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ドリームキャストの遺産とは〜『シェンムー』『クレイジータクシー』『PSO』(中川大地の現代ゲーム全史) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.294 ☆
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ドリームキャストの遺産とは〜『シェンムー』『クレイジータクシー』『PSO』(中川大地の現代ゲーム全史) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.294 ☆

2015-04-01 07:00

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    ドリームキャストの遺産とは
    〜『シェンムー』『クレイジー
    タクシー』『PSO』
    (中川大地の現代ゲーム全史)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.4.1 vol.294

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    本日のメルマガは、月2回連載となった「中川大地の現代ゲーム全史」! 今回のテーマは、「ドリームキャスト」――。あの幻の(?)ハードは、のちのゲーム文化に何を残したのか。当時のハードウェア事情や、『シェンムー』『クレイジータクシー』『スペースチャンネル5』『ファンタシースターオンライン』といった名作タイトルから振り返ります。

     
    「中川大地の現代ゲーム全史」
    第9章 和ゲー成長期の終わり/二極化してゆくゲーム産業
    2000年代前半:〈仮想現実の時代〉終期(2)
     
    前回までの連載はこちらのリンクから。
     
     
    ■ プレステ2が推進した「家電」化と「ゲーム離れ」
     
     かつてスーパーファミコンが「国民機」ファミコンの地位を継承したのと同様、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が2000年に投入したプレイステーション2もまた、前世代のトップシェアを握ったプレステとの後方互換性を保った後継機として、順当にその覇権を継承した。
     ただしその内実には、プレステ発売当時とのIT環境の違いに応じた、小さからぬ戦略の違いがあった。まだWindows95の登場以前、パソコン等でもCD−ROMメディアの普及期だったプレステの時代には、3DO REALが「マルチメディア機」としての性格を強調しすぎて没落したように、あくまで「ゲーム機」であることを強調することが市場の理解を得るための上策だった。
     しかし、Windows登場以降、もはや「マルチメディア」がわざわざ言挙げするまでもない自明の機能として死語化し、パソコンという汎用機の体験は当たり前のものになっていた。四半期ごとにCPUやハードディスク、メモリの数値や搭載する光学メディアなどがスペックアップし、各メーカーのニューモデルが競って家電量販店を賑わせるといった光景が常態化することで、デジタル機器に対する消費者リテラシーも格段に向上する。
     そうなると、今度はゲーム専用機が、むしろパソコンの隣接カテゴリーの製品として対比されることの避けられない市場環境が生まれていた。
     
     この状況に対して、SCEは日本を代表する家電ブランドであるソニー・グループとしての総合性を活かすかたちで、世界コンピューター市場に君臨するウィンテル連合への真っ向からの挑戦の道を選択する。プレステの成功でグループ内での存在感を高めた久夛良木健社長の主導のもと、SCEはプレステ2向けに1300億円もの巨費を投じて、東芝との共同で世界初の完全な128ビットプロセッサである「Emotion Engine(EE)」およびGPU「Graphics Synthesizer(GS)」を開発。ゲーム機のCPUといえば、最先端からすれば枯れた仕様の汎用プロセッサをカスタマイズする場合が一般的だったが、同時代のハイエンドパソコンなどを凌駕するピーク性能をもった独自プロセッサを一から作り上げるという、異例の試みがなされたのである。
     
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    ▲PS2内に組み込まれた「Emotion Engine(EE)」と「Graphics Synthesizer(GS)」
     
     その試みの底にあったのは、EEやGSをワークステーションやAV機器などの共通コアとして搭載して連携可能にし、来たるべきデジタル家電の統合的なホームネットワークの時代の覇権を握るための布石にしようという久夛良木の構想であった。したがって、プレステ2はUSBやIEEE1394(iLink)といった汎用インターフェースを備え、筐体も縦置き・横置きの両様に設置できるというパソコン的な設計がなされ、将来的なメディアネットワーク端末としての拡張も視野に入れた含みが持たされていた。
     なお、このように自社ブランドの様々な機器の連携によって総合デジタル家電プラットフォームを築こうという構想は、プレステ2の翌01年、スティーブ・ジョブズ率いる米アップルがMacintoshのメディアファイル再生ソフト「iTunes」と連携する最初の「iPod」を発売し、かつてソニーが世界を席巻した「ウォークマン」の歴史を塗り変えるかのように携帯型デジタル音楽プレイヤーの市場を開拓したことで、急速に現実化への途を歩んでいくことになる。この時点においては、ともにウィンテル体制への挑戦者であるソニーとアップルが、互いにライバルシップをもって同じようなビジネスモデルの構築を目指し、それぞれの得意分野からの尖兵として、プレステ2なりiPodなりを投入していたわけだ。
     
     プレステ2が持っていたデジタル家電化に向けての具体的な仕様として、最も端的な特徴が、対応メディアにDVD−ROMを採用し、DVDビデオの映像再生機能を持っていたことである。
     すでにCD−ROM搭載のプレステ時代から、大作ゲームの多くはディスク何枚組ものデータ容量に達していたので、新たな大容量メディアを採用すること自体は当然の漸進的スペックアップであったが、まだパソコン用の光学メディアへの採用もハイエンド機種に限られ、専用のDVDプレイヤーやレコーダーが非常に高額だったタイミングで投入されたことが、プレステ2の存在を特権的なものにした。実売4万円弱という本機の価格は、他のDVD再生手段に比べて段違いに安く、むしろDVDビデオそのものの普及を世界的に推進する役割をすら担うことになったためである。
     この意味で、iPodが音楽ソフトの脱CD化の先鞭をつけたとするならば、プレステ2は映像ソフトの脱VHS化という、コンテンツ供給メディアの切り替えのキー製品となることで、アップルとSCEはそれぞれのAVメディア統合戦略の実現に向けての足がかりを確保したのだと言える。
     
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    ▲iPod(初代)
     
     このようにプレステ2は、ゲーム機であるがゆえの構成のシンプルさと、覇権機プレステの資産をそのまま包摂するスケールメリットによって「最安値のDVDプレイヤー」としての成功を獲得したわけだが、それは反面、本来のゲーム機としての魅力を希薄化してしまう特徴でもあった。
     とりわけ発売当初に関しては、ローンチソフトのラインナップが『リッジレーサーV』や『ストリートファイターEX3』など、多くの消費者にとって真新しさを感じさせない既存シリーズの続編が中心で、これといったキラータイトルがしばらく登場しなかったため、「プレステ2は買ったけれどもDVDしか観ていない」といった声が少なからず見受けられた。つまり、ゲームソフトの送り手と受け手の立場からすれば、ゲームジャンル内だけでなく映画やアニメといった映像コンテンツとの直接的な競争を同一ハード上で強いられる厳しい状況の発生に他ならなかった。
     加えて、プレステ2の心臓部に採用されたEEやGSといった独自開発のチップは、スペック通りのピーク性能を発揮させることが難しく、ゲームソフトの開発者にとっては高い技術的・資金的ハードルとなった。前節で述べた国産ゲーム市場全体の縮小傾向もあり、プレステ2の仕様は、体力のないディベロッパーに対しての淘汰圧を強めるものでもあったのだ。
     結果としてプレステ2は、「デジタル家電」ハードとしての成功とは裏腹に、相対的にソフト面では業界に「ゲーム離れ」への懸念を喚起するという、日本ゲーム市場の皮肉な時代環境を象徴する製品として普及していったのである。
     
     
    ■ ドリキャスが遺したもの1〜早すぎたオープンワールドとしての『シェンムー』
     
     ドリームキャストというハードが辿った足跡を簡潔に言い表すとしたら、それは「フライング」の一語に尽きるだろう。
     前章でも触れたように、プレステ2の機先を制すべく1998年末という早期の世代交代を敢行したドリキャスの青写真は、インターネットへのダイヤルアップ接続用のモデムを標準搭載し、来たるべきオンラインゲームの時代を見越してスタートダッシュをかけて普及を図ろうという電撃戦的な展開にあった。そのために、基本的にはマニアハードとしてのイメージを引きずる歴代セガハードの中で、最も国内市場でトップシェアに近づいたセガサターンの地歩を守りつつ、さらにプレステ並みのポピュラリティを獲得しようという姿勢を全面に打ち出すPRを特徴としていた。その最たる展開が、セガの実際の役員である「湯川専務」を起用したCMシリーズであろう。ここでは、子供たちが「セガなんてダッセエよな」「帰ってプレステやろう」などと囃し立てる逆風の中で、冴えない風貌の湯川専務が哀愁を漂わせながらドリキャス販促に務めるという思いきった自虐表現が採用され、大いに話題を呼んだ。
     
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    ▲ドリームキャスト
     
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    ▲湯川専務の顔があしらわれたドリームキャストのパッケージ
     
     秋元康のプロデュースによるこのCMの方向性は、かつてプレステが覇権を獲得していく過程で、ゲームそのものの内容を告知するのではなく、ゲームの遊ぶ人々の反応やライフスタイルをキャッチーに活写するスタイルの宣伝展開が奏効したことを踏襲している。その上で、主流となったプレステの小洒落たスタイリッシュさとの差別化として、シェア争いにおけるセガの苦境と捨て身の姿勢を自らネタにすることで、サターン時代のPRキャラ「せがた三四郎」以上にコミカルで脱力した親しみやすいイメージを確立。キモかわいさを狙った人面魚育成タイトル『シーマン』のヒットとも相まって、歴代ハードの中で最もライトユーザー向けの認知を得ることには成功していたと言える。
     

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