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Adobe以降の「特撮」と「怪獣」の可能性とは?
――15年の試行錯誤が辿り着いた
『ウルトラマンX』の達成
【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.3.23 vol.547

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今朝のメルマガは、『ウルトラマンX』をめぐる切通理作さんと宇野常寛の対談をお届けします。平成ウルトラマンシリーズの集大成的な作品となった『ウルトラマンX』。本作を成功に導いた「怪獣」そして「特撮」の、現代的な捉え直しについて論じます。(初出:「サイゾー」2016年3月号(サイゾー)


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(出典)公式サイト

▼作品紹介
『ウルトラマンX』
監督/田口清隆、坂本浩一ほか 脚本/小林雄次、小林弘利ほか 出演/高橋健介、坂ノ上茜ほか 放映/テレビ東京毎週火曜18:00~18:30(15年7月~12月)
謎のオーパーツ「スパークドールズ」が怪獣化する怪事件が続き、対抗手段として特殊防衛チームXioが結成されてから15年。Xioの隊員であり、怪獣との共存を夢見る青年・大空大地は、怪獣との戦いのさなかに神秘の光=ウルトラマンXと出会い、一体化。怪獣化したスパークドールズや、宇宙や平行世界から襲来する異星人や怪獣と戦いを繰り広げる日々に身を投じていく──。3月12日からは劇場版が公開予定。

▼対談者プロフィール
切通理作 (きりどおし・りさく)
1964年生、東京出身。和光大学人文学部卒。編集者経験を経て1990年代前半から文筆活動に携わる。『ウルトラマン』『仮面ライダー』シリーズをはじめとする特撮作品、その他の映像作品のスタッフインタビューや作品解説をはじめ、幅広く世相やサブカルチャーを網羅し、「キネマ旬報」「特撮ニュータイプ」「宇宙船」「わしズム」など数多くの媒体で活動。代表的な著書に、歴代ウルトラシリーズの脚本家に取材した『怪獣使いと少年』(宝島社)、写真家・丸田祥三との共著『日本風景論』(春秋社)、『特撮黙示録1995‐2001』(太田出版)、『山田洋次の〈世界〉』(ちくま新書)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』(洋泉社)ほか。『宮崎駿の「世界」』(ちくま文庫)で第24回サントリー学芸賞を受賞。

◎構成:隅田亜星

『月刊カルチャー時評』過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。


切通 『ウルトラマンX』(以下『X』)は、平成ウルトラマンシリーズにおける『ウルトラマンコスモス』(01年)以降の集大成だったな、というのが全体の感想です。それから、今までウルトラマンって、特に平成になってからは、『ウルトラマンマックス』(05年)のように、エピソードごとに豊かなものを作る代わりにシリーズ構成をある程度緩くするか、反対に『ウルトラマンネクサス』(04年)のようにシリーズ構成をあくまで活かして連続性を重視するかのどちらかに寄っていた印象があったけれど、『X』は両方ちゃんと立っているという意味で、かなりうまくいったシリーズだと思った。全22話しかないのにシリーズ構成だけで4人いて、脚本家は10人もいる。最初はそれが不安だったんだけど、一話一話のテイストの違いとシリーズのうねりが連動していて、良い効果を生んでいた。

宇野 平成ウルトラ3部作(『ウルトラマンティガ』96年、『ウルトラマンダイナ』97年、『ウルトラマンガイア』98年)以降のウルトラシリーズがやってきたことの総決算的に作られていましたね。『コスモス』からは怪獣との共存というテーマを持ってきて、『ネクサス』からは変身の再定義というところを持ってきていた。さらに『マックス』から始まって『大怪獣バトル』【1】(07年~)につながる昭和怪獣の再利用という要素も入っていて、『ウルトラマンギンガ』(13年)からはスパークドールズ【2】ものという流れが入っている。60~70年代の怪獣ブームの頃に比べて、今は決して放映枠も良くはないし、話数も半端な中ですごく健闘していたと思う。『X』があったおかげで、正直何をやっても中途半端な感じがあった「ポスト平成ウルトラ3部作」の作品たちの位置づけがようやくはっきりした。それも単に整理するためだけじゃなくて、しっかりエピソードとして、映像作品として昇華することによってまとめられていたのが良かったかなと。

【1】『大怪獣バトル』(07年~):アーケードカードゲーム『大怪獣バトル ULTRA MONSTERS』を中心に展開されたメディアミックス作品。歴代のウルトラ怪獣同士のバトルが題材になっていた。
【2】スパークドールズ:謎の太陽フレア「ウルトラ・フレア」によって眠りから覚め、怪獣に変化するオーパーツ。主人公・大地の父はこれを研究していた。なお、『ギンガ』にも同名のものが登場するが、設定が微妙に異なっている(『ギンガ』では自我を持たないが、『X』では感情を有するなど)。


■「怪獣」の捉え直しと「特撮」の捉え直しの成功

宇野 ウルトラマンシリーズが苦戦している理由として、怪獣の意味合いがかつてと全然変わってしまったことがあると思う。まさしく切通さんが『怪獣使いと少年』で書いたように、かつて怪獣は社会のひずみのようなもの、なかなか言葉にならないし社会的なイデオロギーでも消化しきれないようなものが結晶化して出てきた存在だったけれど、そういう形ではもう機能しなくなっている。それには社会の変化や情報環境の変化とかいろんな理由があるけど、日本の怪獣映画はその中ですごく苦戦していた。円谷でいえば、この15年は怪獣とどう向き合っていいのかわからない15年だったと思う。

切通 もともと怪獣ってお話の中では悪役でも、造形的には可愛いところがある。でも平成になると洋物のクリーチャー描写に影響され、可愛さを否定して、完全に怖い存在にしたほうがいいのかなという揺れが見えだした。その一方で、怪獣を保護動物として扱うことで、牙を抜いてしまうような方向性もあった。『X』はその間でバランスが取れている。保護動物みたいな扱いではなくて、主人公の大空大地【3】は怪獣と共存したいと第一には思っているんだけど、それは必ずしもうまくいかないというところを入れていて、お話の緊張感を手放さない。怪獣が害を与えるんだったら攻撃するという決断を主人公たちXio【4】のメンバーが引き受けないとならない形に落とし込んでいた。それが現代性を出していたと思う。

【3】大空大地:本作の主人公・大空大地。Xioの研究開発セクション・ラボチームの研究員であり、特捜班の一員。15年前のウルトラ・フレアの影響で、考古学者の父と宇宙物理学者の母と生き別れになっており、2人を探すために研究員になった。
【4】Xio:スパークドールズから目覚めた怪獣や、宇宙人に対抗する防衛部隊。

宇野 平成3部作はすごい挑戦だったと思うけど、「怪獣とは何か」というのを問い直すところまでは行きそびれた。『ティガ』は「ウルトラマンとは何か」を問い直すのが主眼だった一方で、『ガイア』は「怪獣とは何か」をまさに問い直す作品として始まったのだけど、うまく描けずに人間ドラマにシフトした。それ以降は怪獣「保護」をテーマにした『コスモス』や、怪獣を中心に置かなかった『ネクサス』みたいな試行錯誤があった。その結果、商業的な要請から、つまり「ポケモン」要素の導入としてたどりついたのが「大怪獣バトル」だったと思うんです。これは「ポケモン」のルーツが「カプセル怪獣」にあることを考えると面白いですね。『大怪獣バトル』以降、昭和ウルトラシリーズの怪獣が持っていたある種の愛らしさ、単に怖いだけではない怪獣というものの意味を読み替えていくようになったのだけど、そうした流れと、新しいウルトラマンの物語を作ることをあまりうまく両立できていなかったのが、『X』でやっと昇華できたところがある。

切通 『X』の9話「我ら星雲!」【5】では等身大の宇宙人をコミカルに描いていた一方で、16話の「激撮!Xio密着24時」【6】では彼らが“ヤバいもの”として出てくる。9話の時は笑わせてもらいながらも、そっちに行きすぎて大丈夫かなと思ったけど、16話では、これから移民の時代になっていく日本も思わせるドキュメント性があって、その振幅が良かった。

【5】「我ら星雲!」:日本ラグビーフットボール協会とのコラボ企画としてつくられ、ババルウ星人やイカルス星人ほか有名星人が一堂に会してラグビーで戦うというパロディ色の強い回。星人と人間が共にチームを組んでまた別の星人たちとラグビーの試合をするという、本作のテーマ「共生」が通奏低音として流れている。タイトルは、74年のラグビードラマ『われら青春!』から。
【6】「激撮!Xio密着24時」:タイトルからわかる通り、『激撮!密着警察24時!』の完全パロディ回。物質縮小機で女子大生を誘拐しようとした宇宙人が職質されて逮捕・取り調べされたり、ダダの潜む人間標本工場が突入を食らったりする。

宇野 『大怪獣バトル』以降やってきた怪獣の意味論の捉え直しの中で拡大してきた怪獣というキャラクターの持つ表現の幅を、やっと『ウルトラマン』本編のシナリオワーク上で活用できるようになってきたんだと思うんですよね。この15年くらいの迷走は無駄ではなかったんだなと、初めて思えたようなところがあった。

切通 各エピソードで「これが好きだ」といえるものになっていたのは大きいですよね。20話のネクサス客演回【7】は“神回”でした。

【7】ネクサス客演回:ウルトラマンシリーズの常として、過去作の主役だったウルトラマンがポイントで登場することがよくある。一種のファンサービスでもあり、『X』ではネクサスのほかゼロやマックス、ギンガなど多くの過去の戦士たちが登場した。

宇野 あれはこの先、傑作として語り継がれていくでしょうね。


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