奇しくも「メルマガPLANETS」創刊号の配信日と同じ9月7日(金)に、自民党の石破茂さんとの共著『こんな日本をつくりたい』(太田出版)が発売になった。企画の発端は昨年の秋、僕が出演したNHKスペシャルだ。「政治漂流」をテーマにしたその番組の出演者のひとりに石破さんがいた。他の出演者は民主党から岡田克也氏と古川元久氏、自由民主党から林芳正氏、そして経済学者の浜矩子氏だった。正直、僕がなんで呼ばれたのかよく分からなかったけれど、おそらくノンポリの若者代表として呼ばれたのだと思う。なので、僕なりに、ひとりの有権者としてなぜ現代の政治に希望がもてないのかを、率直に話したつもりだけれど正直言って、壁に向かって拳を叩きつけたような徒労感が残る出演だった。この番組は生放送だったのだけど、その分、台本というか番組構成がしっかりと決めてあって、後半はなぜか「明日の日本に必要なリーダーは対決型か、協調型か」という問題設定に強引にもっていかれてしまった。しかし、僕にはこの数年の政権の不安定は今の社会に現行の議会制民主主義のシステムが合っていないために起っているようにしか思えない。だから誰が総理になっても、対決型でも協調型でも政権が安定しないのだ。選挙制度改革や政党法の整備、ひいては両院制度の見直しまで射程に収めた議論が常識的に考えて必要だ。それを、この番組はあろうことが「望ましいリーダーシップの形」といった居酒屋談義的な人格論に落とし込もうとしている。僕はさすがにこれはないだろう、と思って番組の構成にまでケチをつけて、議論を混ぜかえし続けた。しかし、他の出演者は「空気を読まない」僕の話を無視するか、適当にあしらい続けた。ただひとり、石破茂を除いては。
番組の出演は徒労感の多いものだったが、収穫はあった。それは石破茂という政治家を知ったことだ。ざっと調べた限り、思想信条は僕とかなり距離があるが、少なくともこの人物は今の心ある国民がどういうメカニズムで政治不信を抱いているか、その解消のためには何が必要かは分かっている。僕は、もう一度じっくりとこの人と話をしてみたいと思った。そして、この人の考えている未来の姿を聴いてみたいと思った。
そんな僕の話を耳にした知人の編集者が出版社に企画を持ち込み、本書の出版が動き始めた。むろん、僕はふたつ返事で了解した。そして石破事務所からある日、明日時間が取れるのでこの企画のプレゼンテーションに来てくれという連絡が突然あった。僕はその日、インターネット番組の生放送があったのだけど、そのあと大慌てで資料を作成し、議員会館へ向かった。僕が一通り喋り終わると、石破さんはこんな話をはじめた。自分は車が好きだ。先日某メーカーの施設に見学に出かける機会があった。そこはそのメーカーの歴代の車種がすべて展示してある資料館で、自分が若い頃憧れていた車がずらりと並んでいて、たいへん胸が躍った。そのときに、メーカーの担当者が若者の車離れを嘆く発言をした。しかし、自分はそれに違和感を抱いた。それは、メーカーが若者が憧れる車を作ることができていないだけかもしれない、と思ったからだ、と。そして若者にとっての「政治」も今、同じような状況下にあるということなのではないか、と。若者が「こんな社会に住みたい」と思えるようなビジョンを出せていないだけなんじゃないか、と。……つまり、この本の企画を受けてくれるということらしい。うれしい反面、これは手強いな、と思った。この人は喋り慣れているし、こちらの意図を読み半分乗っかりながら自分のペースにのせていく術にも優れている。文学的な比喩能力も高い。僕はこの人に負けないように、全力で、いやそれ以上の出力と周到さで望まないと、この仕事はうまくいかない。そう思ったのだ。
あれから約半年、数回にわたる対談収録をまとめ、話題別に整理したものがこの本だ。収録の中、北朝鮮のミサイル問題があり、消費税増税を巡る政治的混乱があり、そして原発再稼働問題に対する批判運動が盛り上がりを見せた。そんなこの国のかたちをうらなう一連の事件の中で、僕も石破さんも「きれいごとはもういいだろう」という前提の上で、本音をぶつけ合ってきた。意見が衝突した個所もひとつやふたつではない。しかしその分、嘘のない、いい本になったと思う。この本を読み終えると、たぶんそこには広大な地図が広がっているはずだ。それは「こんな日本をつくりたい」という明確なビジョンに基づいた夢の地図だ。ふだん政治や社会のことに関心がもてない(僕のような)人にこそ、ぜひ手に取ってもらいたいと思う。
▼『こんな日本をつくりたい』,太田出版,2012
http://www.amazon.co.jp/dp/4778313259
▼9/21(金)21:00~自民党「Cafe Sta」に宇野が登場!
http://www.jimin.jp/activity/movie/0ch_cafe_sta/index.html