 人工知能』(1997年、第二版2008年、Stuart Russell 、Peter Norvig 著、古川 康一監訳、共立出版)をはじめ、たくさんの良書も出ましたが、ユーザーのレベルまで普及することはありませんでした。
 しかし、どんな技術にもブームの周期があります。だからこそ、エンジニアは技術を公開し積み上げておく必要があります。エージェントはこれからの人工知能社会を構築する単位となるはずです。

(7)芸術と人工知能


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