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山田玲司のヤングサンデー 第137号 2017/5/29

「どうすれば売れるんでしょうか?」

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「どうすれば売れるんでしょうか?」って取材で聞かれました。


その人は単行本も出している立派な漫画家さんです。

単行本の宣伝企画で「どうすれば売れるか?」というテーマで色々な漫画家さんに話を聞きに行っているそうなのです。


「そんなの売れてる漫画家に聞いてくれよ!」と言いたいところだけど、そのセリフは僕の前に取材を受けた島本和彦先生がすでに言っていたらしい。



そこで、何だかんだ「売れるには?」みたいな話をしたのですけど、そもそも「売る」ってのを目的に何かを作っても、確実に売れる保証なんかない。

おまけに、僕はあまり「売ること」を目的に生きてこなかった人間です。


かと言って「売れないもの」ばかりを作っていたら、仕事はもらえない。


おまけに終わりのない不景気で、頑張っても売れない時代が続いてる。

そんなわけで、僕の知り合いにも「売り上げランキングノイローゼ」みたいになってる人が何人かいます。


そういう人達の中では「売れれば勝ち」という信仰が強いんだけど、そこそこ長くやっていると(わかる人は最初からわかってるけど)ランキングなんか一時期のもので、そのものの「価値」とは違うことはわかるものです。

死ぬまで売れなかったゴッホの話を筆頭に、そんな話は世界中にあふれてる。(ゴッホじゃ嫌だけどね)


でも「そんな悠長な事を言ってられる場合じゃない」ってのもわかる。



売れるかどうかは時の運、と言うけど、「暑い時にはアイスが売れて、寒い時にはおでんが売れる」くらいの法則はあります。


とは言ってもこれまた「みんなが気づいてる法則」になっているとそれほどの効果はない。

何しろアイスもおでんも一年中、どこにでも売っている時代ですからね。


要するに「みんなが求めているもの」のほとんどが、すでに世の中に存在しているわけです。

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31(サーティワン)というアイスのチェーンを作った、バスキンとロビンという2人はアイスが大好きだったそうで。


でも彼らは、アイスの種類が少ない事が不満だったらしい。

「バニラ、チョコ、ストロベリーだけじゃつまらない」

「なら1ヶ月間、毎日違う味のアイスを食べられる店を作ってしまおう」


って事で31日分、31種類の味を選べる「31アイスクリーム」が誕生したそうなんです。


この話には「売れる」ってことの本質の1つがあって大好きなんですよね。

売れるためには「努力と根性」だけでは限界があるし、「かつての成功例」なんかも意味がない事が多いってことです。



とはいえ、そんな抜群のアイデアだって効果には限界があります。

人気のあった漫画だって飽きられるものです。


では、どうしたら持続して「売れる」のでしょう?


それを考えると、どうしても「人間の本能に根ざした仕組み」を作った人の勝ちに思えてきます。

人間のほとんどが「将来が不安」という本能的気分を抱えているから「保険産業」や「銀行」「投資会社」や「資格系」「教育系」なんかの産業が栄えるわけです。


「安くて美味しいものがいつでも食べたい」というのも同じでしょう。

そんな本能からファーストフード産業の隆盛が起こりました。


とは言え、この話「その人にとって良い事か?」となると話が違ってきます。


本能を満たすだけの行為は、別の「代償」もついてきます。


安くて美味しいものを作るためには「身体に悪い成分の入ったもの」も入ってたりします。

そんなものばかりを食べていたら「病気」が待っていますからね。


ここに「売れればいい」という価値観の限界があるのです。



僕は昔「冴えない男が何の努力もせずに可愛い女の子にモテる」というラブコメが気に入りませんでした。