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本日のメルマガは、ミニチュア写真家・見立て作家である田中達也さんと、レゴ認定プロビルダーの三井淳平さんとの特別対談をお届けします。
ミニチュアグッズやレゴブロックを何気ない日常の風景に見立てるとき、クリエイターの視点から世界はどのようにみえているのでしょうか。二つのクリエーションに通底するメカニズムと鑑賞者の抱く共通感覚から、人間が持つ普遍的な想像力の輪郭に迫ります。
(司会:山口未来彦・中川大地、構成:徳田要太)

レゴブロックを花に、そして、ブロッコリーを木に。──「見立て」をつかって日常を豊かにする方法|田中達也×三井淳平

日常の風景をミニチュアパーツで見立てることの刺激

──今日はレゴ認定プロビルダーの三井淳平さんと、ミニチュア写真家・見立て作家である田中達也さんをお呼びしました。日常の何気ない事物や現象を「見立て」の力によって作品にしているお二人に、コロナ禍以降自宅や近所での楽しみ方が問い直されているいまだからこそできる、「見立て」の力で生活を豊かにする方法をお伺いできればと思います。

 まずはこれまでのご活動をご紹介いただきつつ、実際にどういうふうに作品づくりを行っているのかと簡単にお話しいただければありがたいと思っております。では、三井さんからお願いできますか?

三井 はい。私はレゴ認定プロビルダーといって、レゴブロックを使った創作活動をしています。主に企業から依頼を受けて、その会社の商品や関連するものをレゴブロックで作ることが多いです。今年でプロになって10年目になりましたが、創作を始めたのは大学院生のころで、その後会社員を経て独立し、今は法人として活動しているというかたちです。

田中 10年目! 僕と一緒ですね。

三井 あ、そうなんですか!

田中 お互い節目のタイミングですね(笑)。

──記念すべき対談になりそうな感じですね(笑)。

田中 僕はミニチュア写真家・見立て作家として、見立てをテーマにした作品を毎日SNSで発表しています。今年で10年目になります。元々はデザイナーとして働いていて趣味で始めたこの活動ですが、継続するなかでいろいろなところから注目されはじめ、展覧会や企業の依頼を受ける機会が増えてきました。

──お二人はもともとご面識があったんですよね?

三井 はい。私も一人のファンでして、一度展覧会にお伺いしたことがあります。

田中 そうなんですよ。スタッフもみんなびっくりして、「えー!」「招待券送らなくてよかったのー?」なんて言っていました。次また東京で開催するときには招待券を送らせていただきますので。

三井 ありがとうございます。ぜひぜひ(笑)。

──三井さんから見た、田中さんの作品の魅力はどういうところにあるのでしょうか?

三井 細かい目のつけどころやアプローチはもちろんなんですけれど、それを継続して更新されているところです。もうネタ切れになるんじゃないかと心配してしまうようなペースで製作しているのに、それでも毎回その期待を裏切って、どんどんどんどん新しい発想が出てくるところだと思っています。

田中 ありがとうございます。こうやって皆さんに言っていただけるから続けられるところもあって。それと、創作を続けていると皆さん目が肥えてくるので、さらにその期待を超えられるレベルを出すということが楽しみにもなっています。

 もちろん自分でも新しい発想ができたと思えるときとそうでないときはあるんですが、逆に毎日継続してやっているからこそ変に気負わず実験的な制作を行える部分もあって、今は毎日やるということがいい方向に働いていると思っています。だからSNSのフォロワーさんたちを飽きさせないために毎日やるというよりは、どちらかといえば修行や筋トレに近い感じがしますね。

──「ネタ切れが心配になる」というのは見ている皆さんがけっこうそう思われることかなと思うんですが、田中さんのアイデアの源のようなものはどこから生まれるのでしょうか?

田中 日々思いついたことをメモするようにしています。メモといっても、スマホにただ一行「○○で××」というふうに書くだけですが。たとえば代表作のブロッコリーで見立てた木の作品の場合、「ブロッコリーで木」と書いただけです。「レゴブロックで作った世界遺産展」に出展したときも「このレゴのパーツで○○」とだけ書きました。そのワンモチーフ・ワンアイデアのメモから「明日はどれにしようかな?」とその日の気分で創作内容を決めています。だから作品を作るときにも、土壇場で考えるというよりはすでにある選択肢から選んでいる感覚のほうが近いです。

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▲『MINIATURE LIFE』©Tatsuya Tanaka

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▲実際の撮影の様子

 こういう仕事なので、何をしていても大体頭の片隅には「見立て」のことを考えていて、食事をしたり買い物をしたり、一人で何かを考えてられるときには特にアイデアが生まれやすいですね。もちろん遊びに夢中になっていたり誰かと会話をしたりするときはあまり発想が働かなかったりしますけど、三井さんはこの辺りはいかがでしょうか?

三井 そうですね。やはり外を歩いているときなどが、一番アイデアが出るかもしれないですね。たとえば建物や風景を見たときに「どういうレゴの組み方をしようか」というようなことを考えます。

田中 そのときにはなにか写真を撮ったりメモをしたりして記録に収めることはあるんですか?

三井 どちらかというと僕は頭の中にイメージを蓄積していくタイプなんです。たとえばビルにしても、有名なものであれば世の中に写真がたくさん出回っていると思うんですけれども、よく目にする典型的なビルこそジオラマで表現したくなってしまうので、そういう「ありきたりなビルってどんなものなんだろう」というような考えを普段から自分の中で蓄えていて。それらの共通項を抽出して「こういうものだとビルっぽく見えるんだ」とか「こうすれば当たり前の景色が作れるんだ」というようなところに意識が向くことが多いですね。逆に共通項がみえていれば、その共通項からのブレを探すという意味で特徴的なビル作るときにも参考になるんです。

──おもしろいですね。何か具体的なビルを真似するというよりは、いくつものビルを見てなんとなくある「ビル像」を形成していくということですよね。

田中 あー、僕もその考え方に近いですね。「これを見立てたい」と思ったときには、一度「みんながイラストを描くとしたらどういうふうに描くだろうか」ということを考えます。たとえばヨットを描くというと、三角形を描いてその下に半円を描く、といったイメージがあるじゃないですか。ならその形の組み合わせがあれば何でもヨットに見立てられるわけで、三角形のものと半円のものを探そう、という発想で簡単な形や色に落とし込みます。だからたとえばいまおっしゃったようなビルを表現したいときには、「長方形に穴が空いているもの」「何層かに分かれている物体」「その一番下がポカンと空いているもの」といった特徴を満たせばなんでもビルに見えるのかな、というようなことを考えます。

 これは自分の創作スタイルにもつながることなのですが、僕はなるべく手数を増やしたくなくて、「見立て」というのは手数が増えると逆に伝わらなくなってしまうんですよね。手数を増やして何かを忠実に再現するというよりは、ある対象をなるべく少ない数のものだけで見立てるのが最良のパターンだと思っています。だからレゴビルダーさんがしていることの逆を向いているところもある気がしていて、というのもレゴビルダーさんはものすごく大量のレゴで大きな作品を作りますよね。もちろんときには少ないパーツのものもありますが、僕の場合はその必要最小限のパーツで対象を表現することのほうに興味が向きます。自分がレゴで遊んでいても大量のパーツから建物を作り上げるということはできなくて、そこまでの構造を考えられない。逆にそういうものはどうやって作るのか気になっています。

三井 いまおっしゃったように「たくさんのブロックで大きいものを組むタイプ」と「小さくて少量のパーツで見立てをするタイプ」というのは実際にどちらもジャンルとして確立していて、ある意味派閥に分かれてるようなところがあったりします。

田中 あ、そうなんですか! 「俺はこっちが好きだぜ」というような言い争いが起きたりはしないのでしょうか。

三井 そうですね。若干対抗意識があるというか、「たくさんブロックがあったら当然作れるでしょ」といったことを言う人もいたり、逆に「少ないパーツだから、簡単にできるんじゃないの」というようなことを思う人もいたり、多少のライバル意識がある気がしています。私はどちらかというと大きさを求められる作品を依頼されることが多くて、個人的には小さいブロックを見立てることで作品を作るというのも好きなんですが、仕事としてなかなかやる機会がなくてあまり表に出せていないですね。

田中 なるほど。今まで見た中で一番印象に残っている作品はありますか?

三井 そうですね。かなりシンプルなところでは、一番スタンダードなタイプで2×4の長方形ブロックがありますよね。あれの白いブロックの上に赤いブロックを重ねて「お寿司」に見立てた作品があります。お寿司といえば「白いものの上に何か色のあるものが乗っている」という情報だけで、それだけで完全に記号として成り立っていますし、シンプルさと相まってけっこうインパクトのある作品です。

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▲お寿司に見立てたレゴブロック

田中 なるほど。そういうタイプの作品がアートとして認められて展示されるようなことはないのでしょうか?

三井 少量のパーツをアート作品とみなすのは、レゴの世界ではけっこう少ないかなという気がします。それこそ田中さんのように、「コンスタントに10年続けています」というくらいのレベルになってきたらアイデンティティーとして認められる可能性はあるんですけれど、何個か作品を出したことがある程度だとアートとして認知されるにはなかなか至らないかもしれないですね。

田中 そういうのを集めてみる展示もおもしろいかなとたまに考えるんですけどね。

三井 あ、おもしろそうですね。私からいくつかの形のパーツをお送りして、いろいろと見立ててもらうなんてこともおもしろそうです。田中さんの目線で見ていただくと、新しい発想がどんどん出てくると思います。レゴのパーツは形だけでも数千種類ありますから。

田中 そうですよね。建物の作品などを見ていても「この装飾にこのパーツ使うか……!」ということが勉強にもなります。あのようなパーツの使い方は「誰々が最初に発見した使い方だ」というような歴史があるんですか?

三井 ありますあります。「何々式」というような手法がありますね。レゴの世界ではファンたちが組み方をネット上で共有して集合知を作っていくカルチャーがあるので、その手法を真似すること自体はぜんぜん悪いことではないとされています。

──いま「白と赤のブロックでお寿司」という話をされたときに「なんで今まで気づかなかったんだろう」と思ったんですよ(笑)。白と赤のレゴブロック自体はかなり多くの人が見たことあるはずなんですが、それがお寿司に見立てられるということに気づくにはどうしたらいいのでしょうか。

三井 小さい子どもほどそういう発想は出てくるので、遊び心がすごく大事かなと思います。

田中 うちの子どもは小学生なんですけれど、まさにその「白と赤でお寿司」というようなことは、もう制作のたびに毎回言われます。無理矢理なのものもありますけれど、やはり子どものほうがそういう発想はすごくうまいです。おままごとなんてまさにそうですもんね。

──おままごとは、大人が使っている道具を子供でも使えるサイズに、まさにミニチュアとして見立てる行為ですよね。そうするとどうしても実物との間に齟齬が生まれるわけですが、作品をつくる際に実物のどの部分を残してどの部分を残さないかというような基準は持っているのでしょうか?

田中 実物とまったく同じだと全然おもしろくないと思うんですよね。実物とはかけ離れているんだけど、脳が補完するとなぜかそのものに見えてしまう、そのギリギリのラインがおもしろいと思うんですよ。たとえばさっき言われたのは白いブロックの上に赤のブロックがあれば「寿司」に見立てられるということですが、その隣に小さい人なんかを配置すれば実は「家」にも見えてくるかもしれない。そういうふうに脳の補完が誘発される瞬間が気持ちよくて、「これだけのパーツで、なんでそれに見えてしまうんだ!」というような驚きが頭の中で働くと、ドーパミンか何か、わからないですけど頭の中を駆け巡りますよね。そういう意味では、その脳の補完があればあるほどおもしろいと思うので、実物とはなるべく違うほうがおもしろいと思いますね。

三井 田中さんの作品の中で特に印象深いものの一つで、ホチキスの芯をビルに見立てている作品がすごく好きで。あれはまさに題材の大きさとしてもギャップがすごく大きいし、細かい線が横に入っているのもすごくビルっぽく見えて、写真をぱっと見たときは最初ホチキスの芯だと気づかなかったんですよ。でもよく見ると「あ! すごいな」という発見があって、いまおっしゃっていただいた脳が補完するときの快楽のようなものも発生しますし、すごく好きな作品です。

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▲『芯シティ』 ©Tatsuya Tanaka

田中 ありがとうございます。そうですよね。その補完の瞬間が楽しいですよね。レゴの作品を作るうえで僕の作品を生かせそうな部分はあるんでしょうか。

三井 ありますよ。レゴの世界でもやはりパーツを見立てて落とし込んでいくような部分はあって、ただそれが作品のメインになるというよりは細部にそういう表現をさりげなく使うようなやり方なんですね。普段制作を続けていると、できるだけ使いやすいシンプルなパーツで構成して作品がワンパターンになりがちなので、田中さんの作品にみられるような発想を取り入れて、普段使わないパーツも使っていったほうがパンチの効いた作品を生み出せます。それこそ見た人が「こんなところにこのパーツ使うんだ……!」という刺激のある作品になるので、田中さんのような発想は意識的に取り入れたいなと思うときが多いです。

──最近のレゴの製品で言うと、2030年までにブロックを100%持続可能な素材に置き換えるという環境目標の一環で「フラワーブーケ」を再現するというシリーズがありますよね。あれは生花や造花のように贈答したり部屋に飾ったり、実際の花の用途として使えるものを、あえてレゴブロックで置き換えることにチャレンジしているという、いわば大人版のおままごとのようなものじゃないですか。ああいった作品をユーザー側の見立てによる制作に先んじて、公式が商品として売り出していくことに対しては、どうお考えですか?

三井 レゴを買う方の層はすごくレンジが広いので、ああいう遊び心の要素があると、初めて手に取った方がよりおもしろいなと感じて入り込むきっかけになると思います。いろいろな人のフックになる要素が最近のセットには増えてきたのは、レゴの会社の将来としてはすごくいいことだなと思っています。

田中 ここ10何年かで、僕が子どものときに知っていたようなレゴと比べると、製品自体もものすごくパワーアップしてきていますよね。そうしたツール側の発展にも触発されるかたちで僕も創作を続けていくなかで、もし20年後、30年後にかけてみなさんの「見立て」の目が肥えていったときに、どれほどのレベルの作品が出てくるになるのかと、僕も創作を続けていくなかで期待しているところがあります。たとえば、壁にめりこませてレゴを作るアーティストがいるじゃないですか。あれも「うまいことやったな!」と思いますよね。

三井 まだまだネタの余地はありますよね。

躍動感や物語を作品に落とし込むことでみえてくるもの

──今までお話しいただいたものは建物などの静物でしたが、生き物を作るときは少し違うところがあるのではないでしょうか。たとえば素人考えですが、生き物の場合は躍動感のようなものが加わってくるのではないかという気がするのですが、そういったものを制作するときはどんなことを考えますか?


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