本プログラムの発表について以下にご紹介します。
(1)食品添加物の有用性の研究
私たちは,さまざまな食品を,収穫される時期とは関係なく,いつでも好きなときに食べることができます。この豊かな暮らしを支える科学技術が食品の保存性を向上させる食品添加物である食品保存料です。しかし,私たちの生活が豊かになればなるほど,私たちの生活を支える食品保存料は悪者にされていきました。最近では,食品保存料を使わないことが食品にとってのステータスになってきています。一方で,食品保存料を使わないことによる問題,つまり微生物汚染による食中毒の問題はかたられることはありません。また,現在,日本は食糧自給率が約40%と低いのに,食品の廃棄が多いことが問題になっています。食品の廃棄を減らすためには食品の保存性を高める必要があり,安全な食品の保存性向上のためには,適切な食品保存料の使用が必要になるのです。そこで私たちは,食品保存料が腐敗を遅らせる作用についてわかりやすく調べる方法の研究を計画しました。本研究で用いた食品保存料および日持向上剤は株式会社ウエノフードテクノから提供を受けました。
図1 食品添加物チーム発表
(2)植物工場で利用できる植物の栽培法の研究
2050年には90億人にもなり,いまより1.3倍も増えると言われる世界の人々の食糧を生産するためには,いまより1.3倍以上の農地が必要になります。しかし,農地を増やせば自然環境は破壊され,また少ない水資源の争奪戦が始まります。そして,農業は大変な仕事なので,世界的になりたい人が少なくなっています。しかし,もし食糧を必要とする場所の近くで,簡単に育てることができれば問題は解決します。その解決方法のひとつが植物工場です。そこで私たちは,植物工場で利用できる栽培方法の研究を計画しました。そのための基礎的な研究としてスプラウトに注目し,スプラウトを短期間で大きく成長させる,光と培地について研究しました[1]。
[1] 九州沖縄農研機構,第4回植物工場研修会(スプラウト)テキスト,2015 .
図2 植物チーム発表
(3)酢酸菌の培養と発酵能評価
酢酸菌は,アルコールを酢酸に発酵する菌であり,食酢の製造などに利用されていて,私たちにもなじみがある菌です[2]。しかし,じつは酢酸菌は形質が変わりやすいなどの特徴を持っているため,学術的にはあまり研究されていない菌のひとつでもあります。そこで私たちは,身近に手に入る酢酸菌を使って,酢酸菌を簡単に培養する方法の検討と,酢酸発酵の能力を研究することを計画しました。酢酸菌として注目したのは,コンブチャとよばれる酢酸菌の塊です。この塊を使って,安定した培養の方法と酢酸発酵の能力を研究しました。
[2]外内尚人,「酢酸菌利用の歴史と食文化」,日本乳酸菌学会誌,Vol. 26 No. 1 p. 6-13, (2015).
発表時間の1時間,高校生や先生方が途切れることなく,発表を聞きに来てくださいました。多くの方に興味を持っていただき,また質疑応答を通して,発表者は意欲を高めたようです。自分の研究をまったく知らない,新鮮な気持ちで受け止めてくれる人たちとのコミュニケーションは,科学研究への理解を深める機会であり,また新しい発見につながる機会でもあります。受講生の今後の活躍が期待されます。
図4 終わってほっと一息
科学や研究は好きだけど,こうした場で「自分の口で」多くの人と研究についてディスカッションしたことがない人は,ぜひ積極的に発表してみましょう。学会に出て行く重要性はこれまでのコラムでご紹介しています。
日本化学会や日本科学教育学会,日本理科教育学会,そして各地の科学博物館など,多くの場所で,こうした研究成果発表の場は与えられています。あなたがあなたの限界を超えて成長するためには,広い世界に羽ばたく必要があります。
最後に,小中学生の研究にご助力をいただいている株式会社ウエノフードテクノ様,研究のアドバイスをいただいた農研機構九州沖縄農業センター様に深く感謝致します。
追記:2016年11月28日
株式会社ウエノフードテクノ様の表記に誤りがあり,修正しました。