振り返る2013年のゲーム業界
岡本 PS4の初動は、20万〜25万台ぐらいだと予想してんたですけど、余裕で超えて32万台になりましたね。PS3の時は当初品不足だったせいで8万台程度からスタートだったから、かなり好調に立ち上がった。国内で家庭用ゲームを作っている人たちは、ひと安心したんじゃないかな。Wii Uがゲームキューブよりもさらに悪い状況で、Xbox Oneも全然だし、これでPS4が売れなかったら、今後10年さらにPS3で作らなきゃいけなくなってましたからね。
井上 32万台という数字が何を意味するのか、が重要ですよね。これは、「ソニー信者」なんて言われるファンがまだちゃんと付いてきてるという数字だと思う。この後1年間の伸び率がどうなのかと考えると、まだ楽観はできない。今までの戦いに比べても厳しい状況かな、と。
岡本 PS3は国内での立ち上がりが悪かったけど、今は据置機ではメインのハードになっている。今って、みんなの期待値というか、商売する上での最低ラインが低いと思うんですよ。なのでハードルは低くなっているから、そんなに厳しくはないかな、と。PS3とのマルチやPSVitaとのマルチもあって、早い段階で商売には乗ってくるんじゃないか。たぶん累計でPS3を超えると思う。5年ぐらいかかるかもしれないけど、初動のデカさは大きいし、全世界で売れているなら値下げも早いはず。PS3は2万円まで落ちるのに結構かかりましたけど、少し普及曲線が速いんじゃないかな、となんとなく思ってますけどね。
中川 少なくとももうすでに海外では600万台を突破してますよね。海外の勢いは強くて、これはソフトタイトルの発売状況にも言える。日本のコンシューマーゲーム市場は典型的なガラパゴス状況にあって、2013年の年間上位タイトルは1位が『ポケットモンスターX・Y』で、2位から10位を『モンスターハンター4』『とびだせ どうぶつの森』『トモダチコレクション』といった、ほぼ国内市場でしか通用しない相変わらずの3DS用タイトルが占めている。さらに6位に『パズドラZ』が入ってるのが面白いんですが。
岡本 『GTA』は80万本までいきそうな勢いですけど、これはすごいことで、PS2時代には考えられなかった。『コール・オブ・デューティ』も結構売れてますよね。でも掛かっている開発費とか、それに裏打ちされた品質という点では、当然の結果なのかもしれません。開発費や求められる品質に耐えられるスタジオがなくなってしまったという据置機ゆえの高いハードルがある。言ってみれば、洋画に押されていた頃の邦画みたいな状態になってきてるわけです。おそらくPS4世代の主役の大半は海外ゲームになってしまうのはほぼ間違いない。だから、その後映画界では邦画が盛り返したみたいに、日本のゲームも盛り返せるように、僕もそうですが、ゲーム会社が頑張るところなんですよね。
中川 というか、『海猿』とか『踊る大捜査線』が興収1位2位を取るような状況というのは、まさに現在の日本のゲーム市場そのもの。つまり『海猿』なりジブリ映画なりが『ポケモン』とか『モンハン』とか、見慣れたシリーズブランドしかヒットしない状況に該当する。後で議論するけど、大メジャーヒットシリーズと単館系のニッチの二極に収斂されるという意味では、ゲームは順調に映画や音楽の轍を踏んできてます(笑)。
井上 僕が2013年のランキングで面白かったことの一つは『パズドラZ』が、3DSで100万本以上売れてること。これは事態として新しいと思うんですよね。今までは、コンシューマーで売れてるIPの“劣化版”がソシャゲで出て、「そんなに楽しくないけど無料だから」と遊ばれる流れだった。それがようやく、ソシャゲで評価されたタイトルがコンシューマーで売れるという逆の流れが出てきた。今コンシューマーのほうは完全に売り上げの見積もりのできるタイトルでないと出しにくい状況がある。だからこそ、ソシャゲがイノベーションパイプラインの源流になっているんだと思いますが、だとしてもこれは非常に好ましい動きだと思うんですよね。
中川 まったく同感です。『パズドラ』以降の状況は、それ以前と比べるとゲーム好きにとってははるかにマシ。それ以前というのは、モバゲーとGREEが仁義なきトレーディングカードゲームもどき戦争を繰り広げていた、ガラケーSNSソシャゲの時代ですね。その中でガンホーが、ゲーム好きに訴えかけるものとして、スマホのタッチパネルインターフェースを活かし、縦使い画面の下半分を占める文字入力パネルのような画面構成で、一筆書き式のスリーマッチパズルをモンスターとの戦闘用コマンドに充てるという独自のゲーム性を編み出した。
岡本 そういう意味ではセガさんの『チェインクロニクル』はたとえばVitaで通用しそうな深みがあると思いますし、スクエニさんの『拡散性ミリオンアーサー』Vita版は、実際に商売になるような数字が出ているとは耳にします。非常に細くはあるけれど、家庭用でもいわゆる「F2P(フリー・トゥ・プレイ)」のビジネスが成り立ってきつつある。13年の東京ゲームショウではバンダイナムコさんが、『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』『鉄拳レボリューション』『エースコンバット インフィニティ』『ソウルキャリバー ロストソーズ』をF2Pの4大タイトルと位置付けていく、と宣言しました。スマホ以外でも、始めは無料でアイテム課金という形式が本格化してくる。PS 4にもそういうタイトルが最初からいくつかあります。いよいよ据置機でもパッケージで商売する時代ではなくなりつつあるというのが、大きな流れかなと。
中川 業界の中の人からすると、基本無料でアイテム等で課金するフリーミアム型のスマホゲームだと、どれぐらいのダウンロード規模で“キャズム超え”と見なされるんですか?
岡本 200万ダウンロードあたりでテレビCMを打って、それでブーストして300〜400万DLを超えたあたりでしょうか。ただ、ジャンルによって客単価が違うので、微妙に異なります。パズル系のような簡単なものだと400〜500万DLは超えないとそうは言えないし、RPGだと100万200万でもかなりの数字、という見方がある。
中川 なるほど。『パズドラ』以降の状況として、『チェインクロニクル』や『ブレイブフロンティア』あたりの200万ダウンロード級のゲームの登場のしかたが、『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』の後にJRPGの有象無象が出てきた時に似てるな、と感じたんですよ。つまり、『パズドラ』での破壊的イノベーションを受けて、その方向での“改訂洗練版”が充実していった1年だったという印象を受ける。
井上 ソーシャルゲームの市場自体が、似た改訂版を出回らせる速度が単純にコンシューマーの頃の3倍速ぐらいで回っているイメージがありますね。業界構造として、製作ノウハウを共有する仕組みが良くも悪くも高度に出来上がっている。その結果、やたら似たゲームがポンポン出来上がって、ユーザーが飽きてしまう。
岡本 確かに似たゲームが多いのは間違いないですね。一方でモバゲー・GR EEの全盛期は、“ガワ替え”といわれていたくらいで、本当に同じようなゲームが次々出てきていた。それに比べるとだいぶ健全さが増していて、今は必ずプラスアルファが必要になってる。ただ、そのプラスアルファがどのくらいのレベルなのか、という議論はあると思います。そこで革命的なものはまだまだないですよね。ただ、そもそもユーザーさんがそこまで求めてるのかどうか。たとえば『ポコパン』はLINEのモンスター級アプリですが、それと似た『ディズニー ツムツム』が登場したら、あっという間にLINEゲームの中でトップに立った。ちょっとした物理挙動が入っていて感触は違うけど、基本的なゲーム性は同じなんですよ。全く同じものはだめなんだけど、まったく違うものを求めているわけでもない。スマホゲームは空いた時間にやるものだから、イチから新しいルールを覚えるのは荷が重くて、ユーザーさんの抵抗感が強いです。
中川 LINEのカジュアルゲームが強いのは、知り合い間の小さなソーシャルグラフを通じて、やってるゲームの紹介やポイント贈与やランキング変動がどんどん押し寄せてくる点ですね。『LINE POP』がそれで大きく伸びて、それが順当に『ポコパン』や『ツムツム』に継承されてるかな、という印象です。
岡本 アクティブユーザー数は少し落ちてるという推測は出てきているんですけど、その分課金への慣れも若干あるので、トータルとしてはまだまだ強いプラットフォームですね。ただ、パズル系以外はLINEのユーザーさんにはあんまり刺さらないですよ。女性が多い証明だと思いますが、男性ユーザーはもう少し濃いゲームで遊びたい。そこを掬ったのが『パズドラ』だった。
中川 濃いものを求める層がLINEゲーム以外に行ってるんですよね。LI NEのプラットフォームでは、『パズドラ』級の濃いものは出てこない。ただ相互的な影響は確実にあって、『ポコパン』は、マッチパズルとモンスターバトルを組み合わせた基本構成をパクりつつ、それを時間制にしたりキャラをポップ化したりして『パズドラ』をカジュアル化したものだったと言える。
岡本 LINEさんの中にも、もっと露骨に『パズドラ』っぽいのはあるんですよ。でもそっちは当たってない。『ポコパン』ぐらいの、そんなにガチャを回さなくていいのがちょうどよかったんでしょう。『パズドラ』のように、ガチャを含めた育成の比重が大きいタイトルは男の子向けで、ユーザーさんからはみ出してしまうのかもしれません。それとダンジョンの長さなどのゲームサイクルの問題もあります。『ポコパン』は60〜80秒で1サイクルで、LINEのユーザーさんにはそれぐらいがちょうどよかったんだと思う。スマホゲームで重要なのは、1サイクルの長さをどう作っていくか。作り手としては悩まされるところです。
井上 もうひとつ、ソーシャルゲームじゃないマーケットも全部含めて見た場合の話として、実験的なタイトルをどこでやるのがいいかというのが、この数年ですごいはっきりしてきたと思うんですね。90年代なら、実験的なタイトルも、メジャーでガンガン売るタイトルも、良くも悪くも全部コンシューマーでやっていた。それがここ数年は、実験的なタイトルはインディーズやiOS、あるいはSte amで300〜500円で買えるようになっています。そしてそういうものが好きな人たちの間で評価を得て、海外ならIGFのようなゲーム系のフェスティバルで評価を得ていく、というインディーマーケットの流れが出来上がっている。一方で、コンシューマーは、シリーズものやタイアップなどもともとお客さんが付いてるIPに向けて売る市場になっている。ソーシャルゲームはその中間というか、開発コスト自体も高くなってきているとはいえコンシューマーと比べればそこまででもないし、数字を獲りに行くマーケットではあるけれど、まだいろいろ多様なやりようはあるという感じ。この3つのマーケットで、だいぶ方向性が分かれてきてる。そこがはっきりしてきた1〜2年だったかな、と。
中川 前回の「文化時評アーカイブス」ゲーム座談会で、そういうふうにプラットフォーム別に細分化したゲーム文化が成立したのを確認しましたね。先程見たように、スマホの中ではLINEのカジュアルゲームと『パズドラ』的なもう少し歯応えのある独立アプリ系がある。コンシューマーでは、PS3で『風ノ旅ビト』がスマッシュヒットして、150 0円ぐらいで買えるダウンロード専用タイトルの認知度が日本でも高まり、まるで単館上映系の文芸映画のようなニッチができた。その状況が2013年にも順当に続き、『パズドラ』後のスマホゲーと同様、『The Unfinished Swan』や『Rain』のような同系統のバリエーション作品が出てる。とはいえ、このニッチは実験性はあるけれど、どうしても『ICO』『ワンダと巨像』に似た上田文人ゲーのエピゴーネンという印象を拭いがたいですが。
井上 90年代と2000年代初頭が良かったと今になって思うのは、インディーズ系ゲームでも、実験的でかつ数億以上の予算がかかって仕上がりのクオリティも良いタイトルがあったことですね。今は、そういうタイトルが少なくなっています。実験性のあるタイトルは増えてるんだけど、仕上がりは粗いのがだいたいのインディーゲームです。僕自身はそういうゲームは好きだけど、仕上がりもよくて実験的なのもやりたいと思ったときに、いいものをピックアップしにくい状況になってきているという側面もある。
中川 やっぱりインディーズ系が盛り上がっているのは、北米圏が中心ですよね。日本だと、実験的なタイトルがどこにあるのかもあまり見えない状況がある気がします。
井上 ただ、ひとつ希望があるのは、2013年はフラッシュゲーム『クッキークリッカー』のヒットがありました。あれは粗いどころの話じゃなくて、クッキーをクリックするとクッキーがひとつ増える、究極的にはそれだけ(笑)。延々とクリックしていってクッキーを作るおばあちゃんを増やしてパワーアップさせたり、クッキー工場を1000クッキーで買えたり、とにかくクッキーをただただ大量に作っていく。いってみれば『ぐんまのやぼう』『おさわり探偵なめこ栽培キット』のラインですね。『クッキークリッカー』のゲーム自体に完成度がないというのは、始めて最初の5秒でわかる。あとはネタ消費としてやってもらえるかどうか。僕は『クッキークリッカー』みたいものがバッと広がるのはいいことだと思います。今までのいわゆる“ゲーマー”のゲーム消費の仕方とは全く違うスタイルのマーケットが─マーケットという言い方が正しいのかは謎ですが─立ち上がっている。
中川 自分のアンテナが低かったこともあるんですが、13年はガチなスマホゲームにしか出会えてなくて、『ぐんま』とか『にゃんこ大戦争』のラインの新ネタに出会えなかったのが物足りなかった1年だったんですよ。『アルパカにいさん』はさすがに出オチすぎたし……。
井上 『にゃんこ』は『ぐんま』系のユルいものと戦略性の高いゲームの中間ぐらいの位置付けのタイトルですね。ソシャゲの育成系ゲームとしてはそこそこちゃんと遊べるものに仕上がってる。そこに「にゃんこキモいなー」みたいなネタが挟まり、『なめこ』的なムーブメントと、ソシャゲのある程度作りこまれたもののハイブリッドでやられた感じですよね。
中川 『にゃんこ』的なタワーディフェンスを一歩ハイブロウにしたガチ和ゲーとして、『チェインクロニクル』が出てきたなという印象。スマホを横にして構えるという、縦使いの日常動作よりは専用機寄りの集中を要しつつ、勝手に敵軍が進行してくるのを煩雑すぎないタッチで食い止める操作系が、ちょいコア向けスマホゲーとして適確で、一つのスタンダードになりうるなと思いました。
岡本 あれはセガさんのアーケードのチームが作っていて、従来のソシャゲの文法からはかなり外れてるんです。ソーシャルゲームを作っていた業界人は最初「これはちょっとソーシャルゲームとしてどうなの」って反応悪かったぐらいだったんですが、意外と王道がハマっちゃった。逆に、業界人がいきなり褒めるようなものは、ちょっと違うな、となっていたのが2013年だと思います。「脱ソシャゲ」「脱カードゲーム」がすごくはっきり出てきたと感じました。ただ、とはいえ、ユーザーさんがゲームに関してすごく情報を集めてくださるかっていうと、残念ながらそんなことはない。だからファースト画面でジャッジされることがすごく多くて、逆にカードゲームの流行っていた頃以上に見た目が重要なんです。イラストだけ良ければいいわけでなくて、そもそもキャラクターをどう見せるのか。ちょっとした手触り、UIや提示の仕方で刺さり方が違ってきて、そこで「お、新しいな、でも簡単そうだな」と思うとユーザーさんが集まってくださる。それが今起きてる現象かなと。
井上 PCブラウザゲームのタイトルで、マンスリーで70万ユーザーいるというのはちょっと驚きですよね。中身もある意味地味というか、万人受けするゲームデザインとまではいえないですし。
岡本 『艦これ』の口コミがどう広がっていったかは、もう歴史に埋もれてしまっているところもあると思うんですけど、モバゲーの『アイドルマスター シンデレラガールズ』が、年数が経って実は結構飽きてきて課金疲れもしてきていたところにうまくハマったというのはありますね。ツイッターでハマっている人を見ていても、初期は“プロデューサー”さんが結構多かった。それと、同人界隈でひとつ大きな話としては、「東方」のユーザーさんが移ったこと。「東方」の同人誌を描かれているイラストレーターさんを、狙い撃ちにしてイラストを発注したんじゃないかと言われてます。『アイマス』も「東方」も、どちらも時間が経っているコンテンツなので、新鮮なものを求めていた2つのコミュニティからアクティブなユーザーさんを採ってきたところが大きいのかもしれません。
中川 あとはゲーム内の文脈というよりは、アニメ『ガールズ&パンツァー』等の流れで、「ミリタリー+萌え」という組み合わせへの敷居がずいぶん下がっていたことが大きかったと思うんですよね。『宇宙戦艦ヤマト』や『ガンダム』の時代から、戦後日本のオタクコンテンツの底には第二次世界大戦での日本軍の戦いを捉え直そうという情念が連綿とあったわけですが、これまではそれがストレートには出せずSF的にぼかすしかなかった。それがここに来て、かくも赤裸々な「メカと美少女」のフェティッシュを通じて太平洋戦争の詳細に真正面から立ち入るコンテンツがヒットしたのは、宮崎駿の『風立ちぬ』やNHK朝ドラ『ごちそうさん』との共振も含めて、文化史的には大きな事態だと感じます。