北島秀一・山路力也・山本剛志 共同責任編集
【目次】
□クロスレビュー「必食の一杯」
博多一風堂 恵比寿店@恵比寿「一風堂からか麺」
久屋@大橋「大江戸ラーメン」
■告知/スケジュール
□編集後記
■特別コラム
「熊本地震でラーメンが果たす役割」
山路力也
まずは今回の熊本地震において被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。そして一日も早く地震が収束し、日常が戻ることを心よりお祈り申し上げます。
今、このコラムを同じ九州の福岡で書いているが、こちらで会う人たちとは連日熊本地震についてのことが話題に上がる。このような大震災で思い出すのが、2004年の新潟中越地震。1995年の阪神・淡路大震災をニュースで観ていて炊き出しの重要性を感じていた私は、千葉のラーメン店主さんたちに声かけをして炊き出しに向かった。その時に感じたことを率直にいえば、多くの人に温かいラーメンを食べて頂けたことの喜びと、つかの間ではあるものの、自衛隊の炊き出しや配給とは違った「イベント的な楽しさ」もお届け出来たことの達成感、そして多くの被災者がいる中で、たかだか1,000食程度しか、しかも一日しか出来なかったことに意味があるのか?ラーメンでなければもっとスピーディーにたくさんの人に食べ物を届けられたのではないか?結局は自己満足が強かったのではないか?という自問自答だった。
私たちは安全なところから被災地へ乗り込み、被災した皆さんの「日常」に土足で入り込む。そして皆の刹那の笑顔を見て、炊き出しが終わったら即座に撤収する。もちろん部外者がいつまでも被災地にいてご迷惑にならないように、という思いからではあるが、同時に自分たちも余震などで被災したくない、という恐怖感が無かったかと言えば嘘になる。完全に当事者意識を持てないことは仕方ないとはいえ、それでもそんな風に考えてしまう自分がつくづく嫌になった。やはり人間は自分が一番大事なのだ。
そして東日本大震災。多くのラーメン店の方たちが入れ替わり立ち替わり炊き出しに向かった。その時に私は炊き出しチームを結成しなかった理由は、上記の理由に依るところが大きい。もちろんボランティアによる炊き出しは不可欠なことだし、それらを危険を顧みず遂行したラーメン店主さんたちには敬意しかないが、自分の役割は別にあると感じていたのだ。だから、東日本大震災時の私は彼らの行動を情報発信することと、義援金を集めることに徹した。多くのラーメン店主さんに声かけをして、味玉トッピングの売上げを義援金にする「義援玉」のキャンペーンも企画し、復興支援のライブイベントも開催し、このイベントに関しては現在も継続中で、今年の夏には9回目の開催を予定している。
今回も多くのラーメン店主さんたちが炊き出しのために現地入りしている。しかし、その流れは正直新潟中越の時とあまり変わっていない。せっかくの多くのラーメン店主さんたちの思いと行動を、もっと効果的に生かす事が出来ないだろうかと思う。積極的に現地入りしている福岡などのラーメンチームと連携するなりして、組織的に色々な避難所を回れるような仕組みであるとか。新潟中越から10年のあいだに、私たちは大きな地震をもう3回も経験しているのだ。いつでもこういう事態が起こりうる国にいるのだから、普段からそういう組織作りがもしかしたら必要なのかも知れない。
私がプロデュースしている「千葉ラーメン拉通」では「熊本応援豚骨ラーメン」と題して、一杯あたり250円を利益から義援金として熊本県に送る予定でいる。同時に東日本大震災時と同様に味玉トッピングに関しては売上げの全てを義援金にする。物理的に炊き出しに行けないラーメン店では、このような活動をしている店も多いが、もっと多くの店が何かしらのアクションを起こせばいいなと思っている。それはラーメンに関わる人間だからラーメンで、というだけの話で、ラーメンだからどうこう、ではなく、同じ日本に住む人間としての純粋なアクションだ。
現在ボランティアなどの活動は、平日と週末ではその数が極端に違うと聞く。そしてそれは、連休明けから一気に減るだろうというのが現地の読みだ。一過性ではなく継続した支援をするにはどうしたらいいか。一人一人の意識が問われている。
山本剛志
大きく報じられている通り、今月14日夜と16日未明、熊本県で最大震度7を記録する地震が発生し、その後も過去に例がない頻度で地震が発生しています。熊本・大分両県を中心に大きな被害が発生しており、被災された皆様にお見舞い申し上げます。そんな中、ラーメン店でも早々に様々な動きが起きている。
まず、被災地である熊本のラーメン店が立ち上がった。久留米ラーメンの人気店「モヒカンラーメン光の森店(熊本県菊陽町)」では、4/17から3日間は店舗でラーメン炊き出しを実施。熊本ラーメンを代表する「桂花ラーメン」は、熊本県内の店舗が被災し一時営業できない中、親会社である「味千ラーメン」と共に各地で炊き出しを行った。
被災地以外からも、炊き出しに向かうラーメン店の姿があった。特に福岡県は隣県という事もあり「一風堂」「一蘭」などもも炊き出しを行っていた。そんな中、「博多だるま」「秀ちゃんラーメン」を展開する「D&H」社が、19日と21日に熊本入りしラーメンの炊き出しを行った。同社は5年前の東日本大震災の際にも炊き出しを実施していて、現在でも宮城県塩竈市への炊き出しを続けている。それだけに炊き出しのノウハウを知り尽くしていて、現地の受入担当者と打ち合わせ、「来た時よりもきれいに」「ゴミは持ち帰る」「必要な日用品も持参する」など、被災地の事を考えた炊き出しを行っている。
中でも驚いたのはラーメンを提供するスピードの速さ。「1時間で300杯」というハイペースに驚いていたら、河原社長から「ラーメンを待っている人達の為に、少しでも早く提供したい」という目的がある事を教えてもらった。通常の店舗と違い、多くの人が極度の空腹状態にあり、提供スピードが問われる状況。イベントでもハイペースでラーメンを提供する同店だが、「その経験が生きています」と言われて納得できた。また、被災地に多くのボランティアが入るであろうGWには炊き出しを一旦取り止め、その後も必要な支援を続けていくとしている。
被災地以外でもラーメン店の動きがみられる。義援金を募る店や、限定メニューなどを販売し、売上を寄付する店も出てきている。中でも興味深いのは、滋賀県長浜市の「號tetu」の取り組み。鶏白湯にマー油を加えた熊本ラーメンインスパイアメニューを通常は830円で提供しているが、これを70円プラスの900円で販売。そのうちの200円を義援金に寄付する。客と店が既存メニューで息の長い支援を行うスタイルは、今後広まっていく事に期待したい。
発生から一週間で余震も続いているが、今後は復興に向けて支援の手を差し伸べる必要がある。ラーメン店がその一助になれれば、と考える。
□クロスレビュー「必食の一杯」
一杯のラーメンを三人が食べて語る。北島、山路、山本の三人が、今最も注目しているラーメン店の同じ一杯をクロスレビュー。それぞれの経験、それぞれの舌、それぞれの視点から浮かび上がる立体的なラーメンの姿。今回は3月31日銀座に新しくオープンした、ふぐだし潮 八代目けいすけの「ふぐだし潮らーめん」を山路と山本が一足早く食べて、語ります。
「ふぐだし潮らーめん」1,000円
(※写真は美味玉入り)