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イギリスの政治家は失言をしないのか?(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第5回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.256 ☆
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イギリスの政治家は失言をしないのか?(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第5回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.256 ☆

2015-02-05 07:00

    ※メルマガ会員の方は、メール冒頭にある「webで読む」リンクからの閲覧がおすすめです。(画像などがきれいに表示されます)

    イギリスの政治家は失言をしないのか?
    (橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第5回)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.2.5 vol.256

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    本日のメルマガは、『現役官僚の滞英日記』第5回です。今回はロンドンのハード面としての交通・道路事情、ソフト面としての言論・ジャーナリズムの在り方を、東京との比較から考えます。

    橘宏樹『現役官僚の滞英日記』前回までの連載はこちらのリンクから。
     
     
    こんにちは。橘です。ロンドンに来て半年が過ぎました。最近、小さなことなのですが、今住んでいるところと、東京で住んでいたところが、非常にそっくりであることに気がつきました。ロンドンの真ん中には、テムズ川という川が東西に曲がりくねりながら流れているのですが、私は今、このテムズ川を渡って南の岸のすぐそばに住んでいます。市役所やthe Shardという地上306メートルのランドマーク的な高層ビルの近くで、川を渡って少し歩くとセント・ポール寺院という非常に有名な大聖堂があります。川に沿って西に1時間ほど歩けば、国会議事堂や官庁街にたどり着きます。東京で暮らしていた時は、東京スカイツリーや墨田区役所のすぐそばに住んでいました。川を渡って少し歩くと、浅草寺があり、隅田川に沿って江戸通りを南下していくと霞ヶ関に至ります。だいぶ似たような位置関係の場所に住んでいると思いませんか?このことに気がついたのは、電車がテムズ川に架かる橋の上を渡って行くのを眺めていたとき、はたと、東武伊勢崎線がスピードを落としながら浅草駅に入っていく隅田川の景色によく似ているな、と思ったことがきっかけでした。そして、テムズ川の北側は荘重な建物の並ぶ旧市街やガラス張りの高層ビルが並ぶ金融街がある一方で、南側は移民が多く住み、雑然とした古いマーケットが賑わういわゆる「下町」になっていて、これもちょうど隅田川の東西と同じような感じなのです。
     
    では、逆に、都市としてのロンドンと東京では何が違うでしょうか。どちらが「進んで」いるでしょうか。それはなぜでしょうか。ロンドンが進んでいるとしたら、それは東京にも取り入れられるものでしょうか。今回は、ハード面の違いとしてまず、交通、道路。そしてソフト面ではマスメディアの拠点である首都ロンドン・東京の言論壇における違いについて気がついたことに触れてみたいと思います。

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    ▲セント・ポール大聖堂からの眺望。左奥の三角のビルがthe Shard。天気はいつもこんな感じ。
     
     
    ■交通

    ・地下鉄
    まず地下鉄です。ロンドンではチューブという市営地下鉄が縦横無尽に張り巡らされていて、市民の足として利用されています。私も毎日のように利用しています。「オイスターカード」と呼ばれる東京で言えばSUICAやPASMOのようなICカードがあります。市営バスと共通利用です。学割もあります。
     
    料金は、Zoneという単位で区切られていて、Zone1が中心です。中心に近い区域に向かうほど料金が高く、また時間帯によっても値段が違います。例えば、オイスターカードを使ってZone2からZone1に向かうと、片道で現在オフピーク時だと約400円です。ピーク時には約500円かかります。ちなみに現金で切符を買うと、どの時間帯でも約850円かかります。さらにオイスターカードにはdaily price capと呼ばれる1日の課金上限(約1000円)があって、一日で何度乗り降りしても、オイスターカード利用者はこの金額以上の額は引き落とされません。旅行者にとってもお得です。明らかに「ピーク時乗車を避けてくれ」「現金よりもオイスターカードを使ってくれ」という意図が見て取れます。経済的な傾斜をつけて「ソフトに」大衆行動を誘導する、以前ご紹介した「ナッジ」的政策がここにも見られます。
     
    ▼「ナッジ」に触れた回はこちら。
     
    地下鉄駅構内は非常に古いです。駅によっては苔むすレンガや石造りの、ローマ時代の水道や坑道のような構内に改修を重ねてギリギリ使っているという風です。携帯の電波はたいてい入りません。また、通路やエレベーターは乗客と降客で出入口が異なるなど動線がはっきり分けられています。間違えて戻ったりする際はなかなか大変ですが、客同士がぶつかったりしにくいので個人的にはスムーズで良いなと思います。エスカレーターやエレベーターは、ある駅もありますが、あってもよく故障して止まっています。ホームに通じる階段にはたいていこれまた狭い螺旋階段ですが、「176段あります」などと段数が明示してあります。ほぼすべての駅では、どこかで必ず階段を使わなければホームまで降りられませんので、乳母車、大きな荷物を抱えた旅行者、お年寄りや障害者には大変酷です。しかし、乳母車や荷物を抱えたご婦人には、必ずそばの誰かが手を運ぶ手を貸してくれます。
     
    また、構内では大道芸人がパフォーマンスをしています。よくあるギター弾き語りのみならず、年配の女性がオペラを歌っているのも見かけました。時には車内でバイオリンを弾いている人もいました。地下鉄車内は、広告は貼られていますが、日本のような「吊り」広告がありません。なぜなら天井が低いからです。東京の都営大江戸線よりも圧迫感があります。車両の幅も、座席の幅も狭いです。体格のいい人も多く、またビジネスマンでもリュックを背負っている人が多いのでなかなか窮屈です。
     
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    ▲電車内でバイオリンを演奏する大道芸人
     
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    ▲ロンドンの地下鉄路線図
     
    また、駅構内では壁に貼られている地下鉄路線図とにらめっこしている人をよく見かけます。「今いる駅はココ」と強調して明示されていないので、旅行客にとっては、今いる駅を探すことからして大変なのです。それから、東京の駅のホームの柱などによく貼ってある、出口に近い乗車位置がだいたい何両目あたりにあるのかを示す掲示は存在していません。私はあの掲示をけっこう便利だと思っていたので、ユーザー目線の工夫では日本の方が優れていると感じます。とはいえ、合理的な乗車位置の情報が明らかになったら、たいていホームに出る階段は入口も出口もそれぞれ一箇所なので、混雑を誘発してしまうことになりそうなので、表示しないこと自体が「ナッジ」なのかもしれません。
     
    しかし、それ以前に、そんなことまで気にして地下鉄に乗ることは、ロンドンっ子の感覚では異常だと思うような気もします。なぜなら、地下鉄の運行にはもっと大きな問題があって、乗車位置で時間短縮を図る以前に、そもそも移動時間が読めないのです。というのも、問題のないときこそ、運行間隔は混雑時でも1~2分ごとに運営されていて、優秀だなと思うのですが、乗車中、急にアナウンスがあって、この先は行けなくなったからと、次の駅で降ろされることが多々あります。そういう時は、地下鉄の駅ごとに止まる臨時バスが出て代替輸送が行われます。また、駅のホームが車両の長さと合わず「この駅では降りられない車両」があったりします。それから工事の関係で「しばらく降りられない駅」「しばらく乗れない駅」もあります。ちなみに、ストライキも頻繁にあります。工事やストライキなどによって影響が出る運行の情報は、メールアドレスを登録しておくと「ある程度は」事前に知ることができます。
     
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    ▲ビッグベンに沈む夕日
     
    ・バス
    バスは地下鉄より安く、より市民に身近な日常の足です。お馴染みの赤い二階建てバスがたくさん行き交っています。バス乗車一回で現金支払いですと一律約400円ですが、オイスターカードを使うと地下鉄同様、約250円になり、1日の課金上限は約800円となっています。市営ですが運行情報が公開されているので、スマートフォンの様々な無料アプリやWEBページで、自分好みの表示のものを選んで見ることができます。例えばこちら。73番ラインのバスルートと運行しているバスの動きがわかります。

    路線はロンドン市内で約600本運行しているのですが、すべて番号で表示されていますし、私自身もこちらに来てすぐ乗りこなすことができました。夜間でもナイトバスが運行されていて便利です。
     
    しかし、長所ばかりでもありません。石畳の道路や、蛇行する道路が多いこともあって、重心の高い二階建てバスは非常に揺れます。二階への階段をのぼっている途中に、容赦なく揺さぶられますので、本当に危険です。運転手は大変シビアです。バス停でもかなりしっかり手を挙げてアピールしないと、降客がいなければ止まってくれません。乗客のことも基本、待ちません。ある時は「待ってー」と呼びながら乳母車を押して猛然と走ってきたご婦人がいたのに、5秒くらい待ってあげれば乗せてあげられたものを、当然のように置き去りにして発車していきました。運転席は暴漢から運転手を守るため、強化プラスチックで囲まれているので、外の声は聞こえないということなのでしょうか。また、地下鉄同様、急に行き先が変わったり、次の停留所で全員降ろされたりということも珍しくありません。また、車内には路線図はありません。
     
    東京の都営バスは「揺れますのでお気をつけください」とか「ドアのそばは危ない」とか(少なくとも日本語で)アナウンスがあったり、バリアフリーの車両も増えてお年寄りは無料だったりと、「優しい」仕様だと思います。しかし、車内に路線図が貼ってあっても、旧町名が残ったバス停の名前と地図上の地名にズレがあったり、路線名からして漢字が含まれていたりして、外国人には非常に利用しにくいものだったと思います。事実、都営バスを利用する外国人旅行客はだいぶ少ないのではないでしょうか。私は東京に約30年住んでいましたが、土日・平日の昼間含めて、都バスに外国人旅行客と乗り合わせた記憶はあまりなかったように思います。
     
    どの都市の旅行客にとっても、風景を楽しみながら移動できるバスは大変魅力的な交通機関だと思います。秋葉原や浅草などのお決まりスポットを周遊するツアーバスを楽しむのみならず、公共バスにちょっと乗ってみて、車内から目にとまったものを追ってすぐ降りるといった、気ままな散策をしたい外国人旅行者は非常に多いと思います。近年の都営バスは無料Wi-Fiの展開や、わかりやすい「都バス運行情報サービス」webページの公開など外国人利用者向けの施策を打ち出してますし、web上で公開されている運行情報を元にした様々なアプリも出てきており、良いことだと思います。しかし、英語版については、編集部に東京都交通局に聞いていただいたところ、都バスのルート案内の英語アプリはなく、外国人の方には、主要駅のバスターミナルに置いてある紙の地図を案内しているとのことでした。東京オリンピックに備えて、外国人にとってわかりやすい路線図や英語のアプリがさらに供給されていくと良いなと思います。
     
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    ▲ハイドパーク内に冬だけ出現する移動遊園地「ウィンター・ワンダーランド」の観覧車
     
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    ▲クリスマスシーズン、願い事が書かれた木札がもみの木にぶら下げられていました。ちょうど絵馬や七夕の短冊のようですね。
     
     
    ・人々
    バスや地下鉄車内の人々は、本当に人種が雑多です。白人も黒人も、アラブ系もインド系もアジア系もラテン系もいます。どの人種が特に多いという偏りは、チャイナタウンといった一定の区域では感じることもありますが、交通機関の中ではあまり感じません。私は日本に帰国したら、最初はきっと、周りがすべてアジア系、しかもみな日本人であることに、違和感を感じてしまうかもしれません。ただし、お年寄りや車椅子の方は地下鉄では特に少ない印象です。上記のとおり、バリアフリーではないからでしょう。
     

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