3月1日ゼロワン後楽園ホール大会。観客が誰も言葉を発さず、息を飲み込む音さえも憚られる緊張感が会場を支配する中――、必殺のダブルアームスープレックスで船木誠勝をマットに沈めた鈴木秀樹。191センチ108キロの巨体、元UWF戦士・宮戸優光のジムでビル・ロビンソン直伝のキャッチ・アズ・キャッチ・キャンのテクニックを学び、デビューの地は“なんでもあり”のIGF。現在の色彩豊かなプロレス界では絶滅寸前とも言えるかもしれない“プロレスラー”の色を持っている。そんな鈴木秀樹のプロレス観に触れてみた。
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①元・新日本プロレス社長 草間政一ロングインタビュー
「暗黒・新日本プロレスと闘った私」
②殺しのライセンスを持つ空手プロレスラー! 小笠原和彦
「ボクは“やっちゃっていいよ組”なんですよ」
③狂犬・小原道由のクレイジートーク
「恩師・斉藤仁先生はプロレスラーになりたかったんですよ」
④日本人悲願の王者誕生へ――超新星がUFCフライ級王座挑戦!
堀口恭司インタビュー
⑤いまだからこそ読みたい! 男と女の壮絶プロレスとは何だったのか?
天龍源一郎×神取忍
⑥テン年代“格闘技団体”としてのあり方――
パンクラス酒井正和代表インタビュー
⑦大好評連載! 小佐野景浩のプロレス歴史発見
ゴキブリ並みの生命力! 大仁田厚の邪道プロレス人生
⑧格闘技新時代のカリスマ誕生か――ゲーオに激勝!
木村“フィリップ”ミノル
⑨日本人ファイターは“薬物天国UFC”とどう戦うべきか――
大沢ケンジ師匠の語ろうドーピング!
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鈴木 そんなに面白い話はないですよ?(笑)。
鈴木 そこはわかるんですけどね。試合で船木さん、ボクの目に指を入れてきましたし。
――ファッ!?
鈴木 いつだったかな。12月のタッグマッチでやったときかな。
――それは……故意に入れてきたんですか……!?
鈴木 だと思いますよ。試合はノーコテストだったんですけど、船木さんが上に乗ってきて掌底を入れてきたんです。そのときに顔を抑えつけられて、目に指を入れてきましたね。こっちも頭に来たから、船木さんの指を折りに行きましたけど。
――そうなったら折りますよね……って、鈴木選手も怖いことやってます!
鈴木 翌日、指を入れられた目の周りが真っ青になってましたけど。でも、べつになんともなかったし、やられたときは「やるな船木!」って嬉しくなっちゃいましたよ。「それがほしいんだよ。こういう船木さんがみんな見たいんじゃん」って。
――嬉しくなっちゃうって(笑)。
鈴木 そういうことをやられても、返せる技術があればいいだけなんですよ。ボクは負けた奴が悪くて、勝った奴が正しいとは思いませんけど。でも、弱い奴は正しくないと思ってるんですよ。人それぞれ強さの基準は違いますし、勝った負けたは運だと思ってるんですけど。強くなろうと努力していない奴はリングに上がっちゃいけないと思ってるんです。
――鈴木みのる選手も、鈴木さんと戦ったときに「ちょっと仕掛けたんだけど、返しやがった。いまのプロレスラーじゃ知らないやり方だ」っていう興味深いコメントを残してましたね。鈴木みのる選手が若手を認めることもかなり珍しいんですけど。
鈴木 あれ、わからないんですよ。翌日記事を見たら、みのるさんがそう言っていたことを知って。宮戸(優光)さんからも電話がありましたから。「みのるに仕掛けられたんだって?何をやられたんだよ!?」って。でも、わからないんですよね。
――へえー(笑)。
鈴木 ホント心当たりがないんですよ。ボクにとっては普通の試合で。記者の方にも「何があったんですか?」って聞かれたんですけど……。
――「面白い話はないですよ?」どころのオープニングじゃないですね(笑)。鈴木選手はプロレスラー志望じゃなかったわけですよね?
鈴木 宮戸さんのスネークピットに通ってたんですけど、最初はそんなつもりはなかったですね(苦笑)。休日に通ってるだけで。プロレスは好きだったんですよ。でも、運動ができなかったんですよね。
――それは鈴木選手が生まれつき右目が見えないからですか?
鈴木 いや、それは関係なくて。身体が大きいけど、体力がないから「俺は見るほうだな」と思って。で、郵便局に就職して3年目のときに民営化が始まって、いろいろとやり方が変わってる時期ということもあって、アルバイトがたくさん入ってきたんですよ。そこにボクくらい身体が大きい子が入ってきて。京都からスネークピットに入るために上京してきたんです。その子に「ジムに身体の大きい練習相手がいないから一緒に行きませんか?」って誘われたんですよね。
――鈴木選手も191センチありますからねぇ。それでスネークピットに通うようになったんですね。
鈴木 でも、そいつは3ヵ月くらいでジムに来なくなっちゃったんですよ。仕事には来るんですけど(笑)。ボクも1週間に1回くらいのペースですけど、そのうち楽しくなっていったんでしょうね。
――当時はどういう目的で通ってたんですか?
鈴木 ボクは英語がしゃべれないですけど、ロビンソンの教え方がわかりやすくて面白かったんですよ。それは宮戸さんにも言えることなんですけど。ボクは頭でっかちなんで、高校で部活をやらなかったのも体育会系が嫌いだからだったんです。極端なことをいうと、どんなにバカでも先輩は先輩じゃないですか。自分が尊敬できる人ならいいけど、そうじゃない人を先輩扱いしたくなかったので。
――スネークピットはそうじゃなかったと?
鈴木 2人とも教え方が理詰めなんですよね。こうでこうだからこうなるんだって納得できる。あと宮戸さんが目標を設定してくれたですよね。「ベンチでこれくらい上げてみろ」とか。そうしてるうちにプロでもないのに耳も湧いてきて、どんどん体重も増えていって(笑)。
――郵便局員なのに(笑)。
鈴木 それでもプロレスラーになる気はなかったんですよ。一瞬、総合格闘技をやろうと考えたときはあったんですけど。
――普通は腕を試したくなりますよね。
鈴木 ボクがジムに通ってたときは総合格闘技も元気だったので、そんな考えもあったんですけど、それよりロビンソンの考えに興味を持つようになったんですよね。それで昔のロビンソンの試合を見たら「あ、この動きは練習で教わった……」と気付くことが多いんですよ。
――“答え合わせ”ができたというか。
鈴木 そうなんですよ。プロレスってお客さんに見せるという大前提があるんですけど、プロレスラーの動きにはちゃんと理屈があるということがわかるんです。技術の流れがウソじゃないというか、ロビンソンに教わったことはすべてボクの中ではつながってるんですよね。たとえばドラゴンスクリュー。ボクはロビンソンからドラゴンスクリューとしては習ってないんですよ。ボクが教わったのは、片足タックルで相手をテイクダウンする中での技だったんですけど。それはよく考えるとドラゴンスクリューなんですよね。
――れっきとしたテイクダウンの技術だった。
鈴木 はい。ボクが教わったドラゴンスクリューは見栄えは悪いんですよ。LEONAくんがやってるドラゴンスクリューはボクが教わったかたちに近くて。でも、藤波さんたちのドラゴンスクリューは、お客さんのために見栄えを良くしたと自分の中では考えてるんです。プロレスにはそうやって見せるための技が多いとは思っていたし、そういう要素は必要なんですけど、基本的に理にかなった技なんですよ。
――そうやってプロレスの原典に触れる機会があったことで、キャッチ・アズ・キャッチ・キャンに傾倒していったんですね。
鈴木 タイミングがよかったんです。ロビンソンは足の状態が悪くて1〜2年くらい帰ってたんですけど、ボクがジムに入ったときにまた日本に戻ってきて。ボクが教わったのは、最後の何年間の中で一番体調が良かった時期なんですよね。ロビンソン自らの身体を使って教えてくれました。
――そのときロビンソンの必殺技ダブルアームスープレックスも伝授されたんですね。
鈴木 これもドラゴンスクリューと同じで、最初にダブルアームスープレックスを教わったわけじゃなくて、分解した技をつないでいったらダブルアームスープレックスになったんです。あるとき練習が終わったあとに一般会員同士でフカフカのマットに投げ技をやって遊んでいたんです。そうしたらロビンソンが「遊んでもいいからケガをしないようにちゃんとやれ」と言ってきて。ハーフハッチという技があるんですね。相手の首を持って下から手を回して倒すという。そのハーフハッチをやったとき「相手が倒れないように堪えたら後ろに投げろ。それがダブルアームスープレックスだ!」と。
――なるほど! 人間風車もちゃんと理にかなった技なんですね。
鈴木 だからロビンソンのダブルアームスープレックスは、相手の頭を自分のお腹に当てるんじゃなくて、ハーフハッチに行ってから投げるんです。
――ドリー・ファンク・ジュニアのダブルアームスープレックスはお腹に当ててまっすぐ投げるものですね。
鈴木 ロビンソンのほうは相手が堪えるから投げれる体勢になるし、そのまま下に押し潰すこともできる。顔から押し潰されたら受け身は取れなくて危険です。
――ペディグリーっぽい技になりますね。
鈴木 そうです。ダブルアームスープレックスにかぎらず、コブラツイストも卍固めもその技自体を教わってなくて、「相手がこう逃げるから、こう決める」という流れの中にあるんですよ。もちろん見栄えも必要で、コブラツイストは本当はリングに寝てやる技なんですけど。お客さんに2人の顔が見えるようにするために立ってやるようになったんでしょうね。
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