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山田玲司のヤングサンデー 第357号 2021/8/30

盲目の福山雅治と空を集める

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本日は久世が担当させていただきます。


今日は

・盲目の福山雅治

・空を集める


の2つのお話です。



・盲目の福山雅治


先日、仕事で出かけなければいけないことがあり、乗換の駅について電車を降りた直後の話しです。


都会もしくは大きな駅だと、駅に着いた瞬間に降りたい人が一気に大量に降ります。

ドアのあたりが混雑して降車したすぐあとも人がかたまりになって動くから、ちょっとしたスイミーみたいになって、自分がその時出来た人間の塊の一部みたいで、団体の意思で動きやスピードが決定されていくので、細かい情報というか、何かその場で起こっている繊細なものをキャッチする感覚っていうのが鈍るんです。(僕はね。)


でも少し歩くと塊も解けてその喧騒も落ち着く。

そんな喧騒が落ち着きはじめたころ、唐突に「カッカッカッ・カカッ,カッ,カッカ,カッ,」と、何かのリズムを刻む音が耳に飛び込んできました。


急いでるわけでもない僕は、音が気になって辺りを見渡しました。


「あの人か」


盲目の方が杖で床を叩きながら歩いていました。


その方の床を叩く音は地下鉄構内にとても大きく響き渡っています。


「随分激しく小まめに強弱をつけて床を叩くんだなぁ。地下だからそう聴こえるのかな?」


と思ってその方のことをほんの少しの間足を止め見るともなしに見ていました。


その方の床をたたくリズムは歌うようで、滑らかで楽しそうですらありました。


「今まですれ違ってきた盲目の方もこんな風に叩いていたのかなぁ?気付かなかっただけなのかな?これ、床を確認する際の基本方針みたいなものは習ったりするのかなぁ?」


そんなことが頭をよぎります。

今まで見た人の叩き方と根本から違うような気がしたんです。


「この方はこういう叩き方なんだ」


「これがこの方の日常のリズム、生きるリズム。音で聞こえるこの方の生活。」


知らない方の生活のリズムが耳を通して僕に届いてくるのがとても興味深い。


今駅にいる他の方だって歩いているだけで生きるリズムを発信している。


生きて動くだけで人間はどれだけの個人的な情報を外に漏らしているのでしょうか。

良く見ると色んな事に気づくよなぁと思います。


でもそれよりも自分の意思で「床を叩いて、歩く」。そのリズムがある方が、その方の内側の感情や感覚までも凄く伝えてしまう気がしました。情報量が多いという感じです。


(この日僕がそう感じたというだけのことかもしれません)


不思議だなぁ。


あまりその方を見るのも失礼かなと思い、僕も歩きだします。(この間3秒くらい)


でも背中でその人の杖の音は聞こえています。

(一度認識してしまった音は脳が拾ってしまう)


しばらくするととてもキレのいい口笛が爆音で僕の耳を貫きました。

このメロディは…


「私、恋をしている。恋に落ちてる。もう隠せない。この切なさは…」


ましゃ!!!!

そう。「ましゃ」です。ましゃこと、福山雅治さんのSquallでした。


あまりにも大きく地下鉄構内に響き渡る口笛の正体は先ほどの盲目の方。


口笛を吹いているときはあまり杖を叩いていない様子、というか、床をこするように繊細に杖を使っていて…えっ?


サビが終わって口笛をやめたとたんにまた激しく強弱をつけて歌うように杖で床を確認して歩いています。


僕はまた足を止めてその方をみてしまいました。


この叩き方って…。


しばらくするとまた口笛を吹かれました。


「夕焼け染まる駅のホーム。手を振るあなた遠くなっていく」


そしてまた床を叩くタイム。


やっぱりそうだ!!!!



この方は多分頭の中で福山さんのSquallを再生しながら床を叩かれていたのでした。


床を叩くリズム、そして、その強弱をつけたドラムテクニックの全てが完全にSquallの為に用意されていました。


僕はそれに気づけたことが嬉しくてその人がとても自由に見えて楽しくて。


ほんとはその方もストレス溜まりまくりで地下鉄響くから気持ちいいし、杖でやけくそに激しくバチクソ思い切り床を叩いて、爆音で口笛吹き散らかしていただけかもしれないですけどね。それでもなんかよかったんです。


コロナや色んなことで気分が上がりにくくなっている自分の気分を少し上げてくれました。


しかも、音の大きさ的にも誰かに「うるせー!」と言われても仕方ないくらいの本気の大きさで。


それでもそんな些細な迷惑位別にいいじゃんと僕は思いました。人によっては良くないだろうけど。この方は(多分)今を大いに楽しんでいる。

楽しんでる人を見て、僕も楽しめた。


「この方は(多分)今を大いに楽しんでいる。

楽しんでるのを見て、僕も楽しめた」

この辺りの一連の流れが僕の中で実に演劇的でした。


「演劇は関係性の芸術」などとよく言われます。

どういう関係性を人が築くのか。友達とか恋人とかだけではなく、それが一言で言えない今回みたいな一方的で特殊な関係性でも。


彼は僕のことを知らない。僕も彼のことを知らない。彼は僕が見ていることさえ知らない。

だから一方的に築いた関係性ではあるけれども。

それでもいいんです。


誰かと何かの関係性を構築していく様を目の当たりにするのが演劇の本質的な要素の一つだと思っていて、劇場でつくられた作品をなかなか鑑賞できなくなった今、僕の観劇欲も満たしてくれました。

観劇というかこの場合僕は演者になるのか。

でもいい演劇を見たなという感覚が身体に残ったので、観劇としておきます。


二度と会わないだろう人とでも何かしらの方法で関係性を築く。ここはとてもほんとに演劇的だなと思いました。演劇の醍醐味。



この辺りで、また僕は歩き出しました。

歩き出した背中を、あの方の杖のビートが力強く押してくれています。


口笛は吹いていません。ドラムのパート(床を叩く時間)の方が圧倒的に長いのです。

そして、僕の脳内ではもちろんSquallが流れています。


「ましゃーー!!!!」


オーディエンスはここに居るぞ!俺の頭のなかに音楽があるぞ!もしかしたら、この中に他にもオーディエンスがいるかもしれないぞ!


彼のただ床を確認して歩くためだけだと思っていた杖の音が音楽に変わった魔法のような時間の話しでした。


最初から「人の持つその人だけの生きるリズム」は音楽的ではあると思うんですけどね。

南無。




・空を集める

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久世は今「令和三年日本の形」という企画をやっていて、その企画で、全国の方から空の映像を集めています。

だからこれを読んでいる皆さんにもお願いがあって、家から見える空、職場から見える別に特別じゃない空で構いません。

スマホで撮って気軽に送って欲しいのです。

昼でも夜でも構いません。しゃべり声が入っていてもいい。

既存の音楽が入っていると著作権の問題で厳しいですが自分のならいくらでも。

歌ってくれててもいいし、踊ってくれててもいいし、空が映っていれば、法律や公序良俗に反しなければ割と自由にしてもらっていいです。


僕は頭が良くないから凄い考えるんですよ。ずっと迷ってるんですよ。


自分が生きてきた中で、阪神大震災とか、オウム事件とか、9.11とか東日本大震災いろいろあったけど全世界で色んな事が変わってしまった今回は本当にたくさん考えてまして。


でも多分、生きていたとして、10年後にこの時どういうことを考えていたのかどういう気持ちだったかって正確に覚えてる人って多くないかもしれないなと思うんです。少なくとも僕は正確には覚えていないと思う。


ましてやその時の空がどんな空だったのかなんて、その時の国の雰囲気がどんな状況だったかなんて覚えてない人が多いと思うんです。

もちろん覚えてる方もいると思うんですけど。


今、とても貴重な状況だと思うんです。そりゃ毎日貴重だけど、状況として特殊というか。

だから、今、僕の知らない場所で、知ってる方や知らない方がどんな空を見ているのか、知りたいなと思ったんです。


また、令和三年日本がどんな形をしているのか、自分の言葉と相方の現代音楽家・市川ロ数君の音楽と、皆さんから届く映像で、形にしておきたいなと思ったんです。


民俗学者の柳田國男さんが、日本が近代化される中で「消えてしまうかもしれない!残さないとヤバイで!」と思って日本各地の民話や伝承を集めて、形にした色んな本があります。一番有名なので遠野物語とか。


今では、その地域で語られなくなった話も多くあるけれど、人間の文化や歴史や生活を思想の変遷を知るうえでそれを残しておいてくれたことには非常に大きな意味があったと僕は思っていて。


だから、これは僕なりの遠野物語でもあるんです。


ぼくのいつもある作品のテーマが「人間のカタチを探る」なので、俺がやらんとあかん!と思いました。



もしかしたら、この時集まった空が、皆さんのエピソードが何かの大きな意味を持つかもしれないなぁと思っているんです。



更に言うと、利権や私利私欲が絡まない、純粋な善意と気持ちのみで紡ぐ、空の聖火リレーでもあります。


難しいことや、ずるをしない形で何かが繋がっていくのは本来気持ちのいいものであるはずだと思います。だから、僕も、僕の空とみんなの空を繋げてみたい。大事なのは気持ち。

そしたらなにが見えるのかどんな日本の形が見えるのか、どんな人間のカタチが見えるのか知りたい。


この企画に応募いただいた映像は、11月に東京都浅草橋にある隅田川沿いの素敵な素敵なCPKギャラリーというところで「展示」する予定です。


もちろん現地にいらっしゃれなくても、全国から応募してくれた人に見てもらえるように作品を配信する予定です。


応募いただいた映像のフル尺を使うことは無いと思いますが、作品の一部に組み込んで上映させていただきます。


音と言葉と全国の空の映像をそれぞれ違う法則でプログラミングして、再生することで日々変わっていく令和三年の日本の形を疑似体験できる装置として、この作品が機能すればいいと思います。


ある法則に従ってランダムに映像(とともに言葉と音楽)が流れる10分程度の作品にして、エンドレスに流す予定なので、毎回違う映像が再生され、毎回違う言葉と音楽が再生されます。


だから、応募いただいた映像が毎回流れるわけではないですが、一日の中で、もしくは会期中に何度かは流れると思います。(プログラムなので、保証はできないですが)




そしてまた集まってきてる映像がくそ楽しいです!応募者の皆さんの性格とか生活が滲み出るような素敵な映像ばかり。

空を通して、或る角度からの日本の形が見えそうです。

いい作品が生まれますわ。だから良かったら参加してくださいね。




調べた結果、下記の県の動画が一つもありません。

よろしければご協力お願いいたします。 


残り9県。

群馬、山梨、福井、三重、愛媛、和歌山、鳥取、長崎、山口。

全部の県が集まればいいという訳でもなく、必死に集めて集まらなかったら、それはそれで僕がつくる、令和三年日本の形だと思っています。

ただ、必死で集めたい。映像が少ない県もお伝えします。正確には1つです。 

栃木、山形、茨木、秋田、岩手、新潟、島根、北海道、富山、高知、徳島、佐賀、大阪、青森、大分、宮崎、鹿児島、香川、岐阜、岡山

どんな映像でも構いません。空を繋げて、日本の形を探ってみたい。

興味持っていただいた方はご協力をお願いいたします。

宛先はこちら

reiwa3nen.nihon.no.katachi@gmail.com

応募要項など詳細はこちら

https://kuzetakaomi.weebly.com/2019621644199772418026085264121239824418.html


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参考までに企画の動画を貼っておきます。

7月までに届いた映像でみんなの空をつないだサンプル動画


空を下さいお願い動画


読んで頂いてありがとうございました。

今月は短くしようと思っていたのに結果長くなってしまいました。


最後に、令和三年日本の形の主催、僕と現代音楽家の市川君のユニット「言音(ことね)」が去年つくったアルバムの中の一曲、RED1をヤンサンオープニングアニメ大賞でグランプリを獲ったイワミユウサクさんと、映像クリエイターの「隊長」が映像化してくれました。

同じ曲なのに全然違う映像が面白くて仕方ない。

マジで最高なんで見てください!


隊長は今回の令和三年日本の形にもかなりがっつり関わってくれています。

アルバム購入はこちらから。

https://kuzetakaomi.weebly.com/1245812531125211245212531124731248812450.html


イワミユウサクさんのRED1


隊長のRED1



今月もありがとうございました。

また、何かの形でお目にかかれるのを楽しみにしています。


公式サイト:漫画家 山田玲司 公式サイト
グッズ販売:シエスタウン
Twitter:@waraukuze
Instagram:@kuzetakaomi
ファンサロン:GOLD PANTHERS
Facebookページ:@YamadaReijiOfficial

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企画編集:久世孝臣
     平野建太

発  行合同会社Tetragon
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