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一色まこと『ピアノの森』が絶好調だ。長い長い物語もいよいよクライマックスへと近づき、最後の決戦が繰りひろげられている。その決戦の名はショパンコンクール。その時点での世界一のピアニストを決定する神聖な戦いである。
クラシックミュージックに造詣が深くないぼくは、作中のコンクールがどの程度現実を反映して描かれているのかわからない。しかし、いずれにしろあるいはコンクールに参加し、あるいはそれを見守る人々の描写は本物だ。
決して音が聴こえてくるはずもない紙の世界の上に、圧倒的な表現力によって豊穣なる音楽の世界、「ピアノの森」が描かれるのを見るとき、その描写に圧倒される。
さて、数々の難関をくぐり抜け、ショパンコンクールの最終選考にのこった選ばれし天才たちのなかでも、ひときわ凄まじいピアノの技量を誇っているのが、中国代表のパン・ウェイだ。かれには孤児として育ち、偶然、大富豪に拾いあげられてピアニストとしての教育を受けたという壮絶な過去がある。
そんな経験からパン・ウェイは世界のすべてを恨み、憎み、軽蔑していた。自然、そのピアノも、絶対的な技量を誇る一方で冷たいひびきを帯び、かれの荒涼たる精神世界を表すかのようにひとを突き放していた。
しかし、そんなパン・ウェイにも、たったひとりだけ魂のよりどころというべき人物があった。事故によって永遠にその技量を絶たれた元天才ピアニストの阿字野である。凄惨な幼年期からずっと、かれのピアノの音だけが、パン・ウェイにとって救いとなってきたのだ。
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