滋賀県のとある街で、推定築130年を超える町家に住む菊池昌枝さん。ここの連載ではひょんなことから町家に住むことになった菊池さんが、「古いもの」とともに生きる、一風変わった日々のくらしを綴ります。いよいよ肌寒くなってきたなか、古民家の隙間風に悩む菊池さん。今回はそのユニークな対処法と、最近試行錯誤している「糠漬け」をめぐる実験記です
菊池昌枝 ひびのひのにっき
第5回 霎時施(こさめときどきふる)日の物思い
何でも金継ぎと気候温暖化のこと
ひと雨ごとに寒くなっていよいよストーブを引っ張り出す。日もくれる頃にはじわっと寂しくなるのである。この春から金継ぎを習い始めた。友人トムのパートナーであるのり子さんが師匠だ。美大出で金継ぎ作家の活動をしている彼女の抜群のセンスに惚れて、田舎タイムでのんびり教わってこの秋の日を楽しんでいるのだ。以前に触れたが我が家の蔵には昔の器類があり、ヒビが入っていたり欠けていたりするものもある。それを捨てずにコツコツと一体どれくらいかかるのかわからないが直していくのだ。
▲写真は金継ぎ中の5つの作品
ところで金継ぎはどういう手順で完成させるのかご存知だろうか。材料は漆と金箔、銀箔。全てのベースに漆が使われていて接着の役割をしたり箔の土台になったりすることもあるし、金や銀の代わりに色合いの役割もしたりするマルチプレーヤーだ。漆の歴史は長くて縄文時代には既に土器に漆を塗っていた。かぶれたりして扱いも面倒なこの漆と人の関係は、森林があってこその関係でもあろうけど、どうしてこの役割に気づいたのだろう。ほんとうに不思議だ。
金継ぎの魅力は何かというと、元の器を修繕するのみならず、その価値が生まれ変わることである。つまり器の風景が変わると言ったらよいのだろうか。壊れたからこその再生の魅力が、そこにはある。新品好きの現代人は「古いものにこそ価値がある」という嗜好がかつてあったことを今一度思い起こしてみてはどうかなと思う。その場合、稀有だから価値が高いだけではないのだ。そこに存在し続けるストーリーや使われている技術(おそらく現在では失われているものも多い)とか、民族的なアイデンティティや伝統、そんな類のものがあるから愛おしいしかけがえのないものになるのだと考えている。そんなことで、ついでに形が気に入っているアンティークの椅子の座面張替えもした。隣町に椅子の張替えを専門にするワカモノがいる。彼は仕事はうまいし早いしリーズナブルでなんとも言えない店構えはいかにもジブリ映画に出てきそうな雰囲気だ。布地がボロボロになってクッションがくたびれて座っても痛くなったのだが、アンティークにポップさを加えて部屋が明るく感じられるようにと選んだ布地は、寒い冬に温かみのある差し色で我が家に新しい存在感を加えたのである。
▲布地や鋲は数ある見本帳から選ぶことができる
▲ご実家の古民家を改修してお店にしたそうだ。店主のお母様が丹精込めて育てたバラが軒先に並ぶ