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『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』-6-
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『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』-6-

2013-10-17 13:59

     皆様こんにちは、ニコ生D&D解説担当の塚田です。今回のこのコーナーは、ほぼ全滅に終わった前回のレッド・ドラゴン戦への反省回となります。

     とは言っても、PCたちが全滅しかけたからと言って前回のセッションが自体が失敗だったわけではありません。前回のセッション自体は楽しいものでしたし、視聴者の皆さんからもたくさんのコメントを貰えて、大いに盛り上がった回だったと感じています。PCが1人を除いて気絶するというハプニングこそあったのものの、そこからとっさの判断で事態の収拾をはかるプレイングのおかげで、参加者全員が楽しい時間を過ごすことができました。
     あわや全滅と言うところではありましたが、結果的に物語は続いています。TRPGのセッションはDMとPLの協力によって構成されることが(図らずして)証明されたと言えるでしょう。

     ただし、振り返れば冒険を提供するDM側にいくつか手抜かりがあり、それがハプニングにつながったのが残念だったと考えています。また、レッドドラゴンとの戦闘をがっちりと魅せられなかったのは非常に悔いが残るところです。以下、何でこうなったのかを検証して行きましょう。


    失敗の本質
     前回のてんまつを単純に見れば、DMが強すぎる敵を登場させてPCたちを理不尽に全滅させたということになります。しかし、あの場の参加者たち(特にDM柳田と解説の塚田)が問題と感じたのは、単なる数値設定のミスではありません。全滅に到る過程がアンフェアであったこと、DMの不手際によって全滅の可能性が大きく上がってしまったことこそが問題なのです。

     そもそも我々が再現しようとした原作『D&Dミスタラ英雄戦記』のレッド・ドラゴンは、ゲームの進行上は戦う必然性のない相手であり、数値だけ見ればラスボスよりも強い“隠しボス”的なモンスターです。従って我々が作成したドラゴンのデータも、D&D4版の標準的なモンスターに比べて攻撃力が著しく高くなっており、無策で挑めば全滅の可能性はかなり高いものと見積もられていました。

     そう、“無策なら”です。プレイヤーたちに策を講じる余地が無い、あるいは策を講じる必要があると気づかせないようなマスタリングこそが失敗の源だったと、我々は考えています。以下、どうすればDMが想定したとおりにレッド・ドラゴンとのスリルある戦闘を実現できたのか、現場の具体的な方法から事前の抽象的な対策へと順番に説明して行こうと思います。


    戦場の環境と初期配置
     あのドラゴンの最も注意すべき攻撃が即死級のダメージを与えるブレスであることは言うまでもないでしょう。しかし原作ゲームでは、岩の陰に隠れてやり過ごせばダメージを受けないという対処方法が用意されていました。ですから、TRPG版でも遮蔽を与えるような地形を設定するべきでした。D&D4版の遮蔽のルールでは、範囲攻撃は遮蔽物を回り込まないため、遮蔽物の直後にいなくても、攻撃者と自分の間に何らかの遮蔽物がありさえすれば敵の命中率を下げることができます。

     つまり、「原作を再現するなら、モンスターの強さだけじゃなくて戦場そのものを完全に再現しましょうよ」という話です。

     次に、ブレスのような範囲攻撃に対しては、なるべく分散して巻き込まれる人数を減らすというのが基本的かつ効果的な戦術です。しかし前回の戦闘では、戦闘開始時の初期配置が密集陣形であったため、イニシアチブで先行したドラゴンのブレスが見事パーティ全員を黒焦げにしてしまいました。イニシアチブはダイス運の問題なのでどうしようもないとしても、初期位置については分散配置を行なう機会を設けておけば良かったと考えています。このことについて、「プレイヤー側が散開したいと言えばよかったんじゃないか」という意見もあるでしょうが、それについては次節で述べます。


    マスターとプレイヤーとの信頼関係
     D&D4版の既製シナリオには、PCとモンスターの初期配置を記した戦場のマップがほぼ必ず載っており、シナリオの記述どおりに戦闘を行なうだけでも充分ゲームを楽しめるように作られています。もちろん、シナリオの設定よりも有利な状況で戦闘を始めるためにプレイヤーが頭をひねるのはたいへん良いことです。公式のシナリオでも、「初期配置はあくまでも1つの例に過ぎず、プレイヤーの行動にあわせて柔軟に対応すべし」といった記述があります。「敵の拠点に突入する前に偵察したいんだけど」といった意見が出せること、そしてマスターがそれに対応できることは、TRPGならではの柔軟性であり、大きな魅力と言えるでしょう。

     しかし今回のニコ生のようなセッションでは、時間制限などの関係で、このセッションでの戦闘はDM側から提示された状況・配置で戦闘を始めるものだという雰囲気がありました。すなわち、「プレイヤーは与えられた条件の範囲内で勝利を目指す」「DMはプレイヤー側が不利になりすぎるようなアンフェアな遭遇を作らない」という信頼関係があったからこそ、限られた時間の中でゲームを楽しめてきたわけです。

     この点を踏まえると、「今回の全滅はプレイヤーが事前準備を怠ったからでは?」という意見がやや性急であることもお分かりいただけると思います。プレイヤーが準備の必要性に気づかなかったのか、それとも「事前準備をしたいけど、時間も限られているから遠慮しておこう」という気遣いが仇になったのかは、プレイヤー本人以外には知りようのないことだからです。

     しかるに今回のDM柳田は、「今回の遭遇がいつもと違って事前準備が必要だよ」ということをはっきり伝え忘れ、結果的にプレイヤーたちに“不意討ち”を食らわせてしまったことになります。今回のドラゴンがD&D4版の基準を大幅に逸脱していることを考えればなおさらのこと、前回までの戦闘との違いを強調するべきでした。

     柳田が事前に「今回の敵はものすごく強いので、ふだんと違って戦闘が始まる前の準備に時間をかけてもかまいませんし、初期配置もよく考えた方がいいですよ」と言っておけば、今回のセッションはだいぶ違ったものとなっていたでしょう。


    原作再現について
     原作を再現する都合上、今回のドラゴンが非常に強力だったことは前の方でも述べました。しかし、そもそもD&D4版のゲーム・バランスを逸脱してまで原作を再現する必要があったのか、そのこだわりがゲームの楽しさにつながっていただろうかというのも、考える必要があります。

     言うまでもないことですが、原作再現を喜ぶのはその原作を知っており原作を愛している人だけです。今回で言うなら、それはつまり『D&Dミスタラ英雄戦記』でレッド・ドラゴンとの戦闘を楽しんだ人、さらには昔のD&D(いわゆる“赤箱”の時代)におけるドラゴンの理不尽なまでの強さに懐かしさを覚えている人などです。参加者全員がこれに該当するプレイヤーであれば、ドラゴンに対しては充分に準備を整えてから挑もうとしたでしょう。しかし、今回はこの確認が不十分でした。原作を知らない人にとっては、とても勝てそうにない敵が出てきて全滅しかけたというふうに受け止められてしまったかもしれません。


    “勝てそうにないほど強い敵”はアリか?
     ことTRPGにおいて、マスターはいくらでも敵を強くすることができます。9割がた全滅するような圧倒的な強さの敵に対し、知恵と力を尽くして五分五分の勝負に持ち込む(それでも5割は全滅するのですが)――そういった神経のヒリヒリするような状況を楽しめる人もいれば楽しめない人もいて、どちらが正しいということもありません。単なる向き不向きの問題です。参加者一同がどんなゲームを望んでいるのかを確かめておくことが一番大事でしょう。

     また、D&Dは全滅のありうるシビアなゲームだと思っている(そしてそれをD&Dの長所として語る)方が時おり見られますが、これはある意味で誤解です。全滅してもゲラゲラ笑いながら次のキャラクターを準備するような遊び方もあり、それもまた楽しいのですが、このニコ生配信では、回を重ねるにつれてキャラクター像が深まっていき、キャラクター間のやりとりが積み重なっていく、そういう“キャンペーンならではの楽しさ”もお見せしたいと考えていました。となると、PCの1人が死ぬだけならともかく、全滅でキャンペーンが唐突に終わるのはあまり好ましくありません。このコーナーの以前の回でも述べたとおり、「全滅するかもしれないというスリル」と「本当の全滅」はまったく別の話であって、後者は避けたいのです。今回本当の全滅を避けられたのはひとえにローズマリーのプレイヤーである瀬尾さんの機転によるところであり、DM側としてはたいへん感謝しています。

     以上、“やらかしてしまった”DM柳田とサブDM塚田から、世のDM諸氏が同じ轍を踏まないためのアドバイスをお送りしました。今回のコラムが皆様の楽しいゲーム体験に繋がれば幸いです。それでは、次回以降の配信もお楽しみに!


    『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』
    著:塚田与志也
    監修:柳田真坂樹
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