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カルチャーと「教養主義」の
結びつきを考える
(石岡良治の視覚文化「超」講義外伝 第4回)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.5.20 vol.326

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本日は石岡良治さんの連続講義『視覚文化「超」講義外伝』第4回をお届けします。NHK Eテレ「哲子の部屋」(来週木曜放送)にも出演し、ますます好調の石岡さん。カルチャーを語る上では避けて通れない「教養主義」の問題を、自著『視覚文化「超」講義』をベースに解説していきます。
今回は日本の「大正教養主義」やその源流であるドイツやイギリスの教養主義、そして日本的カルチュラル・スタディーズについて紹介します。

【その前に…お知らせ】
ついに石岡さんが地上波に上陸!!!
 
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國分功一郎さん、千葉雅也さんらが出演し話題のNHK哲学番組『哲子の部屋』に、石岡良治さんが出演します!
放送は【5月28日(木)午後11時15分~午後11時45分 (NHK Eテレ)】
お見逃しなく!
 

「石岡良治の視覚文化「超」講義外伝 」これまでの連載はこちらのリンクから。
※本連載は、PLANETSチャンネルニコ生「石岡良治の『視覚文化「超」講義』刊行記念講義」(第2回放送日:2014年8月13日)の内容に加筆・修正を加えたものです。
 
 
■ はじめに
 
 石岡良治です。よろしくお願いします。
 『視覚文化「超」講義』刊行記念講義の2回目となります。
この放送を視聴している皆さんは、ご覧になっていると思いますが、本書は発売以来ご好評をいただいております。おかげさまで3刷りが決定しました。
 
 日経新聞で本書の書評が載っています。この書評はウェブサイトでもご覧いただくことができます。
 英文学者の高山宏さんによる書評で絶賛されていて、著者である私としては本当に嬉しいです。私は現首都東京大学である東京都立大学を卒業しているのですが、学生時代、高山さんが英文学の先生でした。高山さんの書籍と本書とノリが一部近いと感じる人がいると思います。ただ、高山宏マニアという人はヨーロッパ文化史や澁澤龍彦の書くような幻想文学が好きな人たちが多いと思います。そういった人たちと本書では微妙にズレが生じています。私は、特定の趣味を持つことで、他の趣味を排他的な扱いに即座にすることのないように心がけています。とはいっても、DD(誰でも大好き)状態になるのは困難なので、どこかに線引きはあります。しかし、なるべくDDで頑張るというのが本書の方針でもあります。
 
 前回はあらすじ紹介をしたのですが、今回から本書の具体的な内部に切り込んでいきたいと思います。
 読んだ方、読んでいない方いると思いますが、新要素満載でお送りします。
 今日、放送のために参考書籍を多数持ってきています。これらを全て紹介していきます。というわけで、新しい文献表ができる感じになります。まさにニコ生を視聴されている方用のモノになります。
 
 それではフリップによる解説に入っていきます。
 
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 今回は「カルチャー」を自意識問題から解き放つ、ニコ生PLANETS仕様で「自意識問題との決別」を取り上げたいと思います。本書では書き方を抑制的にしているので、なにかを批判する部分は抑えて書いています。しかし、本放送では少し「dis」の要素を入れて、エッジのある放送になるようにします。意識を持つなと言いませんが、自意識系の問題圏に関してはおいおい語っていきます。
 
 先月(2014年7月24日)、ジュンク堂池袋店にて、私と宇野常寛さんとの対談のニコ生(アーカイブ映像:【前編】 【後編】)があったのですが、会場では本書を初めて知った方がいらっしゃったので、あらすじの解説を丁寧にし、それなりに手応えのある反応を得ました。しかし、一方動画では視聴者に「解説が長い」というコメントをいただきました。
 私自身、本書を解説する機会が何度となくあります。すでにご覧になっている方も多いと思いますが、フィルムアート社の本書のページに紹介動画があり、そこには宇野常寛さん、千葉雅也さんの推薦動画もあります。バック・トゥー・ザ・フューチャーを取り上げた本書のフレームは、そちらの動画をご覧ください。
 
 本書の解説を順を追ってしていくように考えていますが、ニコ生PLANETSならではの「二周目要素」、クリアしたけれど同じセーブデータを使って最初から強くてニューゲームをプレイするような流れを入れようと思っています。また、読んでいない方にも対応するつもりです。
 
 
■ 教養主義に対する批判
 
 今回から取り上げるのが「Lecture.1 カルチャー/情報過多」。ここでは3つのパートを作っています。1-1が「教養文化問題」、1-2が「サブカル対ハイカルチャー問題」、1-3が「情報過多」というテーマをそれぞれ掲げています。今回は1-1と1-2を独自のミックスを施した感じで講義していきます。そのなかで本書では明言することを避けた「教養と文化を巡る問い」=教養主義を本書では批判しているのですが、実際に私自身も教養主義者ではないかという問いもなくはないと思うんです。講義という形をとるからには、教養主義の持っていた欠点が別の形で再演される問いが出てくると考えています。
 あとは伝統的な人文の「知」との関係性です。私自身はニコ厨的な側面と人文趣味的な側面の両方を持っているんですが、その両方の関係はどうなのかという問いです。実は本書全体を通して、その問いに対する答えを導こうとしています。スパッと一つの答えを出すのではなく、いろいろみて考える観察の部分が長い本になっていると思います。ただちに答えは出ないが、答えに対する方向性は提示したつもりです。
 
 教養文化についての問いが本書のテーマでもあります。はじめに序文を読んでいただければ、だいたいの構成とともに書いてあります。ラストパラグラフを読んでみますと、個々の作品評価や批評基準、これは文化・教養についてどう思うかも含めて、一刀両断する前に行うべき作業が数多く残っているのではないかと書いています。この作業を行っていくという面が本書では多々あります。
 
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 本書の10ページにも書いたのですが、現在の価値観は作品の需要、または分析によって「可謬主義」を唱えています。「可謬主義」とは、基本的にはプラグマティズムの立場です。ちょっとずつではあるが誤りうるということです。ポイントとしては、どうせ間違えるのだから、適当でいいということはなく、できるだけ本気でこれだというものを提唱していきます。ミスをしたら改善していくというのが大事です。これは教養・文化については全般的にあてはまると考えています。
 あとは「ギアチェンジ」という話です。一人が複数のギアを持っているということが大事であると思います。
 そして「レギュレーションの関係を見ていく」ことです。
今日は、このあたりの話を全部します。私なりの文化・教養観は今挙げた3つのものを元に考えています。これらを概して「情報過多」の時代に対応していくというテーマです。今日は「情報過多」を扱わずに、いわゆる「文化・教養問題」を主に扱おうと思っています。
 
 
■ 「大正教養主義」とは?
 
 「教養主義」問題について触れたいと思っています。これはカルチャーという言葉は、近代以前はカルティベーションという、いわば頭脳などを耕すものとしての教養であった。今はカルチャーといえば、教養という意味合いはなくて、なんでもカルチャーと呼んでいます。
 
 本書では詳しくは解説していませんが、教養とはなんだったのかというのを、英語圏の議論を軸にしてカルチャーという言葉についていろいろ扱ってきました。日本型の「教養主義」については、竹内洋さんや高田里惠子さんが、その問題点について語られています。簡単に言うと「大正教養主義」です。
 
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 要するに日本の都市化に伴い生じた「大正ロマン」「昭和モダン」というものです。マントを羽織る旧制高校に代表される、要するに本書でも取り上げている『絶望先生』『四畳半神話大系』、または京大卒の高学歴ニートであるphaさんの著書『ニートの歩き方』のようなノリです。京大の吉田寮に住みながら、バンカラであると自負する感じです。
 
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 この日本型の「教養主義」はもう終わったとされていますが、文芸的な場で袴などを着用すればやはりそれっぽくみえます。また、文芸少女は黒髪ロングで眼鏡であるべきとされることがありますが、このような類型は、教養主義が招いた、ある種の自意識文化としての教養性が原因です。具体的に言えば、竹久夢二さんのイラストや中村佑介さんのイラストあたりが教養主義のポップカルチャー版といっていいと思います。(ニコ生のコメント欄から)村上春樹ももはや同類といっていいでしょう。
 
 
■ ドイツの教養主義と、イギリスの教養主義
 
 本書で取り上げられなかったものとしてドイツ語の話があります。私自身がドイツ語に疎いので、ドイツ語圏の書籍を扱えませんでした。
 これは重要なことなのですが、本書ではカルチャーのみを扱っていますが、ビルドゥングという言い方があります。ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』が典型的なんですが「ビルドゥングスロマン」という言葉があります。これは日本語で「教養小説」と言います。このあたりの読みやすい本として、清水真木さんの『これが「教養」だ』という新潮新書から出ている書籍があります。清水さんは哲学研究者で明治大学の先生です。清水さんの書籍がドイツ語圏における教養主義の流れを示しています。清水さんの書籍は、例によってSNSを批判しています。哲学者で教養主義者を標榜する人は概ね現代文明について批判的です。よって私は清水さんの論調には同意できない部分も多いですが、清水さんは教養主義に無茶な点があるという重要な指摘をしています。
 

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