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山田玲司のヤングサンデー 第365号 2021/10/25

「ひどい絵」が描ける場所

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1人でアトリエにこもって絵を描いていると、とんでもなく「ひどい絵」が出来てしまう時がある。


今描いているのはキャンバスの16号前後の大きさの絵が多い。

これはちょうど美大の予備校で描かされていたサイズのキャンバスとほぼ同じ大きさだ。


その「ひどい絵」を眺めながら僕は思う。


「あの時の美術予備校のアトリエでこんなものを描けただろうか?」


美術予備校は多浪生も多く、とてつもなく絵の上手い人達がいる場所だ。


しかも数カ月後には本試験が待っている。

「ひどい絵」など描いている場合ではないのだ。



【正解が現れるアトリエ】


そんな美術予備校のアトリエには時々「正解」を描く人が現れる。


本質的にそれが美術の正解かどうかはともかく、そこにいる誰の絵よりも「上手く見えるテクニック」を披露する人が描いた絵が「その場の正解」とされるのだ。


先生も「こういうのを見習いなさい」とか言うし、生徒もそれが正しいと思い込むので、またたく間にアトリエは「正解の絵に似たもの」ばかりになっていく。



【新美風、ムサビ風】


そんなわけで美術予備校には、その学校伝統の「画風」が生まれる。


ある生徒が描いたテクニックが流行り、その作品が「参考作品」として展示され、新入生はそれを「わかりやすい正解」と思って真似をする。


この国の教育を受けていると「好きに描け」と言われるより「このように描け」と言われたい人が増える。


僕が予備生だった頃にも「あの人の絵は新美っぽいよね」とか言っていた。

「新美」とは新宿美術学院という老舗の美術予備校で、その他にも「どばた風」「お茶美風」など、それぞれの美術予備校らしい画風があった・・・と、当時は聞いていた。


美大の方も「その学校に合う画風」があるとされ、例えば武蔵野美術大学には「ムサビ風」の絵が描けないと入れない、とか言われていたものです。



どうにも僕は「そういうノリ」が馴染めなくて困った。

本来「正解」などはなく「好きに描ける」から好きになった「美術」なのに、ここでは「お手本通り」の技術比べをしなければいけないのだ。


上手い人が描いていると、その絵が見える場所の人達の絵は「その人の絵に似たような感じ」になっていく。



描いているのは「その場の空気」であり、その中にいる「正解」とされた人の絵が「みんなの絵」を同じものに変えていく。





今週のヤンサンは朝井リョウの特集。


「桐島、部活やめるってよ」をはじめ、僕が朝井リョウ作品を読んでいると感じるのは「その時の気分」だった。

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【合格者の戸惑い】


運良く美大に入れた人達は入学してから再び戸惑う事になる。