結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年1月6日 Vol.145
はじめに
みなさま、あけましておめでとうございます。 今回は新年(2015年)最初にお送りする結城メルマガとなります。 本年もどうぞよろしくお願いいたします。
前回(Vol.144)は体調を崩してしまい、 読者プレゼント号に急遽切り換えるという状況でした。 たいへん申し訳ありません。
『数学文章作法 推敲編』サイン本の抽選はすでに終了し、 昨日(1月5日)当選者9名様には当選メールをお送りしています。 当選なさった方は、送付先のご住所を返信ください。 外れてしまった方は、申し訳ございません……
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体調を崩したため、年末年始のお休みは事実上の「寝正月」でした。 コンピュータにもほとんど触れず、 ほんとうに久しぶりにすべてを忘れてゆっくりと過ごすことができました。 まあ、ある意味、真の休日を過ごしたといえます。 文句も言わずに支えてくれた家人に感謝です。
記録をたどってみますと、前回体調を大きく崩して結城メルマガが 「読者プレゼント号」になったのは、2014年7月29日号(Vol.122)でした。 半年に一回、というのは健康管理の不徹底ともいえますけれど、 その反面「半年に一度の身体の大掃除」のような感覚もひそかに思っていたりします。
「身体の大掃除」というのは、ぱたりと寝込んで身体を無理矢理リセットしている、 というほどの意味です。ふだん、それなりに健康には気を遣っているつもりですが、 それでも追いつかないほどの小さなズレの積み重ねをいったん「チャラ」にする。 そういう感覚のことです。
身体についてはそれでもいいのですが、 文筆業者としては予定していた原稿に穴をあける(休載する)というのは、 決してほめられたことではありません。 体調が悪くて休まなければいけないことや、 どうしても時間が取れないことは起こりうるものですから、 急遽サシカエできる「代替原稿」を準備しておくのがプロというものでしょう。 その点については反省することしきりです (まあ、読者プレゼント企画というのがその「代替原稿」 になっているといえなくはないですが、それはそれとして)。
寝込んでいる間、たくさんの方からお見舞いメールをいただきました。 ひとつひとつにはお返事できませんけれど、 深く感謝しつつ読んでおります。ありがとうございます。
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英語版「数学ガールの秘密ノート」の話。
昨年末に英語版「数学ガールの秘密ノート」の第三巻(丸い三角関数) が刊行されました。2015年1月5日現在、 Children's Advanced Math Books のベストセラー第一位になっているようです。 しかも二位は第一巻(式とグラフ)ですね。たくさんの方の応援感謝です。
◆Children's Advanced Math Books
http://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/english-books/2571690051/
なお、翻訳出版しているBento BooksのWebサイトでは、 PDFでサンプルチャプターを読むことができます。 ぜひご覧ください。もちろん無料、登録不要で読むことができます。
◆"Math Girls Talk About..." (Bento Books)
http://bentobooks.com/math-girls-talk-about/
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電子書籍サイトBOOK☆WALKERの2014年電子書籍ランキング(新書・実用書カテゴリ) で『数学ガール』が第一位となりました! みなさんの応援に感謝いたします。
◆2014年の新書・実用部門は『数学ガール』シリーズがトップ!
http://bookwalker.jp/ex/sp/2014_totalranking/genre.html#Nonfiction
また第九位に『プログラマの数学』もランキング入りしていますね!
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『数学文章作法 推敲編』の話。
昨年末に刊行された本書は、ちくま学芸文庫ランキングにもずっと登場し、 書店さんからの反応も、読者さんからの反応もよく、著者としてとてもうれしいです。 みなさまの応援を感謝します。
「推敲編」は2013年に出版した「基礎編」の続編にあたります。 シリーズものは「新刊を出すと第一巻目も売れる」という特徴があります。 それはよく理解できます。新刊が出て「ああ、こういうシリーズがあるのか」 と認識した読者さんが「それじゃ第一巻から買ってみるか」と思うのでしょう。 「数学文章作法」シリーズも「推敲編」が出て再度「基礎編」が動いているようです。
ということを考えますと、書き手としては「一冊で終わりとなる本」ではなく、 「きちんとシリーズになる本」をねらった方がいいことになりそうです。 しかしながら言うは易く行うは難しとはまさにこのことで、 なかなか簡単にはいきません(いかないと思っています)。 「数学ガール」シリーズも第一巻目を出すときには、 シリーズになるなんて考えはこれっぽっちもありませんでした。
最初からシリーズを見込んで考えるのは大事ではありますが、 これは誘惑との戦いでもあります。どういう誘惑かというと、
誘惑:「このネタは大事だから後の巻に取っておき、今回は使わない」
という誘惑です。もちろんそれが適切な判断になることもあります。 しかし、おうおうにしてネタを薄め、手抜き作業になる危険があるのです。
誘惑:「このネタは次回に使う。今回はこの程度でいいや」
このような誘惑には頑として戦わなければなりません。 言い換えるならば、大事なことは、
「毎回、全力を尽くす」
なのです。まあ当たり前のことですけれど。毎回全力を尽くし、 一冊一冊をしっかりまとめていく。その上でシリーズが構成できたならば、 それはすばらしいことといえましょう。
先ほども書いたように、シリーズには「新刊が出ると、一巻目も売れる」 という特徴があります。ですからなおさら一巻目は重要です。 ところが一巻目を出す時点では、 シリーズが構成できる(ほどの力がある)かどうかは未知数。 なかなかつらいです。
けれども、だからこそ「毎回、全力を尽くす」しかないのでしょうね。
そんなことをよく思います。
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表立って言われることと、言われないことについて。
電車のつり広告でもテレビでも、いわゆる「サラ金」の宣伝はよく見かける。 でもたとえば学校で「サラ金」というものの存在を教えたり、 「サラ金でお金なんか借りるもんじゃない」ということを教えることは少ない (と想像している)。
学校では「書かれていることの読み方」は一応教える。 けれど「契約書では小さい文字のところに意外な盲点がある」ということは教えない。 あるいはまた「明示的に書かれていないことに引っ掛けがある場合もある」 なんてことも教えない。
もちろん、そういう「あまり表立っては言われないけれど、 社会常識として知っておくべきこと」のすべてを学校に担わせようとするのは やりすぎかもしれない。でも、子供はどこでそういう 「表立っては言われないけれど大事なこと」を学ぶのだろうか。
結城自身を振り返ってみて(自分が社会常識を持っているかどうかは棚に上げて)、 「サラ金に気をつけよ」と教えてくれたのは私の祖母だったと記憶している。 小学生の頃だろうか。テレビで金利の話題が出たときに祖母が、 世の中にはサラ金や高利貸しというものがあって、うっかり借りるとひどい目に遭う、 そんな話をしてくれた。
「世の中にうまい話は非常に少ない。もしもうまい話だと思ったら眉唾で聞け」 と言ったのは私の父親だった。父親は固い人だったから、 冒険を戒めるバイアスが比較的強かったかな。
「鳩のように素直に、でも蛇のように賢く」と言ったのは聖書だった。
しかしながら、改めて「何が良いことであり、何が悪いこと(危険なこと)であるか」 を問うてみると、それほど話は単純ではない。 「これがいい」と信じ、それを貫くことで良い結果が出る場合もあるだろうけれど、 誤った判断を貫くことでかえって悪い結果になることも多いだろう。 当然のことである。
「自分はこれで大丈夫」という安心は危険の始まりかもしれない。 しかしいつもいつも不安で満ちている生活はそれ自体が何かおかしいともいえる。
人は、それぞれの生活で「気持ちの落としどころ」を探しつつ歩むのだろう。
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さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。
今回は、昨年末にできなかった「2014年の年間目標の振り返り」と「2015年の年間目標」です。
また、「仕事の心がけ」のコーナーでは普段心がけていることと、 改善したいなと思っていることをメドレー風にお届けします。
さらに「Q&A」のコーナーでは、書籍の扱いについて読者さんの質問にお答えします。
では、お読みください!
目次
- はじめに
- 2014年の年間目標振り返り(書籍、連載、習慣)
- 2015年の年間目標
- 心がけと改善ポイント - 仕事の心がけ
- Q&A - 蔵書と教育的効果について
- おわりに