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歴史学者たちの傲慢さに気をつけよう|THE STANDARD JOURNAL
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歴史学者たちの傲慢さに気をつけよう|THE STANDARD JOURNAL

2015-07-28 11:03

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    おくやま です。

    私は現在、次に出る本の訳出作業の
    最終追い込み段階に入っているのですが、
    ここ数日間とりくんでいるテーマが、なんと核兵器に関するもの。

    「なんか物騒なテーマですねぇ」
    とお感じになる方もいらっしゃると思いますが、
    原著者はなんといってもレーガン政権で核戦略をアドバイスしていた人物。

    この分野が専門領域であり、
    色々と言いたいことがあったようで色々と書いており、
    こちらも勉強になってます。
    ただしこれを訳していて私が個人的にあらためて感じたのは、やはり

    「戦略はフィクションである」

    ということです。

    というのも、グレイ自身はソ連に対抗するために
    アメリカの核戦略をアドバイスしていたわけですが、
    なにせ核兵器というのは、歴史上アメリカが日本に対して2度使っただけ。
    冷戦後期にソ連と対峙していたアメリカのような国が、
    大量に核武装している相手と撃ち合いになったという例は
    (幸運なことに)一度もありません。

    ところがこのような「核戦争」(nuclear war)というのは、
    その発生の可能性としては「ゼロ」ではないので、
    アメリカもソ連も、互いに最悪の事態を想定して、
    政府の上層部はさておき、軍同士は手持ちの核兵器を使って
    戦う計画を立てておりました。

    しかし繰り返しますが、
    誰も「核戦争」を戦った経験を持つ人物はいませんので、
    おのずとその計画や訓練、それに兵器の調達などは
    「核戦争になったらおそらくこうなるだろう」
    という推測を元にするしかなくなってしまいます。

    もちろん当時の専門家たちは
    「推測を元にしたもの」というと聞こえが悪いため、
    とくにアメリカ側は、戦争経験のある軍人ではなく
    (そもそも彼らだって核「戦争」の経験はないので素人)、
    経済学者や数学者、それに社会科学系の学者たちに、
    いざ核戦争が起こった場合の戦略理論を色々と議論させて、
    精緻化させていきました。

    ところが根本的に、それは「まだ起こっていないことを計画する」
    ということですから、相変わらず推測の域を出ません。
    そういう意味で、核戦略というのは、
    まだ起こっていない未来についての話、
    つまりフィクションと変わらないわけです。

    ところが核戦略だけでなく、
    戦略というのは基本的にすべてフィクションじゃないか?
    というのが私の長年の問題意識です。

    たとばプロイセンの英雄、大モルトケは、

    「敵の主力に最初に対峙した後まで
    確実に生き残るような作戦計画というものは存在しない」

    という印象的な言葉を残しておりますが、
    これは戦略全般にも言えることです。
    戦争や戦闘というのは、その流れがどのようになるのかは、
    いざ起こってみないと誰にも全く予測がつかないものだからです。

    ところがこれは戦争だけでなく、
    人間が未来に向かって新しいことをやっていこうとする場合、
    その活動全般にもあてはまることではないでしょうか?

    たとえば前のエントリーで紹介した「ハードシングス」という本ですが、
    原著者はITベンチャーで全く新しいことをやっていく時に、
    戦略やビジョンのようなもの(つまりフィクション)
    を立てながらとりかかるわけですが、
    基本的に先はどうなるのかわからないので、すべて手探りでやっております。

    これは経営だけでなく、国家経営である政治、戦争、
    さらにはミクロのスケールでいえば、われわれ個人の人生でも全く一緒です。
    みんな先がどうなるのかわからないので、手探りでやっているわけですね。

    ところがここで「歴史学者」のような人物が出てきます。
    彼らは過去の政治や戦争、それに核戦略のようなものに対して、
    ただ単に自分がその結果を知っているだけなのに、
    上から目線でガンガン批判をするわけです。

    しかもその当事者たちが、
    完全な情報をもたない「戦場の霧」の中で
    必死にのたうち回っていたことなどは無視です。

    さらにひどい人にいたっては、
    「過去を知っている」というだけで、
    まるで自分が「神の視点」を手に入れたかのように振る舞いつつ、
    そこから現在の状況や、さらにはこれからどうすべきかという未来的なことまで、
    さも聞いてきたかのように論じてしまうことがあります。

    つまり歴史を知っている(と思う)ことは、
    知的に傲慢な態度につながりやすい、ということなのです。

    ちなみにジャンル的に現在のことを最もよく語れるのは、
    現役のジャーナリストたちかもしれませんし、未来についてはシンクタンクの人間、
    さらには占い師やSFライターたちのほうが適役ということになるのかもしれませんが・・・

    もちろんこれはすべての歴史家や歴史学者たちに当てはまることではないですが、
    人間にとっての最大の問題は、まだ起こっていない未来については
    フィクション的なツール(戦略論や、状況の違う時代の歴史の教訓など)を使って
    対処していくしか方法はない、ということであり、
    その反対にファクト(ノンフィクション)だけを求める歴史学者に未来を語らせるのは、
    実は本人が勘違いしている傾向があるために、
    われわれが思っているよりも危険である、ということです。

    余談ですが、バーナード・ブロディは、

    「人々がどのように戦争を遂行し、ストレスのかかった状態の中で
    どう行動するのかについての唯一の実証的なデータは、
    われわれがもつ“過去の経験”であるが、ここで忘れてはならないのは、
    これらの経験が現在とは条件の大きく異なる環境の中で起こったということだ」

    と書いてます。至言ですね。

    未来はまだ来ていません。

    過去のノンフィクションの知識はもちろん重要ですが、
    未来に向かっていく場合、われわれには
    フィクションの力も重要なのではないでしょうか、
    という問題提起でした。

    ( おくやま )



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    (担当:紫)
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    http://www.realist.jp/strata.html
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