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「未来の跡地を歩く――2020年オリンピック施設探訪」山梨知彦×門脇耕三×宇野常寛 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.104 ☆
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「未来の跡地を歩く――2020年オリンピック施設探訪」山梨知彦×門脇耕三×宇野常寛 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.104 ☆

2014-07-01 07:00

    「未来の跡地を歩く
    ――2020年オリンピック施設探訪」
    山梨知彦×門脇耕三×宇野常寛
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.7.1 104 vol.104

    本日のほぼ惑は、『建築ノート』の第10号(2014年4月1日発行)に掲載された、山梨知彦×門脇耕三×宇野常寛による2020年オリンピック施設の探訪記です。3人がそれぞれの立場から思い描く、未来の東京のビジョンとは――?

    建築界は2020年のオリンピックの話題に揺れている。しかしトピックといえば新国立競技場のコンペをめぐる堂々巡りが続いているのみ。1施設のダメ出しに終始するばかりじゃなく、まずビジョンだろ!
    ……と、2014年も明けたばかりのある日、大手建築設計事務所の山梨知彦とサブカルの論客・宇野常寛、建築学者・門脇耕三の3人が、2020年のオリンピック開催予定地をフィルドワーク。
    ネットワークの進化にともない、都市に求められる機能はどう変わるのか。インフラからライフスタイルまで、東京の都市の将来像を語り合った。

    ※本記事は抜粋です。写真付きの全文は、『建築ノート』本誌で読むことができます。
     
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    ▼プロフィール
    山梨知彦〈やまなし・ともひこ〉
    1960年東京生まれ。東京藝術大学、東京大学大学院を経て日建設計。同社執行役員、設計部門代表。主要作に「木材会館」、「ホキ美術館」、「ソニーシティ大崎」など。オリンピック関連施設の設計にも関わる。
     
    門脇耕三〈かどわき・こうぞう〉
    1977年生神奈川県生まれ。東京都立大学(現・首都大学東京)大学院修士課程修了。同助手、首都大学東京助教を経て2012年より明治大学専任講師。建築に関する研究・設計・技術開発に関わる。博士(工学)。
     
    ◎企画・構成:ぽむ企画
     
    │10:00│
    ■国立競技場前:都市の課題を解決せよ!
     
    宇野 今日は結構人が集まってますね。バレーボールの大会でしょうか。僕、ここに来るのはじめてです。まったく縁がないですね、スポーツに興味ないから。

    山梨 僕もオリンピック施設の設計に関わってはいるけど、実はスポーツには無関心。

    門脇 このメンバーの共通点は、オリンピック競技自体には興味がないけど、オリンピックには関心があることですね。でもこの場所で僕たちは異質で、いま集まっているのはスポーツに興味がある人だけ。都心で駅にも近くて便利な場所なのに、周辺と縁が切れている。

    宇野 僕がこういう場所に来るのって、AKBの握手会くらいですよ。でも握手会って普通に7、8万人が集まるから、都心の大箱って貴重。

    山梨 え、そんなに来るんだ? でもスポーツ界でも大箱を求める声はある。たとえば東京には8万人規模のサッカースタジアムがないけど、ロンドンなんかは3つある。だからサッカーファンの間では大きいスタジアムがひとつぐらい東京にあってよいという意見がある。

    宇野 握手会に参加するのって大変なんですよ。半年前から予約しないとならない。ちょうどいい箱がないというのも要因のひとつで都内の大箱が少ないから、握手会の日程がどんどん先送りになっている。

    山梨 オリンピックとか握手会のような人が集まる場所では、チケットのもぎりを設けるのがこれまでのセオリー。でも今さらもぎりじゃないでしょう。たとえばPASMOみたいなプリペイドカードを使うのかもしれない。サンフランシスコは「Clipper」という交通機関でも文化施設でも使えるカードができ、旅行客にとっても劇的に便利な街になった。PASMOを使えばインセンティブを使って、特定マストラへの人員誘導すらできる。そういうところを意識して施設計画をしないと。

    門脇 以前、宇野さんに新国立競技場に関する建築界の議論を紹介して、なぜ施設単体の是非ばかり論じているの? という話になりましたね。

    宇野 僕は新しい競技場ができて代々木というまちがどうなるのか、都市計画や文化がどうなるのかという話をしないといけないと思うんです。なのにマンションの日照権レベルの話しかしていない。

    山梨 オリンピックという機会を都市の課題の解決に使うべきなのに、コンペの責任論やデザイン論にのみ陥っているね。たとえば、デザインオリエンテッドなコンペでは、予算超過はよくある話ですよ。予算1300億円と示してコンペしたら、2600億円のものが出てくる可能性を想定しておくべき。選定後は社会情勢に従い、賛同の声が大きければ予算を増額し、小さければ案を軌道修正をして予算に落着させる。むしろそれがコンペかもしれない。
     
    │11:00│
    ■代々木→湾岸:二周目のオリンピック
     
    門脇 こんなに表参道や原宿に近いのに、ぜんぜん代々木競技場側に人が流れていない。

    宇野 スポーツ観戦の後に表参道へ、みたいなコースが確立されていないんですかね。

    山梨 人の動きのきっかけを生み出すものとして、SNSやPASMOなどが存在感を増している。ITとつなげないとオリンピックのグラウンドデザインは上手くいかないと思う。

    宇野 もう都市空間から文化が出てきていないんですよね。裏原宿が最後です。その後は、魔法のiらんどからケータイ小説、ニコニコ動画からボーカロイドというふうに、ネットコミュニティから出てきている。秋葉原も、実はメディアで広がったブームに都市が後から合わせた感じです。AKB劇場が誕生したのも『電車男』の後です。都市や地理が文化を生むのではなく文化が都市を決定している。オリンピックに向けて都市を設計するなら、ネット以前の感覚では意味があるものはつくれない。

    山梨 カルチャーが先行し、都市が追従する現象を踏まえるのは重要ですね。オリンピックもロス五輪以降はメディア先行で施設が追いかけるやり方になっている。

    宇野 ロンドン・オリンピックでもほとんどの人は競技場には行かず、スポーツバーで盛り上がっていたそうです。メディアが文化消費の回路を変えて、それに対応して都市が変わる流れが自然発生している。都市開発はそこを織り込んで考えないと。

    山梨 僕は64年の東京オリンピックのようなものを一周目のオリンピック、2020年のようなものを二周目のオリンピックと名付けている。ハードウェアをつくって高度経済成長に乗せるのが一周目。テーマが明確で力強く、国民も同じ方向を向く。で、二周目なんですが、それに近い性格のロス五輪は、既存の施設の再利用を謳い金銭的な負担をあまりかけないコンパクトなオリンピックをやろうなどと言っていたんです。それが不思議な方向に先鋭化し、金権オリンピックという悪しきレッテルが貼られてしまった。ロンドンも大成功だったと言われているけど、何がテーマなのか今ひとつ見えないものになってしまった。今度の東京では、成熟した都市としての新しいテーマを標榜しないとまずいと思う。

    宇野 去年ロスに行ったけど、まったくオリンピックの爪跡を感じさせない都市でしたね。北京は一周目だから開き直って演劇的なオリンピックで、ロンドンはおそらく映像演出に主眼を置いた。東京は、やるなら情報社会化のオリンピックですよ。映像もただ観客受けを狙うのではなく、いかにインタラクティブに参加できるものにするか。

    山梨 建築側はついハードウェアですべてを解決しようとする。でも僕らはネットワークというフローを手に入れたのだから、それを踏まえた施設計画をしないと意味がない。

    宇野 誰もが今より精度の高いグーグルマップを持っている前提では、ハードウェアでやれることはかなり減る。たとえばおいしいものを食べに行きたいときは、食べログ見てピンポイントでタクシーで乗り付けますよね。「人形町にあるすき焼き屋とその文化的背景」とか、お客を呼ぶ方はアピールしたいんだろうけど、ユーザーには関係ない。まち並みや都市空間の意味は薄くなっています。その状況で仮に代々木をスポーツ文化の街につくり変えようとするなら今の発想ではだめ。立地を生かし、都市空間に雑多な人種が集まった状態を再生するなら、バレーマニアがバレー観て帰っていくという現在の状態は非常にまずい。

    山梨 今、経路選択をコンピュータが自動的にスイッチングし、一番空いているところに人々を誘導するとかできるわけです。同じようにPASMOのようなカードを使えば、既存のインフラを最大限に効率的に使った人員誘導をすることだってできる。ICTと連動した人間のフローを踏まえた都市やインフラの構築は、可能性があると思う。

    門脇 コミックマーケットの時にビッグサイトに向かう人々の列はさながら現代の巡礼のようで、そんな光景を捉えた荘厳な写真をSNSで見たことがあります。

    山梨 人々の行動を現代的な巡礼に見立てるとすると、施設がディスクリートに置かれていても、ICTによるネットワークで適切につなげば、人はそこを起点に動くはず。次の東京オリンピックの都市計画では、このくらい状況を見越したビジョンを描けないと面白いものにならない。

    宇野 (丸の内、皇居のお堀端近くの建物を見て)あれ、ニッポン放送です。毎週金曜日、こんなところまで来ているんですよ。オールナイトニッポン0という、昔の「2部」にあたる枠でやってるんです。

    山梨 僕が10代の頃にあった枠と同じだ。へえ、ここから発信しているんだ。

    門脇 宇野さんのイメージと全然違う街。

    宇野 でも渋谷や中目黒より許せる。人間は10歳年上のお兄さんがしていることが苦手だからちょっと昔のポップカルチャーは嫌なんだけど、ここまで枯れた場所だとニュートラルに感じられる。

    門脇 この前、ラジオでオリンピックの話をしたそうですね。

    宇野 放っておくとオリンピックはオールドタイプの人の思い出を温めなおすだけに終わってしまう。だからオリンピックをいかにハッキングするかが大事だと話したんです。メディア関係の人たちは、オリンピックが来たから2020年まで生き伸びられると胸をなでおろしている。でもそんな単純な話ではないと思う。

    山梨 下り坂の日本を象徴しかねないね。

    門脇 僕は問題の先送りが一番怖い。震災と原発の問題を決着させるべきオリンピックのはずなのに、逆に目くらましに使われそうで。

    宇野 都市部のインテリの若い人たちは冷ややかですよ。ネットでも冷ややかな反応が多い。けど、それでいいと思う。重要なのはそういったバラバラな、成熟社会下のオリンピックをどう描くかだと思う。

    山梨 成熟した都市のオリンピックのあり方って、ロンドンもロスも描けなかったことですよね。

    宇野 実は僕、ロンドンオリンピックの競技は一秒もみてないんですけどね。

    山梨 実は僕も。

    宇野 ある程度成熟した社会では、オリンピックだからといって国民全員が関心を持つとかありえないし、それで今の日本で社会を統合する必要もない。それよりもどう利用して面白いことができるかを考えないといけない。で、僕は文化祭をやりたいんですよ。たとえばパラリンピックって規模が小さめだから、オリンピック期間は使えない施設も使えたりするんじゃないかと思う。オリンピックが東京ビッグサイトを使う影響で変則開催にせざるをえないコミックマーケットは、超ビッグコミケにして5日間くらいやるとか、パリで盛り上がっているジャパン・エクスポを東京開催してみるとか、普段春にやるアニメショーやゲームショーを夏にしてみるとか。で、日本に2週間いたらサブカルチャーが全部わかるようにすると。

    山梨 面白い! 現在は価値観が多様化し、それぞれのネットワークが多元的に存在するわけですよね。はじめてそれらを重ねてみる機会になると。

    宇野 同じ会場でも、昼は陸上競技をしているけど、夜はアイドルのコンサートをしているとか。情報テクノロジーを利用したら多少複雑なプログラムも実現できると思う。そうしたら2020年なんてケッて思っている僕みたいなやつも熱くなれる。

    門脇 宇野さんと一緒に、オリンピック裏文化祭のシミュレーションをしようという話をしているんです。目的的にできている都市構造をどのように読み替えられるかと。最終的には2020年にひとつでも実践に移せればと思っています。
     
    │12:00│
    ■有明:文化の中心は「東側」に
     
    山梨 このあたりは、なんというか地の果て感がある場所だね。64年の頃にはできていた埋立地なんだけど。

    宇野 こういうところをスポーツエリアとして開発して外国人を呼ぶとか、全然ピンと来ないです。海外向けの観光開発を考える上で、なぜあえてスポーツなのか。

    門脇 競技施設を大箱と捉えれば、この地区の希望になる部分もありそうです。

    宇野 現代の大箱イベント化の傾向にハードが対応できていないから、そこは大きい。

    山梨 僕、今日の話を聞くまで新国立競技場はスポーツ施設として使えばいいと思ってたの。でも握手会に7、8万人が集まると知って、新しい世界が開けた。

    宇野 少ないと言われる規模で5万人とか集めるんですよ。冬の寒い日でも。

    門脇 箱の内部はよいとしても、街路には魅力が薄いですね。学生時代、デートでこのへんにテニスを見に来てまったく盛り上がらなかったんですが、あれは街のせいだったのではないかと。

    山梨 確かにここは会話は弾まなさそう。

    門脇 90年代の有明はそういう寒い場所になっていたんですが、次のオリンピック開発が二の舞にならないように、箱の中の祝祭性が外部に表出するような街のあり方が課題でしょうね。

    山梨 2016年の誘致の時も湾岸開発がひとつの焦点で、さっきの選手村のあたりがメインスタジアムの予定地。その時は木造にする、緑を入れるといった建築っぽいコンセプトがあったけど、今回はゾーニングしかない。ヘリテッジゾーンと東京ベイゾーンの役割分担もない。

    門脇 グローバルシティとしての競争力を増すための湾岸開発は東京都の積年の夢。だから何度も取り沙汰される場所ですね。

    山梨 でも都市とネットワークとの連携を描くには今回はすごくいいタイミングだと思う。PASMOのようなシステムがここまで普及している国ってあるの?

    門脇 日本は早いし、普及率も高いです。

    山梨 コンビニでものが買えて何にでも乗れるカードなんてほぼないですよね。オリンピックのチケットは、カードへのチャージがなされるような状況になると思う。

    門脇 記名PASMOのような形式にすればセキュリティもOKになりますね。

    山梨 PASMOを使えば、都市計画で行うOD調査がリアルタイムでできるわけでしょ。これまでとは全然違う人員誘導計画ができるし、そこで得られる情報は世界的にもすごい価値をもつ。

    宇野 政府はこのあたりを観光地として開発して外国人にお金を落としてもらいたいのか、郊外の21世紀版として人に住まわせたいのか、どちらなんでしょうね。

    山梨 曖昧なんじゃないですか。ビジョンがないからお金の使い方が無駄に見える。

    宇野 ヘリテッジゾーンとベイゾーン、つまり旧市街と新市街に中途半端に分けているのはどういう意図なんだろう。それなら湾岸を独立させた方がいいでしょうね。羽田と成田が直結されて千葉と神奈川のヤンキー文化圏が結びつき、アイドルのコンサートもやる、超高層にはアッパーな人も住むというめちゃくちゃハイテンションなバランスの都市が実現すると。

    山梨 そうか、サブカルチャーシティなんだ。それに比べると今のオリンピック計画は健全すぎて面白くないね。

    門脇 東京には長らくハイテンションなアーバニズムが生まれていないので、あってもいいし、あるべきだと思うんですよ。

    山梨 歌舞伎町、渋谷、原宿と、各時代にあったマッドネスな場所が今はないよね。

    門脇 いま東京で、新しい場所で人を呼べるものって何?
     
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    最終更新日:2024-10-25 07:00
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