コメント欄でnote(そしてシラス)民のみなさまの名前も見られて心強い限りでした.
本ちゃんねるでは,
・月2回のライブ
・週2回の動画配信
を中心に進行予定ですが,しばらくは入会者強化期間^^としてコンテンツ多めでお届けしますよ♪ 来週(1/30火 20:30-)は森永康平さんをお招きして「投資」についてお話しします.
ニコ生やYouTubeの経済ちゃんねるって政治・政策系の話が多いじゃないですか.まぁ私も専門は経済政策(財政・金融政策,地域再生)なわけですが・・・せっかくの学習の機会なのでビジネス・投資といった直接的に「自分」に役に立つ知識もお届けしたいなぁと思ったりするんです.
というわけで,ブロマガでも「政策」ものと「ビジネス・投資」もの交互に情報提供していきたいなと思うわけでありますよ♪
...というわけで今日のnote経済ゼミからの選り抜きは,ビジネスの話.なかでも重要な「価格」のお話です.
※宣伝ですが...noteでは文章での時事・経済学解説をやってます.note経済ゼミのスタンダードプラン+ニコ生会員になるとゼミのマスタープランとおなじコンテンツをお得に費消できます(違いはアーカイブ機関くらい)
◆不味いステーキと紺屋の白袴
みなさん♪ お肉食べてますか? 寄る年波には勝てず,最近は肉と言えばすっかり赤身ばかりになっております.本日は価格設定に関するお話です.
我が家ではステーキを焼くのは私の係なのですが……先日食べたステーキは酷かった.筋(スジ)が多いのは見た目からわかりましたが,その筋が硬いなんてレベルじゃない.歯で噛み入れないどころかステーキ用のナイフでさえ切れない.さらには全然味がしない.こりゃコロナにかかったんじゃないかと思うくらい肉の味がない.
ちなみに私はぜんぜんグルメではありません.どちらかというと味音痴何でも美味しくいただける方です.でも,このお肉があんまり美味しくないのはわかるよ.
サービスステーキ肉348円(/100g)が不味かったという話なので,これだけなら「安物買いの銭失い」というだけですが,この話には少々の余談があります.
家の近所の独立系スーパーは比較的精肉コーナーが充実しておりまして,我が家では肩ロースステーキ肉598円(/100g)を購入しています.これがとにかくお得.デパ地下で1000円する肉と遜色ないくらい.柔らかで赤身主体.好みの味です.また,牛コマやラム肉などもお買い得な優良店です.
先日,買い物に行ったときにふと思ったんですよ.598円のステーキ肉や牛焼き肉用が美味しいんだから,ステーキ肉最安値の348円だって結構イケるんじゃないの?--って.その予想は見事に外れました.
そしてふと思い出したんです!これって価格設定の基本じゃん!
って!
お得すぎる商品の罠
顧客にはいくつかのタイプが存在します.典型的には以下の2つのタイプに分けられるでしょう.【激安派】とにかく安さ/品質なんて気にしない(わからない)
【コスパ派】品質も気になるけど,お値段も気になるよね
もちろんどの程度品質・価格を重視するのかにはグラデーションがあります.例えば,品質を10段階で評価できるとして……品質が1上がるなら「100円払っても良い」という人から「1000円払ってもとにかくよいものが欲しい」などさまざまでしょう.
でも,ここを上手に単純化するのが経済理論!ここでの激安派・コスパ派はこのような品質への評価を単純化したものと解釈ください.以下の話は品質評価にグラデーションがあってもそもまま成り立ちます.
さて,ここであなたが精肉店を運営していると想像ください.仕入れの都合で商品は,
【A】100g300円で仕入れできる良質で美味しい肉
【B】100g100円で仕入れできるそこそこの肉
の二種だとしましょう.良心的な店主であるあなたは...美味しい肉【A】は600円で販売しても十分満足いただける品質がある! でもそこそこ肉【B】の方は仕入れ値も安いんだから150円にしておくかといった遠慮がちな値段をつけるとおおきな損失を招く可能性があります.
コスパ派は,読んで字のごとく,コスパを重視しています.彼らは【B】の方が美味しくないとわかっていたとしても,価格・品質の比較においてお得だと思ったら,【B】を買います.そして激安派は品質はわからない/貧乏で高いものは買えないわけですから必ず【B】を購入する.
そう.安い肉【B】のコスパが良すぎると,誰もお薦めの美味しい肉【A】を買わなくなってしまうのです.実際,私もサービスステーキ348円が美味しかったら次からそっち買ってたかもしれない.これを一括均衡・プーリング均衡と呼びます.
屋根のない三等客車
19世紀アメリカの長距離鉄道には屋根のない客車があったそうです.家畜の輸送用の車両にさえ屋根がついているのに...しかも,その屋根なし客車はわざわざ「普通の客車の屋根を取っ払ってつくる」ものだったとか.なんでこんな無駄なことをするのでしょう.理由はもうおわかりですよね? 三等客車が快適だと二等客車に乗る人がいなくなってしまう.
このように説明すると「じゃあ三等客車なくせばいいのでは」と思うかもしれません.しかし,本当に貧乏でギリギリ三等客車くらいのチケットしか買えないという人からもしっかり利益をとりたい.三等がないとこの手の貧しい人はそもそも鉄道を使わなくなってしまいます.
このように,商品ラインナップのなかの「低価格」商品の価格づけには十分な注意が必要です.低価格商品を「お得」にしすぎてしまうと,より高価格の商品(要はもっと利ざやが高い商品)を購入できる人が低価格のお買い得品にながれてしまう.このようなプーリングを避けるために,低価格商品は「お得」ではいけない!のです.
レストランでワインを頼むとき,ついつい「二番目に安い」ボトルを頼んでしまいがちですよね.良く通ぶった人が馬鹿にするオーダーの方法ですが……ある程度品質がわかる人ならば,これは正解かもしれません.賢いレストラン経営者は最安値ワインのとことにはけして「コスパに優れた1本」を置きません.
このように,懐に余裕がある人は高い商品を,そうではない人は安い商品を自分から選択する状況を分離均衡またはシグナリング均衡と呼びます.
価格差別の論理
一連の話は情報の経済学のテーマです.なかでも価格設定による選別はミクロ経済学や産業組織論では「価格差別」と呼ばれています.当然ながら売り手はできるだけ高く買って欲しい.ベストなのは全ての顧客にその人が払っても良いギリギリまで高い値段(=留保価格)を払ってもらうことです.かつては日本でも一般的だった「お店で値切る」という商慣習は客側に得なように見えて……客のタイプ識別(留保価格を予想する能力)に長けた販売員側に有利だったりする.
「全員に違う価格」で販売する/できる状況を完全価格差別と呼びます.このとき,販売側の利益は最大化されます.しかし・・・そこまで上手くいくケースは少ない.そこで考案されるのがシグナリング均衡をつくる方法です.
懐に余裕がない人/商品への評価があまり高くない人は廉価版を,余裕がある/その商品を大好きな人は自然と豪華版を購入するように価格設定ができているか・・・まずは本メンバーシップの価格設定から見直す必要があるかもしれません.。