【今週のお蔵出し】
『中の人などいない@NHK広報のツイートはなぜユルい?』NHK_PR1号
                                  (「中央公論」2013年1月号)

 情報化はこれまで可視化されていなかった膨大な匿名の言葉を発生させる。たとえばマラソンについての一般的な世論を知りたければツイッター等で「マラソン」と検索すればよい。そこには無数のユーザーたちの「マラソン」についての言葉が溢れる。彼らはそれぞれ名前(ID)をもつが、私たちはその検索結果に並ぶものを匿名の言葉の集合体と見做している。その一方で情報化は固有名の言葉の力を強化する。たとえば村上春樹のマラソンに対する見解を求めるとき、私たち読者は村上春樹の個人アカウントをまず検索するだろう。

 このとき大きく後退するのがマスメディアの言葉だ。村上春樹(固有名)はマスメディアを介することなく自ら発信し、一般的な「世論」はウェブ検索結果としての匿名の言葉こそが最も早く正確に表現してしまう。