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ネット選挙運動の解禁
新しい政治文化 創造できるか
(初出:宇野常寛の「新時代を読む」、毎日新聞 2013年7月17日夕刊)
今月21日の参議院選挙からインターネット上の選挙運動が解禁になる。私の正直な感想を述べれば、今回の法改正がこの選挙の趨勢を決定するような影響をもたらすことはないだろう。新しい酒は新しい革袋に、という言葉があるが逆もまたしかりだ。新しい革袋(しくみ)に注ぐべき酒(政治勢力、政治文化)がなければ世の中は変わらない。大方の予測通り、自民党が大勝すれば国民は「いつか自民党内のリベラルな改革派が台頭して政治が変わる」なんてシナリオを夢想し、そしてそれが発生しないことに失望することを繰り返す55年体制後期のような状態に陥りかねない。では、どうすればいいのか。今回の選挙には間に合わないが、私見では、以前もこの連載で主張したように旧左翼とは一線を画した新しいリベラル勢力が結集することが重要だと考えている。戦後的大企業文化や、マスメディアの文化とは一線を画した、インターネット以降の新しいホワイトカラー、新しい知的階層を中心とした若いリベラル勢力を育てていくことができたとき、はじめてインターネットが政治を変えることができるだろう。
■
しかし私のこの考えは、今回のインターネット選挙運動の解禁を軽視していい、ということを意味しない。むしろその逆で、若いリベラル勢力の武器として、インターネット選挙運動の解禁で何ができるようになったのか、を考えていくべきだろう。そもそも、この国を覆う「政治」への緩やかな失望感は、政治参加への回路の貧しさ、正確には政治文化の貧しさに起因している。選挙は「意識の低い」有権者を組織票で動員するいわゆる「ドブ板選挙」が長く力を発揮し、逆に市民運動は「意識が高い」あまりに盲目的、自分探し的な活動家が悪目立ちして来たように思う。その結果、「政治」に参加するということ自体がひどく色褪せたものに見えてしまっているのが現実ではないか。
対処法としてはまず第一に「選挙」でも「市民運動」でもない、政治参加の回路をつくっていくことだ。ロビイング、タウンミーティングなど、様々な形式が考えられるが、たとえば「選挙」よりはひとりひとりが参加している実感を得られるものであり、かつ「市民運動」よりは軽いコミットで済むもの、には大きな需要があるだろう。第二に「選挙」や「デモ」といった従来の政治参加の回路を拡張することだ。この手段としてインターネット選挙運動が大きな可能性を秘めていることは疑いようがないだろう。泥臭いイメージのある従来の選挙運動には抵抗を覚えるが、応援する候補者の街頭演説の動画をソーシャルメディア上で拡散する、といった行為には抵抗を覚えない、という若者は少なくないはずだ。「自分のこの一票(だけ)で政治が変わる」と信じられなくても、自分の投票以外のさまざまなコミットによって少しでも世の中が変わる、と信じられる人は多いはずだ。
■
おそらくここで、特に選挙後に重要なのはネガティブなチェック――「インターネット選挙運動が解禁されたにもかかわらず、大勢には影響がなかった」と嘆くことよりも「新しいルールのもとではどんな活動が可能になり、その中で小さくても結果を残した手法は何か、これから伸びる可能性のある手法は何か」を検証する作業だろう。
言い換えればそれはインターネット選挙運動という新しい道具を用いて、新しい政治文化、政治参加の回路を創造することができるのか、ということこそがほんとうの問題だということもでもある。
(了)
▼関連書籍
宇野常寛『日本文化の論点』、筑摩書房、2013
▼関連動画
ニコ生PLANETS 6月号「リベラル再生会議2」夏野剛×福島みずほ×堀潤×宇野常寛
★★★
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▼次回の生放送予定
8/1(木)20:30~ もちろん、『風立ちぬ』も徹底評論!
【連続講座】宇野常寛「プレ・母性のディストピア」第3回テーマ:宮崎駿
新しい政治文化 創造できるか
(初出:宇野常寛の「新時代を読む」、毎日新聞 2013年7月17日夕刊)
今月21日の参議院選挙からインターネット上の選挙運動が解禁になる。私の正直な感想を述べれば、今回の法改正がこの選挙の趨勢を決定するような影響をもたらすことはないだろう。新しい酒は新しい革袋に、という言葉があるが逆もまたしかりだ。新しい革袋(しくみ)に注ぐべき酒(政治勢力、政治文化)がなければ世の中は変わらない。大方の予測通り、自民党が大勝すれば国民は「いつか自民党内のリベラルな改革派が台頭して政治が変わる」なんてシナリオを夢想し、そしてそれが発生しないことに失望することを繰り返す55年体制後期のような状態に陥りかねない。では、どうすればいいのか。今回の選挙には間に合わないが、私見では、以前もこの連載で主張したように旧左翼とは一線を画した新しいリベラル勢力が結集することが重要だと考えている。戦後的大企業文化や、マスメディアの文化とは一線を画した、インターネット以降の新しいホワイトカラー、新しい知的階層を中心とした若いリベラル勢力を育てていくことができたとき、はじめてインターネットが政治を変えることができるだろう。
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しかし私のこの考えは、今回のインターネット選挙運動の解禁を軽視していい、ということを意味しない。むしろその逆で、若いリベラル勢力の武器として、インターネット選挙運動の解禁で何ができるようになったのか、を考えていくべきだろう。そもそも、この国を覆う「政治」への緩やかな失望感は、政治参加への回路の貧しさ、正確には政治文化の貧しさに起因している。選挙は「意識の低い」有権者を組織票で動員するいわゆる「ドブ板選挙」が長く力を発揮し、逆に市民運動は「意識が高い」あまりに盲目的、自分探し的な活動家が悪目立ちして来たように思う。その結果、「政治」に参加するということ自体がひどく色褪せたものに見えてしまっているのが現実ではないか。
対処法としてはまず第一に「選挙」でも「市民運動」でもない、政治参加の回路をつくっていくことだ。ロビイング、タウンミーティングなど、様々な形式が考えられるが、たとえば「選挙」よりはひとりひとりが参加している実感を得られるものであり、かつ「市民運動」よりは軽いコミットで済むもの、には大きな需要があるだろう。第二に「選挙」や「デモ」といった従来の政治参加の回路を拡張することだ。この手段としてインターネット選挙運動が大きな可能性を秘めていることは疑いようがないだろう。泥臭いイメージのある従来の選挙運動には抵抗を覚えるが、応援する候補者の街頭演説の動画をソーシャルメディア上で拡散する、といった行為には抵抗を覚えない、という若者は少なくないはずだ。「自分のこの一票(だけ)で政治が変わる」と信じられなくても、自分の投票以外のさまざまなコミットによって少しでも世の中が変わる、と信じられる人は多いはずだ。
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おそらくここで、特に選挙後に重要なのはネガティブなチェック――「インターネット選挙運動が解禁されたにもかかわらず、大勢には影響がなかった」と嘆くことよりも「新しいルールのもとではどんな活動が可能になり、その中で小さくても結果を残した手法は何か、これから伸びる可能性のある手法は何か」を検証する作業だろう。
言い換えればそれはインターネット選挙運動という新しい道具を用いて、新しい政治文化、政治参加の回路を創造することができるのか、ということこそがほんとうの問題だということもでもある。
(了)
▼関連書籍
宇野常寛『日本文化の論点』、筑摩書房、2013
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▼次回の生放送予定
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【連続講座】宇野常寛「プレ・母性のディストピア」第3回テーマ:宮崎駿
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