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山田玲司のヤングサンデー 第112号 2016/11/28

動物園からアザラシを盗んだ芸大生の話

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先日「芸大生が上野動物園からアザラシを盗んで、学内に連れ込んだ事がある」という噂を聞いた。


なんて面白い話なんだ。
僕はこの話を聞いてからというものの、芸大のアザラシ事件が気になって仕方ない。


「東京芸大」という大学は上野公園に隣接している。
すぐ隣は上野動物園なので、静かな時は色々な動物の声が聞こえる、という羨ましい環境だ。
なので、かつては芸大生は無料で動物園に入れたらしい。
それがダメになったのは、芸大生が忍び込んでアザラシを勝手に盗んだからだ、というのだ。


もちろんこれは「噂」にすぎないので、事実かどうかはわからない。
もしかしたら盗んだのは「オットセイ」かもしれないし「コウテイペンギン」かもしれないし「あなたの心」かもしれない。


仮に本当にアザラシを盗んだとしたなら、それは物凄い行為だ。
何しろ奴らはでかい上に生きている。泳ぎまくるし、爪も牙もある肉食動物だ。
見た目が可愛いからと言って、ぬいぐるみとはわけが違う。
もしも深夜に動物園に忍び込んで、比較的小柄なアザラシを盗もうなんてしても、麻酔銃でも使わない限り大格闘になるだろう。


うーん。
なんて面白い話だろう。
そして、もしそんな事を実行した芸大生がいたのなら、その人はどんな人なんだろう。
さすがに男だとは思うけど、女の人だったりしても面白い。


この話、「さすがにそんなことするやつはいない」と言い切れないのには理由がある。
それは、犯人(アザラシ盗み犯)なる人物は若い「美術大学生」だからだ。


長いことこの国の若者は「人と違ってなくてはいけない」「人と同じじゃかっこ悪い」と思い込まされてきた。
特に「表現」だの「芸術」だのをやろうなんて人間は「凡庸」なんかでは許されない。
そんな雰囲気はバブル期をピークに延々続いてきた。

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僕なんかも「非属の才能」なんて言って、人と違うことを礼賛しているものだから、そんな空気を作った犯人の1人だろう。


でもまあ、この本を読んでくれた人はお分かりでしょうが、「非属の才能」という本は「人とは違ってなくてはいけない」なんて言ってなくて、むしろ「人と違う事で迫害やいじめを受けている人のメンタルを応援している本」です。
無理に「個性的であれ」なんて言ってないし、それをやってしまう事の危険性も対策も書いてあるのだ。

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とは言っても、僕も含めてクリエーターたちはとにかく「みんなと同じじゃ嫌!」と思っている。
「自分は特別で、あんなくだらない愚民どもとは違うのだ!」と思いつつも、現実の自分を振り返ると、同じような「まとめサイト」を見たり、同じようなコンビニのおにぎりなんか食べてる。
せめて自分の作る「作品」だけは誰にも真似出来ないような・・・とか思っても、どうしようもなく「あこがれの誰かの作品」に似てたりする。


そんなこんなで「ああ・・どうしようもなく自分は普通で凡庸すぎる!!!」なんて落ち込んで、その反動で「見た目で勝負」なんて髪の毛を七色に染めたりピアスを開け過ぎたりするのも「定番コース」なわけね。


伝統的な「金閣寺に火をつけろ!」なんて「お戯れ」の発作が起こって、「私はアザラシを盗む!」「もう盗むしかないのだ!!!」なんてのもわかるんだよね。


問題の根は「あいつより上でいたい」とかいう「人間をランキングする思考」から生じている。
「有名か?」「金持ちか?」「美形か?」とかで他者と競いたくなる気持ちね。


「自分だけはそういう普通の人とは違うんで大丈夫」なんていうタイプが「あまりに普通な自分」に気がつくと、アザラシを盗みに行かなきゃならなくなるわけね。