【1】私たちのこれまでの活動の紹介
児童・生徒が,科学イノベーション挑戦講座で,これまで行ってきた内容と自分たちの研究について,おもしろ理科教室の参加生徒23名と松山市中学校理科主任会の先生8名,松山市教育委員会の先生1名に報告しました。香りの分子からはじまって,デンプンの加水分解,分子のイメージ,無細胞タンパク合成システム,自由落下,化学発光,都市鉱山リサイクルなど,さまざまな内容に挑戦してきました。
デンプンの加水分解では,高校生と一緒の活動で,実験計画や実験操作などをしっかりとやらなければならず,条件の制御に苦労しました。 分子のイメージでは,図として描かれる分子の立体的な構造を考え,またそれを理解するために本研究室で開発した「スーパーボール分子模型」の作成をしました。いずれも児童・生徒にとって,つよく印象に残り,科学者としての将来像を描く切欠になったようです。
図1 ノーベル医学生理学賞を受賞された大村先生を目指して研究を進めています
【2】実際に講座を体験しよう
百聞は一見にしかずです。おもしろ理科教室の参加生徒に,実際に本プログラムの講座の一部を体験してもらいました。内容は第4回「分子をイメージしよう」から抜粋しています。実施は,大橋准教授が担当し,プログラムの児童・生徒は1人2〜3班の指導補佐をする先生役として,自分たちが学んできたことを中学生に還元しました。本内容ではWavefunction社の化学教育アプリWaterを利用しています。
私たちの身のまわりには,さまざまな物質があります。いま,みなさんがこのブロマガを見るのに使っているスマホやPCは,ガラスやプラスチック,液晶などさまざまな部品でつくられています。そして,それぞれの部品はちがった性質をもっています。
なぜそれぞれの部品はちがった性質をもつのでしょうか?
これを理解するためには,原子や分子について知らなければなりません。なぜなら,すべての物質は原子や分子でできているからです。そして,私たちの目には見えない,この原子や分子の性質が物質の性質を決めているからです。そこで,Waterを使って,私たちにもっとも身近な分子『水』を題材に考えてみました。
図2 小学生が学んで中学生の先生に!
図3 中学生が中学生に先生役として学んだことを教える
自分たちが学んできたことを,キビキビと内容を解説するプログラム受講生に松山市中学校理科主任会の先生方もびっくりされていました。
【3】教える経験の重要性
ここで確認しておきましょう。科学についてたくさんのことを知っている人を,みなさんは「化学が得意な人」だと思うことでしょう。しかし,それは「ほんとうの意味で」知っているのでしょうか?
「覚えている」ことと「知っている」ことには大きなちがいがあるのです。たとえば,みなさんは「コップに入れた水に氷をいれるとどうなるか」はよく知っています。しかし,それを中学校第1学年の粒子モデルで表すことができるでしょうか?
図4 どちらが水と氷の正しい粒子モデルなのだろう?
また,水に物質が溶けるかどうかを,このモデルで説明するとどうなるでしょうか?
溶けた物質をふたたび結晶にする再結晶は,このモデルで説明するとどうなるでしょうか?
再結晶のとき,大きな結晶を成長させるのか,細かい沈殿が落ちてくるのかは,このモデルで説明するとどうなるでしょうか?
図5 自分たちで作った分子模型をつかって水の三態変化を表そう!
(どの画像が,氷・水・水蒸気なのでしょうか?)
教科書の図を覚えることに意味はありません。教科書の図は「なに」を意味しているのかというイメージが重要です。しかし,ふだんの生活では,このちがいを意識することはむずかしいでしょう。なぜなら,あなたは知っていると「思っている」のですから。このちがいを意識することができるのが,他人に教えるときなのです。とくに知識のない人に教えるためには,その人にわかるように自分自身の考えを整理しなければなりません。
図6 教えることで自分も学ぶ
これは,かなりむずかしいことなのです。自分の考えを説明するためには,あいまいな部分があってはいけません。そして,相手とコミュニケーションして,相手のイメージを聞き出して,相手のイメージと自分のイメージを合わせなくてはいけません。だからこそ,教える経験は,自分自身にとって考えを整理して理解を深める良い機会です。そうです。学会などで発表する理由は,ここにもあるのです。他人と話すことで,あなたはあなたの理解を深めることができるのです。そして,他人もあなたと話すことで理解を深めることができるのです。これはすばらしいことだと思いませんか?
科学者は孤独な変人であってはならないのです。