宇野常寛、AKB48
37thシングル 選抜総選挙を徹底総括!

☆ ほぼ日刊惑星開発委員会  ☆
2014.6.10 vol.089

さる6月5日、雨の降る味の素スタジアムでAKBグループ1年に1度のお祭り、選抜総選挙の開票イベントが行われました。圧倒的に多くの人間が指原莉乃の前人未到の連覇を予想するなか、結果は過去最大の得票数を記録して、渡辺麻友が1位に輝きました。驚きの連続だった今年の総選挙を、宇野常寛が徹底総括!

▼今回の総選挙順位結果はこちら
 
 
■はっきり言ってしまえば面白みを感じませんでした
 
――まずは宇野さんの今回の総選挙の全体的な印象を教えてください。

宇野 僕は2011年から今回まで、4回の総選挙を見てきているけど、予定調和的だなと感じたのは2回目でしたね。

1回めは2012年、前田敦子が卒業を発表して総選挙を辞退した年です。大島優子が順当に繰り上がって1位になっていて、僕は、ああ禅譲が起きたんだなという以上の感想がなかったんです。この年は、アンダーガールズにSKEのメンバーが大量に入ってきたことには驚いたけど、松井珠理奈と松井玲奈の支店エースもいまいち伸びなくて、いまひとつ盛り上がりに欠けていました。前田敦子という巨星が抜けて、そのぶん優子が順位をあげると。ただそれだけで何も変化が起きていなくて、当時のAKBがいかに煮詰まっていたのかを示していたようにすら思います。2012年の総選挙は、大島優子1位という巨大な予定調和が実現しているだけで、その後のAKBの大変革へのプロローグにすぎなかったんですよ。

そして、続く2013年の総選挙では、指原莉乃が完膚なきまでに予定調和を破壊し尽くしていた(笑)。スキャンダルがあり、博多への移籍があり、誰もが翌年に指原莉乃が総選挙1位に君臨することになるなんて思ってもみなかったわけです。まさに混沌と混乱の中から生まれた「あっと驚く奇跡」としか言いようがないものですよね。

僕は、AKBの魅力は「まさかこんなことは起こらないだろう/起こってはならない」と多くの人が思っていることが、実際に起こってしまうところにあると思っています。あってはならないことが起きたときに、どうしようとシリアスに困惑しながらも、みんな9割の愕然にくわえて、心のどこかに1割のワクワク感がブレンドされている。その結果として、素晴らしいコンテンツやムーブメントが生まれていくというのがAKBグループなんだと思います。

去年は指原莉乃がセンターの「恋するフォーチュンクッキー」のダンス動画がブームになりましたが、このことも、彼女の奇跡のような逆転劇という物語が背景にあったことは疑いようがないことでしょう。

それに対して、今回の総選挙はやはり予定調和的だったと言わざるを得ないというのが、僕の率直な感想です。もちろん、指原莉乃が1位を陥落して、前人未到の連覇を逃したことが良くないと思っているわけではありません。ただ、僕は渡辺麻友(まゆゆ)が1位になるAKBに、若干の不安をおぼえてしまっているということです。言うまでもなく、僕はまゆゆのことを、AKBを代表する素晴らしいメンバーだと思っています。陰ながら人一倍の努力をしていて、去年の総選挙でのスピーチで言っていたように、AKBに全てを捧げてきた人間だと僕も思っています。だから、報われて当然の人間だと思うんですが……同時に、報われて当然の人間が報われるのがAKBだ、とは思わないんです。

報われるべき人が報われるということは他の世界でもいくらでもあることで、僕は残念ながら、渡辺麻友の1位ではAKB独特の魅力である「あっと驚く奇跡」が生まれる予感がしていないんです。かりに、松井珠理奈もしくは山本彩が1位を獲得していたら、このことは純血の支店メンバーがついにトップをとる時代に変わったという証明にほかならなくて、むしろ本店も含めてますます盛り上がったのではないかと、つい考えてしまうんですよ。やはりAKBのカオスな部分に魅力を感じる僕にとっては、渡辺麻友の1位はあまりにも順当で、はっきり言ってしまえば面白みを感じなかったんです。

ただ、まゆゆ個人については僕は本当にリスペクトしていて、まゆゆはセンターにふさわしくないというふうには受け取らないでほしい。むしろまったく逆で、麻友は最高で完璧で、あまりにもセンターにふさわしすぎるがゆえに、天邪鬼の僕は面白みを感じていないというだけなんです。でも、AKBは常に王道や正統派というものを否定して発展してきたグループであることも、忘れてはいけないんじゃないかなと思います。
 
 
エリア戦の結果、二強二弱の状況が露呈した
 
――各グループ間の勢力図はどう書き換わっていったでしょうか?