むかーし、昔のそのむかし。

年間100ステージ以上に出演し、多忙な日々を送っていた青春真っ盛りのミュージシャンが居た。

スポットライトに照らされて、ファンが集まる満員のステージに!
・・・なんてのは、ほんの数えるほど。
中には信じられない場所での演奏や、奇々怪々な現場も数多くあった。

この連載では、
その若かったミュージシャンが、30年以上経った今でも忘れられない、ある意味『伝説』となったステージの数々を紹介しよう!


■伝説のステージ No.003
『前座が・・・あの・・・』の巻

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ある営業でのステージの話しである。
またしても記憶が曖昧ではあるが、関東の某ターミナル駅前に出来たレコード店の新装開店を祝うイベントでの出来事だったと思う。
1階と2階がレコード(CDではなくアナログレコード)や楽譜、音楽関連書籍の売り場で、3階が多目的ホールになっている、結構、大きな店舗だった。

その日の出演は3組。そう聞いていた。
トリは「ばんばひろふみ」。
「いちご白書をもう一度」が大ヒットした、あの「ばんばん」だ。
※「SACHIKO」の方が有名かもしれない。

そしては我々は、ばんばんの前に演奏する事が決まっていた。
という事は、俺らの前、つまり、俺らの前座をやるバンドがいるという事になる。
気づいていた。それが新人の女性アイドルだって事に!
等身大のホットパンツ姿(だったような・・・)のパネルが飾ってあって、今日の日付と時間の案内が書かれた紙が貼られていたのだから、誰でも察しがつく。

時は1980年、松田聖子が鮮烈なデビューをし、シンガーソングライター中心のヒットチャートに女性アイドル復活の狼煙をあげた。
多分、この話もその1980年の事だったと思う。
俺らの前にステージに上るのは、その年にデビューした「柏原芳恵」だった!

そう!
皇太子がファンだと公言した柏原芳恵!
榊原郁恵と名前がややこしい柏原芳恵!
♪春なのにー お別れですかー の柏原芳恵!

我々もデビューは決まっていたが、この時点ではデビュー前のあくまでアマチュア。
芸能界で言えば柏原芳恵の方が先輩である。
なのに、バンバンの前座であるアマチュアの、そのまた前座が新人アイドルって、どうよ?
でも、最初に思ったのは前座がうんぬんよりも、アイドルに会える、しかも、やりようによってはかなり至近距離で!

実はこの時、俺は柏原芳恵というアイドルを知らなかった。
確か歌ったのはデビュー曲の「No.1」。
♪あなたは No.1 あなたはNo.1 てな歌だった。
かわいかった!!!
と・・・思う・・・正直、覚えていない。
バンバンは強烈に覚えているのに、肝心な柏原よしえ(当時はひらがな表記)を覚えていない。
もしかしたら・・・。

後日、ネタで話す時は必ず、俺らの前座で柏原よしえが!
って事を自慢気に話して来たが、現場の状況から察するに、第一部「柏原よしえ アイドルショー」、第二部「ばんばひろふみ DJショー」で、客層が違うので客を入れ替えてる間に、俺らってのが多分、正解。

俺らのリハが終わって、一旦解散して、何時に楽屋集合とかだったと思うので、その間に柏原よしえがリハ&本番。
その本番中に俺らは楽屋入り。
アイドルショー終了で俺らが登場。
その間に柏原よしえは帰っていった。
この流れなら、俺らは本人を見てない可能性がある。
バンバンは俺らの後だから、舞台袖で見た記憶があるのに、柏原よしえの記憶が無いのはこういう事なのではないかと。
・・・もったいない。
一旦解散と言われて素直に飯でも食いに行って、アイドルを間近で見られる大チャンスを逃すとは!
つくづく、もったいない!

ちなみに、
ばんばんはステージに机を置いて、ディスクジョッキー風に喋って、曲はレコードを流すのみというミュージシャンとしては「どうなの?」的な演出。
当時、ラジオの深夜放送で人気だったからなのだろうが、
『それでは、ばんばひろふみ で 「SACHIKO」』 (レコードが流れる)
その間、ばんばんは台本を確認している。
その様を客が見ている、てな、変なステージだった。
公開ラジオ番組ぽい見栄えだが、放送はしてないのだから、俺ならとても耐えられない。

『人のことはいい。
 お前らはどうだったんだ?』
いま、そう思った人が多そうなので、書いておくが、
これがまた、全然、覚えてないんだな。
本当に客の入れ替えで歌っていたんなら、かなりやりにくステージだったはず。
ばんばん目当てに来た客が会場に入ると、なんだか知らない人達が歌っていて、どうもこれが終わったら、ばんばんが始まるみたいよ的な中でのステージだったように・・・。

今回のこのネタ、考えてみればシチュエーションとばんばんのDJ風演出しか覚えていない。
本来なら記事にする程の中身はないわけで、ただ、ばんばんと柏原よしえという有名人の名前を出したかっただけ。
まあ、そんなやつです。俺は。

【思い出した!】
これを書き終わって、あれこれ考えていたら、柏原よしえのステージを思い出した。
つまり、見ている、多分。
黄色だったか、明るい系の衣装を着て、まだ持ち歌がデビューシングル両面の2曲しかなくて、何度もA面の「No.1」を歌っていたような、そんな光景が浮かぶ。
あとは「楽屋を抜け出して、見に行こうぜ」的な会話をメンバー間でしたような、かすかな記憶。

人間の記憶って、この程度なんだな。
あんなに熱かったあの時代の事を、ここまで忘れているとは。
まあ、曖昧な所は都合よく補足して、俺ら凄いだろう的な方向でこれからも話して行くって事で、よろしく!