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『文化時評アーカイブス2013-2014』発売直前!
宇野常寛が語るメディアの未来と文化状況
宇野常寛が語るメディアの未来と文化状況
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.3.31 vol.041
今朝のほぼ惑は『文化時評アーカイブス2013-2014』の発売を前に、宇野が最近のメディアと文化状況について語った先月のサイゾーのインタビューを掲載します。
(初出:サイゾー14年4月号)
普段は、月々の話題コンテンツを取り上げて評している本連載だが、今回はちょっと趣向を変えて特別企画でお届け。本連載のホストであるところの宇野氏が、現在の日本のメディア状況を踏まえた文化論を展開する──。
◎構成:稲葉ほたて
今回は月末に「文化時評アーカイブス」の今年度版が出るということで、久しぶりに2014年春現在の国内文化やメディアについて、総合的に話したいと思います。
まず前提として僕は「サイゾー」の創刊時からの読者なのだけど、創刊(1999年)から15年経って、「文化」というものの位置付けが全然違ってきているという実感がある。一般的にそれはインターネットの拡大による変化、つまり情報が伝達される仕組みの変化だと思われているのだけど、実のところ僕にはこの間にもっと質的な変化、イデオロギー的な変化がこの国の文化空間にはあったと思っています。
例えば15年前に小林弘人さんは日本版「WIRED」の延長線上での男性誌として、初期「サイゾー」を作った。いま思えば当時の「WIRED」が象徴していたのは、アメリカ西海岸的なIT技術やコンピュータカルチャーを日本の都市部のアーリーアダプターが吸収することによって、ポスト戦後的な新しいホワイトカラーの文化のスタンダードができることへの期待だった。しかし、今現在、それはまだあまり実現していないように思う。少なくとも当時小林さんが考えていたものとは、だいぶ異なる状況になっているんじゃないかと思うんですね。
それは言い換えれば、当時小林さんが読者として想定していたはずの団塊ジュニアが新しい日本を、政治的にも文化的にも作れなかったということでもあると思う。団塊ジュニアという世代は、頭ではもう戦後日本社会は戻って来ないとわかっている人が多い。しかし、身体の部分、労働環境や家族形態はまだまだ戦後的なスタイルに捉われていて、その結果彼らの仕事はなかなか戦後的なものから離陸できない。
例えばそれはインターネットの使い方にもそれはよく現れていて、ひと言で言うと団塊ジュニアはインターネットを使って”第二のテレビ”を作ろうとしてきたのだと思う。戦後文化を体現するテレビに対抗できる自分たちのメディアをどうもつのか、が団塊ジュニアのインターネット文化を担ったプレイヤーたちのテーマだったはずなんですね。
確かに現在もテレビの中では、ネットもグローバリゼーションもなかったことになっているし、戦後的な標準世帯がいまだに支配的で、完全に昭和の延長線上にある世界が生き残っている。はっきり言ってテレビは形骸化した戦後社会の象徴だと思う。では団塊ジュニアが作った、そのカウンターとしてのインターネットはどうか。
彼らの築き上げたネットの文化空間では、たしかにこうした戦後的な社会観は大きく後退している。でも、コミュニケーションの様式がまったく更新されていない。いまのソーシャルメディア、特にツイッターの文化を一言で表現すると「いじめ文化」ですよ。この数年で、半月に一回生け贄を見つけてきては、失敗した人間や失言した人間を総叩きするのが恒例になってしまった。そして、文化人や著名人もそれを扇動することでポピュラリティを得ていて、そこに中立を装いながらライトに参加する人間が毎回良識的な知性として持ち上げられる──そんな「世間」がすっかり出来上がっているわけです。
これは皮肉な話で「あの頃」ぼくたちがテレビにうんざりしはじめたのは、その時代遅れのセンスに対してだけじゃなくて、こうした「いじめ文化」に対してでもあったはずなんですよね。しかし今のインターネットを眺めていると、これは「あの頃」に辟易とさせられたテレビのワイドショー文化の体現する「世間」とどこが違うんだろう、と思う。団塊ジュニアのやりたかったことは結局、多様な価値観が共存できる社会じゃなくて、自分たちが幅を効かせる「世間」を作ることだったのかという失望が、僕にはある。
正直に言ってしまうと、現在の「サイゾー」の誌面にも、同じことは感じています。今の「サイゾー」は僕が大学生の頃に読んでいたような、一般誌では拾えない内容をつぶさに拾っていくメディアでは、もうないと思う。むしろ社会の中核にいる、団塊ジュニア世代のライトなカルチャー好きの、最小公倍数的な意見を拾うメディアになっているように思える。もちろん、こうした状況については、自己批判も含めて話しています。僕の世代のネットから出てきた言論人にとっても、他人事ではない。5年後には自分たちのやってることもそう言われている可能性がある。
そんな中で僕は最近、以前から出していたメールマガジンを、週刊から日刊の毎朝配信に変更したんです。現在のソーシャルメディア文化って、「百の投稿を見ても一も残らない」。あまりに情報が供給過剰になっていて、ほとんどの人間がツイッターで回ってくる記事の見出しだけを眺めて、リンク先を読まずにリツイートして、情報を消費した気になっている。実際、そうしないと情報がさばけない状況があるのも事実だけど、そういうソーシャルメディア文化に対して、「一を伝えて十を知る」ような記事を配信することはできないかと考えたんです。
だから、メインの記事は毎日1本しか配信しないし、記事の形式やサイズも徹底的に考えた。通勤時間の30分にだらだらタイムラインを見て過ごす人がいたとして、その時間を僕らの作り込んだ一つの記事をじっくり読ませることに使わせられないか。そんなふうに考えて取り組んだ結果、まだ最初の1カ月ではあるのだけど、僕自身もびっくりするくらいに購読者数がぐんぐん伸びています。
よく「若者の活字離れ」と言われるけど、僕は嘘だと思ってるんですよ。単純に考えて、書かれた文字で人間がこんなにコミュニケーションしている時代はこれまでなかったわけです。インターネットのせいで、都市部のホワイトカラーや学生のほとんどの人が1日に平均して1万字から2万字は活字を読んでいるはずなんです。だからその1万字から2万字を、だらだらした会話や、「サイゾー」の飛ばし記事みたいな(笑)スカスカの記事ではなくいかに中身のあるものに変えていくか。ツイッターと戦って時間を奪うこと、しかし本のような閉じたメディアはになはらず、今のソーシャルメディア文化とは異なった開かれ方をすることで消費者の時間を奪っていきたい。
ただ、そこで忘れてはいけないのは、人間のライフスタイルの変化を考えることなんですよ。例えば週刊誌が崩壊したのは、戦後的なサラリーマンが減ったからなのは間違いない。首都圏でいうと、東京の郊外に家を持っていて、専業主婦の妻がいて、1時間かけて都心に出てターミナル駅で乗り換える──そういう団塊世代を中心にした戦後的なホワイトカラーが、キオスクで朝買って電車や会社で読むものとして週刊誌はあったわけでしょう。これは誰の目にも明らかで、だからこそ内容もそこに特化していた。
でも、日本のホワイトカラーのライフスタイルは大きく変化しつつある。現在の若い都市部のホワイトカラーは、基本的に共働きで、そのため専業主婦が少ない。したがって昔ほど郊外には住んでいない。さらにほとんどの人がスマートフォンを持っていて、通勤時間はインターネットに接続してソーシャルメディアをチェックしている。だからキオスクで週刊誌を買わない、という結論が導き出される。だから本来はこういう彼らの新しいライフスタイルにどう斬り込んでいくかという問題から、メディアを設計し直さないといけないのだけど、そういうことを意外と既存のメディアの編集者やプロデューサーは考えていない。
だからそこに対して僕みたいな、小さいけど機動力のあるユニットを持っている人間がいろいろ実験してみるというのが世の中にとって必要だと思う。そしてかつての週刊誌が戦後的なホワイトカラーの文化と並走していたように、僕の発信する記事も新しいホワイトカラーの文化と並走していないといけない。と、いうか今は新しいホワイトカラーのための新しい文化を整備していくフェイズだと思っているんです。たとえば、文化人や企業家ひとつとっても、世の中には面白いことをやってる人間がまだまだたくさんいるのに、既存のメディアはほとんど拾えていない。そういう存在をどんどん僕のメルマガで紹介して、新しいホワイトカラーのスタンダードにしていきたい。
これがかつて雑誌ファンで、赤田祐一さんや小林弘人さんに憧れていた自分なりの、インターネット時代におけるケリのつけ方だと思っています。
■2020年まで続いてゆく「裏オリンピック」計画
ここまでは伝え方の話をしてきたけれども、少し内容の話もすると、何か社会的に大きな意味を持った文化的な提案を若い世代から出していきたいと思っています。
そういう意味で最近、自分でプロジェクトチームを組んで手がけているのは、「オルタナティブ・オリンピックプロジェクト」です。これは20~30代の若い世代が中心になって、2020年の東京五輪のプランを提出する企画です。次号の「PLANETS」の特集になる予定で、発売後も2020年までのイベントやシンポジウムや展示会、メディア露出を通じて社会に対して提案を続けようと思っています。
これは実は、先の話とも繋がっています。ロサンゼルス五輪以降、オリンピックのマスメディア化はどんどん進んできた。実際、テレビ業界は「これで20年まで生き延びられる」とホクホクしてる。
そこに対して、僕らはインターネット時代のオリンピック・パラリンピックというものを提示したい。
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最終更新日:2024-11-13 07:00
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