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スマホ時代の到来と
日本的ソーシャルゲームの展開
〜『ドラゴンコレクション』
『探検ドリランド』『神撃のバハムート』〜
(中川大地の現代ゲーム全史)
【毎月第2水曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.12.09 vol.468

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本日のメルマガでお届けするのは『中川大地の現代ゲーム全史』最新回。ついに2010年代に突入します。プロローグにあたる今回は、情報技術が世界を覆い尽くした状況を概観しつつ、スマートフォンを媒介としたソーシャルゲームの大発展時代を振り返ります。

第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(1)

▼執筆者プロフィール
中川大地(なかがわ・だいち)
1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。



■深化してゆく〈拡張現実の時代〉

 2010年代を〈拡張現実の時代〉の本格期と呼ぶに足る実感を、多くの人々にもたらしたのが、スマートフォン普及の本格化であった。前章で述べたように、これは2007年のiPhone登場を嚆矢に、グーグルが開発した汎用OSであるAndroidを搭載した機器が登場して二大陣営を形成することで、様々な機種を擁する一般的なカテゴリーとしての成立を見るに至った結果の出来事だ。その世界的な潮流は、「ガラパゴスケータイ(ガラケー)」という蔑称さえフラットに定着してしまった国産フィーチャーフォンのシェアを、急速な勢いで置き換えていくことになる。
 その使用感はもはや「電話」のそれではなく、インターネット端末としてのパソコンの役割をほとんどカバーすると同時に、携帯型ゲーム機が追求してきたタッチパネル式の操作系や、GPSと連動して自らの位置情報がリアルタイムに把捉される機能など、現実空間におけるユーザーの視聴触覚的な認知が拡張されていく経験を、広範な層に提供するものだったと言える。手帳や地図、時刻表に文庫本、カメラや音楽プレイヤー、それにゲーム機と、およそ現代人が外出先で必要とするであろう、あらゆるタイプの実用的・娯楽的なコンテンツの享受方法が手元の小さなデバイスに統合・ネットワーキングされたことで、人々の日常の時間と空間、そしてお金の使い方が大きく変化していったのである。

 様々な生活シーンに密着した機器が登場したことで、グーグルやアップルをはじめとする巨大プラットフォーマーや行政機関が、人々のネット上での検索履歴や消費行動など日々生成されるライフログを中心にした「ビッグデータ」を容易に収集することが可能になり、その解析を通じた新サービスやAIの開発、統治の効率化といった応用が進むことへの期待と不安が取り沙汰されるようになる。
 より先端的なテクノロジーの領域では、汎用的なヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」や、スマホのコンセプトをさらにウェアラブル化したデジタル眼鏡「Google Glass」のような、VR・ARのコンセプトを直截に具現化する民生プロダクトが登場。さらには、可塑性の高い樹脂素材などによって3DCGデータを物体化する3Dプリンターのような技術が次代のイノベーションをもたらす「IoT:Internet of Things(モノのインターネット)」の象徴として注目されるなど、デジタル世界と現実空間との垣根を引き下げる事象が注目され始めたことも、いよいよ〈拡張現実の時代〉が深化していく指標に数えられよう。

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 こうした情報環境下で顕著になっていったのが、「コンテンツ消費からコミュニケーション消費へ」という動向だ。音楽や書籍、映画といったエンターテインメント作品の流通経路や摂取手段が、もはやジャンルを問わずにパッケージメディアから解放されてネットに移行し、スマホやパソコン、ないしスマートテレビ等で気軽に受容できるようになったことは、前時代における文化愛好者の夢の実現であるはずだった。
 しかしながら、ビジネスの現場で実際に起こったことは、各コンテンツの接触体験が基本的に無料で摂取可能なSNSや動画サイト等と並置されるようになったことで、それらのコミュニケーションに費やされる可処分時間の競合に晒され、かえってユーザーの財布の紐が堅くなるという事態であった。ウェブ2.0的なデジタルメディアの双方向化が行き着いた結果、プロのエンターテイナーが一斉供給する拘束時間が長く完結性の高い「作品」よりも、アマチュア同士が刹那に交換する個別的なメッセージやちょっとしたUGCを共有する「体験」の方が、より時間を費やす価値のある体験として選好されるようになっていったのである。

 同様の傾向は、ソーシャルメディアの土俵内における支配的なプラットフォームの変遷という局面においても見出すことができる。例えば2000年代後半に隆盛したmixiのような蓄積型の日記コンテンツと相互承認式のコミュニティ形成をベースにしたSNSは、運営サイドによる仕様変更の迷走もあって、2010年代には廃れていく。かわりに140文字制限式のミニブログをユーザー同士が一方的にフォローしあうTwitterや、「いいね!」ボタンによる気軽な共感表明が可能なFacebookといった、より刹那的でライトな交流手段を持つフロー型SNSが国内でも台頭。
 多くの国産サービスはiモードなどのケータイ特化型のインターネット利用形態に適応しすぎていたため、スマホ対応がいまいちこなれなかった。対して海外サービスの方は、もともと世界標準のPC用インターネットをそのまま利用する前提のスマホにおいても完成度の高いクライアントアプリを早期にリリースすることができた。デバイスハードの移行が、そのまま支配的なサービスの移行をも帰結したわけである。

 そして、このようなきめ細かなコミュニケーション環境の確立は、国内外における人々の社会レベルの現実的事象との関わり方を、良くも悪くも左右していくことになる。
 スマートデバイスやソーシャルメディアによる個人の情報発信力の拡大は、元をたどれば第2章に述べたように1960年代のアメリカ東西両海岸におけるハッカーたちの反体制的な社会変革のマインドが、スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグといったイノベーターたちのパーソナリティを介して具現化したものに他ならないが、その直接的な継承者として名を馳せたのがジュリアン・アサンジ率いる情報リーク運動「ウィキリークス」や、仮面姿の匿名ハッカー集団「アノニマス」といったハクティビズムのムーブメントであった。時には非合法的なハッキング手段に訴えてでも国家機関や大資本に巣くう腐敗を詳らかにし、サイバー攻撃で懲らしめようというのが、その正義感の内実だ。
 彼らの活動は欧米先進国型の形態と言えるが、アフリカや中東、アジアの途上国における「ジャスミン革命」や「アラブの春」といった民主化要求運動における大衆動員のツールとしてもソーシャルメディアの役割が注目され、半世紀前の〈夢の時代〉における世界的なカウンターカルチャーの隆盛を彷彿とさせるような同時代性さえ醸成されていく。
 しかしながら、リベラルな理念先行だった〈夢の時代〉のハッカーマインドとは異なり、ソーシャルメディアの普及と活用が単に人間の生々しい現実と結託する価値中立的な道具となっている〈拡張現実の時代〉にあっては、母体である欧米的価値とは、まるで相容れないベクトルへの動員に使われることもままあった。その最大の鬼子が、アメリカによるイラク戦争の矛盾が生んだイスラム原理主義勢力「イスラム国」のような存在であろうことは論を待つまい。

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 このような功罪両面を持った「動員の革命」は、日本にあっても大きな変動をもたらしていく。転機となったのが、戦後最大の天災となった2011年3月11日の東日本大震災と、それによってもたらされた福島第一原発の深刻な事故であった。発生当時、東北から関東にかけてのインフラが広範に麻痺する中、様々なデマや風評といったノイズを伴いながらも、被災者救助などに携帯情報端末やSNSが概ね有効に機能したという経験や、脱原発運動を皮切りに久しく日本では沈静化していた大規模デモなどの社会運動が復活を遂げたりと、世界的動向に同期するソーシャルメディアの政治社会的動員が顕在化したのである。


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