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2012年最後、めるまがアゴラちゃんねる、第024号をお届けします。
次号、2013年1月6日発行予定号は新年のため、お休みさせていただきます。
その代わり、ジャーナリスト新清士氏の連載「ゲーム産業の興亡」今号はボリューム満点です。
2013年の最初の号は1月13日より発行します。
今年はご愛読ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
コンテンツ
・ゲーム産業の興亡(34)
【特別篇】ソーシャルゲームに高額課金するユーザーはなぜ生まれるか?
・『世界金融バブル 宴の後の二日酔い』藤沢数希氏×池田信夫
第五章 日本の財政破綻で儲ける方法
アゴラは一般からも広く投稿を募集しています。多くの一般投稿者が、毎日のように原稿を送ってきています。掲載される原稿も多くなってきました。当サイト掲載後なら、ご自身のブログなどとの二重投稿もかまいません。投稿希望の方は、テキストファイルを添付し、システム管理者まで電子メールでお送りください。ユニークで鋭い視点の原稿をお待ちしています http://bit.ly/za3N4I
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特別寄稿:
新 清士
ゲーム・ジャーナリスト
ゲーム産業の興亡(34)
【特別篇】ソーシャルゲームに高額課金するユーザーはなぜ生まれるか?
今週は、「オープンビジネスモデル」が、なぜ「クローズドなオープンビジネスモデル」が有利になるのかという点に歩を進めるつもりだったが、25日に投稿したビジネスファミ通ブログへの反響が大きかったので、お読み頂いている方に、先取りしてソーシャルゲームの話を踏み込んでご紹介しておきたい。ソーシャルゲームで高課金するユーザーが出る最大の理由は「機会(時間)への損失」を感じるか否かである。合わせてお読み頂きたい。
ビジネスファミ通ブログ
ソシャゲへの反感はワインの方程式が生んだ反感と同じ─ゲームと心理学(2)
http://www.famitsu.com/guc/blog/shin/12191.html
■アイテム課金は「アバター」から「武器」「回復アイテム」に広がった
ソーシャルゲームは、無料でゲームを遊びはじめることができるフリーミアムモデルを取ることによって、これまでの家庭用ゲーム機では考えられないほどの数多くの幅の広いユーザーを獲得でき、それから少額決済のアイテム課金を通じて、収益を上げられる点にある。それらの環境が整ってきたのが2000年代の後半で、その頃に誕生したサービスが、情報が伝わる速度がはるかに加速化しているインターネットによって、一気に広がっていった。
これまでのゲームは、ユーザーがパッケージを一度購入した場合には、ゲーム内で提供されているコンテンツには、基本的にはアクセスできる権利を取得していた。実際には、ゲームには制約が存在しているため、すべてのコンテンツにアクセスできるわけではない可能性が高いのだが、潜在的にアクセスできる権利を購入していたと言ってよい。少なくともユーザーはそう考えている。
一方で、ソーシャルゲームは、オンラインゲームとも違っている。元々のアイテム課金が韓国から登場した際には、「アバター」への服装といった着せ替えの要素を販売するという形で登場してきたが、それに対してお金を支払うユーザーの一人あたりの支払額(ARPU)は決して高いとは言えなかった。そして、基本的にはコミュニティ内の自己承認欲求を満たすモノだった。
お金を払いアバターを豪華に飾ることで、バーチャルな世界であっても、そのゲーム内では社会的な立場が高まった(この傾向が、実際にリアルな人格の自信に対しても、影響を与えることはスタンフォード大学の研究で確認されている)。
それが、韓国のMMORPG(大規模マルチプレイヤーオンラインRPG)に使われるようになり、「アバター」は見かけだけではなくゲーム内での強さを現す「武器」と、ゲーム内で強敵を倒す際に必要となるキャラクターのライフを回復させるための「回復アイテム」へと広がっていった。
MMORPGは、06年頃には一斉に大半のゲームが、アイテム課金型モデルに移行し、月額課金モデルを維持できるゲームは初期に参入して固定ユーザーを確保しているゲームに限られるようになった。日本でいえば「ファイナルファンタジーXI」、韓国では「リネージュ」、欧米では「World of Warcraft」といったゲームが代表的な存在だ。そうしたごく一部のゲームをのぞくと、現在は大半のゲームがアイテム課金で運用されている。
■MMORPGでは「回復アイテム」の売り上げが中心
アイテム課金型のゲームの運用では「回復アイテム」によって収益を上げることが基本で、ゲームを進める上で強力なモンスターと戦ったり、ユーザー間のグループが戦ったりする際に、大量に消費させるようにバランスに調整が取られている。
多くがグループによって争うことになるが、それぞれのキャラクターにはゲーム内での強さには差があるため、チームが勝つために「回復アイテム」を積極的に使うように推奨され、それが大きな収益源になっている。もちろん、ゲームの展開を速くしたい、レベルアップのペースを速めたいと考えているユーザーも「回復アイテム」を積極的に使う。
MMORPGの世界は、ゲーム会社が中央銀行の役割を果たすとも言えるため、それらの「回復アイテム」などの供給量のバランスを見ながら運用されているが、マクロ経済の概念が入り込んでいる特徴がある。収益のバランスとして、「回復アイテム」が6割、「アバターや武器」が4割というのが一般的にいわれている金額だ。
ただ、無料で遊んでいるユーザーは、時間さえ掛ければ、課金しているユーザーに追いつくことは不可能ではなかった。そのためには膨大な時間が必要だが、課金しないで、深くコミットするユーザーほど、時間によって不足分を補うために、ゲームの仮想空間にログインを続ける時間が長くなる傾向が強い。「マイナス」を時間によって「プラス」にしようとするのは、課金をしないユーザーだ。
それは、MMORPGによって生活リズムが崩れるといった、オンラインゲーム依存症といったものを引き起こしている原因だと、特に韓国では考えられている。ただし、ゲームから切り離し、生活リズムの改善を図れば、かなり回服するということも確認されているため「依存症」とまで、呼べるかどうかには議論がある。
MMORPGでは、このように「時間」も商品になっていたのだが、ゲームを速く進めるためという側面が強かった。単純化していうと、アイテムを購入することで、ゲーム内での存在価値が「プラス」にするために使われたのだ。
■ガチャによる「機会損失」が収益源へと変わる時代に
一方で、ソーシャルゲームの場合には、「時間」が逆の意味で、最大の収益源になった。もう少し詳しく述べるならば、「機会(時間)損失」になるようにゲームが設計されることで、意味が変化した。時間を「マイナス」の要素へと転換したのだ。これはソーシャルゲームの最大の発見ともいえ、また、ソーシャルゲームが何か怪しげなことをしているのではないかと社会的に批判をされやすい原因の一つである。
ソーシャルゲームでは一般的に、MMORPGと同じように、ゲームを進める上で「ライフ」という概念があり、ゲームを進めると減少していく。ポイントは、それが一定量遊ぶとゼロになり、ライフが回復するためには、規定の待ち時間が存在する。
ゲーム内でキャラクターがレベルアップするにつれて、その待ち時間は増大し、数時間に達するようになる。その時間を縮小するために「回復アイテム」が利用される。その点では、MMORPGと変わらない。
そこに、日本特有な形で発展してきた「ガチャ」と呼ばれるランダムでゲーム内での特定の効力を持ったカードを手に入れる事ができる仕組みが一般化したことで状況が変わった。1回300円程度のガチャ課金しなければ、「レアカード」と呼ばれるカードを手に入れる事ができず、すでに単なるデータにも関わらず「資産化」と感じるユーザーが増加していたことで、そのカードには「希少性」が発生するようになったためだ。
ソーシャルゲームはMMORPGよりも、よりゲーム内容はシンプルであることが多い。特に日本の場合には、ガラパゴス携帯から登場してきたという経緯もあるため、ハードウェア性能が限られるなかで、ゲームが展開されたためだ。
100円程度の相場が一般的な「回復アイテム」を購入すれば、ゲームを進めることができる。さらに、300円の「ガチャ」を回せば、通常のゲームプレイでは決して手に入れる事ができない「超レアカード」を手に入れられる可能性が生まれる。一般的には「回復アイテム」と「超レアカード」の組み合わせによって、ゲームを進めるようになっていることが多い。
2011年には、「ガチャ」システムの収益性の高さが広く知られるようになった。ユーザーはゲームを進めることよりも、「超レアカード」の希少性に、多額のお金を払うユーザーが登場するようになった。そのため、多くのゲームが収益の主軸をそちらにスライドさせた。現在、「回復アイテム」と「ガチャ」の売り上げ比率は、3対7から、2対8といわれており、MMORPGと構成比率は大きく違う。
最も希少性の高く、手に入れられる確率が小さい超レアカードは、期間限定でしか手に入らない形で提供されることが多い。1ヶ月程度の期間内に手に入れる事ができなければ、手に入らないようにゲームが設計されている。
超レアカードを手に入れるためには、数万円使わなければ難しいというのが、一般的なガチャシステムを持つゲーム内の相場感だ。ポイントは「機会損失」に対して敏感であるユーザーが、毎月数万円といった単位の重課金ユーザーとなっている可能性が高いという点だ。
■売り上げの多くをアクティブユーザーの10%が担う
12年8月に、ジャストシステムがインターネット調査で、日本のソーシャルゲームの課金ユーザーがどれくらいの比率でどれぐらいの金額を使っているのかという調査を明らかにしている。どのソーシャルゲーム会社でも、こうしたデータは、最も表に出したくないデータでなかなか表に出てこない。
ジャストシステムのデータも、アンケートに答えたユーザーが何のゲームを遊んでいるによって、相当比率が違っていると考えられるため、実際にはゲームより相当ばらつきが存在しており、実態とはズレがあると考えた方がよいと思われるが。ただ、現状信頼できるデータが限られるため、このデータを利用して、仮想のゲームのユーザーの分布から、ソーシャルゲームの特徴を見てみたい。
まず、アクティブに遊んでいるユーザーを10万人と仮定する。これはゲームによってばらつきがあるものの、ヒットしているゲームは登録ユーザーの10分の1程度が、アクティブユーザーになっている場合が多いとされる。
一度ダウンロードして、翌日以降も遊んでくれるユーザーは5割以下といわれており、ソーシャルゲームは常に新規ユーザーを獲得し続けなければならない。また、課金ユーザーは、月のアクティブユーザー(MAU)の5%前後というのが一般的にいわれている金額だ。
そのため、登録ユーザーは100万人で、MAUは10万人と仮定する。実際には、これほどのユーザー数を集められるゲームは稀なので、かなりのヒットタイトルの部類に入る。それから、議論をシンプルにするため、課金金額分類の上限金額で計算する(上位2%のユーザーだけ下限で計算)。
課金金額 ユーザーの割合 ユーザーの人数 売上金額
月額 0円〜1000円以内 55% 5万5300人 5530万円
月額 1000円〜5000円以内 35% 3万4500人 1億7250万円
月額 1万円〜3万円以内 8% 7900人 7900万円
月額 3万円以上 2% 2300人 6900万円
月の売上合計 3億7580万円
一人あたり平均金額は3758円、中央値は2300円。
実際には、0円〜1000円以内の55%、1000〜5000円以内の33%ユーザーの売り上げは想定より小さく、上位2%のユーザーの売り上げはもう少し金額が大きいものと思われる。この仮定は数字を変えるだけで、簡単に変化してしまうという問題があるが。さらに仮定を重ね、上位2%ユーザーの月次の利用金額平均が5万円だとすると、1億6000万円にも達してしまう。
逆に、55%のユーザーの平均が500円とすると、2500万円になるので、人数の割に収益性が低いことが理解できると思う。1万円以上の多額に使うユーザーをどれだけ得ることができるかが、ソーシャルゲームが高い収益性を上げられるかどうかを決める重要な要因となっていることを理解して頂けるのではと思う。
■1枚数万円とカードと数百円のカードの溝
では、高額課金のユーザーは、なぜそれほどの課金を積極的に行うのだろうか。多くがガチャによって手に入る「超レアカード」を手に入れるために、数万円使っていることが多い。ソーシャルゲームは、今年、自主規制ルールなどによって、ゲーム内にユーザー間のトレードの仕組みを持つゲームが増えた。そのため、それぞれのカードの相場も見えるようになった。
交換には、回復アイテムを利用することが一般的で、事実上の仮想通貨になっている。大体1回復アイテムは80〜100円というところだ。
例えば、「アイドルマスターシンデレラガールズ」で、現在行われている最新の「清純令嬢ガチャ」で手に入る「超レアカード」には、ユーザー間で交換しようとした場合、回復アイテム750の価格設定がなされている。
そのため、7万5000円相当(金額は購入のセット割引によって違う。ここではシンプルにするために100円と考える)の価格がこのカードには付けられている。さらに同じカードと組み合わせることで、「超超レアカード」を手に入れられるが、単純に考えると15万円という価格という計算になる。
もちろん、相場は変動し、カードを獲得したユーザーが増加するに従って安くなっていくが、それでも過去の超レアカードには2〜10万円相当の価格が付いていることが少なくない。一方で、低い課金ユーザーが容易に手に入れやすいカードは、100〜500円相当で取引されていることが多く、ガチャを頻繁に利用する課金ユーザーとの間には巨大なキャズム(溝)が存在する。
■「痛み」にフォーカスを当てることで生まれる高課金ユーザー
高課金ユーザーが高い課金をする理由は、規定の「期間(時間)」内に、超レアカードを入れられなかったという「機会損失」への「痛み」を大きく感じていると考えられる。人間は、何かを損失した方に、得た喜びよりも、敏感に反応する。ノーベル経済学賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマンは、それを実験によって証明したが、非常に単純化して述べると、「5の損」で得る痛みの感覚は、「1の得」で得る喜びの感覚と変わらないほどの差がある。
大半のソーシャルゲームは、ゲームの展開は、待ち時間が長いが長期的に遊び続けていくと、全体的にはユーザーの強さは増加しかしない。つまり、ゲームシステムは長期でみると「プラス」になる要因しかないようになっている。
また、手持ちのカードも増加し続け、他のユーザーに奪われたりすることで減る要素も基本的にない。そのため、無料から低価格の課金しかしないユーザーは超レアなカードを手に入れられないという「機会損失」に、大きく注意を払っていないないものと思われる。
一方で、低課金ユーザーを高課金ユーザーに変えることは、非常に難しい。そもそも、「痛み」を嫌う傾向があるためだ。ゲーム会社にとっては非常に悩みを抱える部分で、高額課金ユーザーを増やすようにゲームを設計する、つまり、「痛み」にフォーカスしてゲームを設計すると、短期でゲームを止めてしまうユーザーが多くなり、全体のユーザー数は減少しやすくする。
一方で、「痛み」を小さくして、低額課金ユーザーを増やすようにゲームを作ると、高額課金ユーザーが減るため、全体の収益は減少する。
日本特有のガチャという時間を利用した「痛み」が高額課金ユーザーを生みだしたのは、私自身はかなり偶発的な要因が大きかったと考えている。また、「痛み」を利用している点が社会的に疑念を持ってとらえられている点でもあると考えている。ただ、ブランドものの服といった様々な限定品といった嗜好品と、収益構造の仕組みは大きく違っているわけではない。単に、デジタルデータであるかどうかという違いがあるだけということは指摘しておきたい。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。また、既存の執筆記事情報をまとめたサイトもスタートしました。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
『世界金融バブル 宴の後の二日酔い』
藤沢数希×池田信夫
第五章 日本の財政破綻で儲ける方法
藤沢:金融危機は必ず繰り返しますね。次はなんか日本であるかもしれないですよね。
池田:アメリカで2008年に起きた、あれはプライベートな住宅ローンだったんですけど、いまヨーロッパでそれが国家的な財政危機の問題になっている。今度日本では、おそらくむこう十年くらいの間に、国家財政の破綻に直面するかもしれない。
藤沢:まあ、20年〜30年くらいの間には起こるでしょうね、なんか。ただ、10年ぐらいだと、まだ何も起こらないと思ってる人が多いんじゃないですかね。マーケットの現状的には。
池田:起こると思われるのは、そのスペインやギリシャのような、海外の債権者や投資家との問題ではなくて、日本国政府と日本の邦銀の間でおそらく起きると思うんですよね。おそらく、それは90年代の不良債権問題がもう1桁くらい大きな…。
藤沢:いや、もう2桁くらい、ひょっとしたら3桁くらい大きい。1000兆円オーダーの問題ですからね。
池田:そうですね。これは納税者としては大変な問題なんだけど、逆にトレーダーの方から見ると、儲けるチャンスでもある。たとえば、日本国債の空売りとかっていうふうに、言っている人もいるけれど、これで儲ける方法って何かあるんですか?
藤沢:それは普通に日本円を売るだけでいいんですよ。通貨の信用というのは、国債の信用なので、国債の信用がなくなれば通貨は暴落するんですよ。だから、円を売ればいいだけなんですけど。単純に、円を売って、外国の資産を買っていればいい。
池田:いまはまだそんな時期じゃない?
藤沢:円はすごい大きな市場だから、それを吸収できる市場だと、ドルとか、ユーロなんですけど、円がそこまでダメかっていうと、ドルとかユーロも相対的にダメになったから、そういう意味ではまだ不思議な感じで安定してますよね。少なくとも、日本国債の金利は下がり続け、円高になっているわけだから、マーケットはすぐに暴落するとは思っていないわけです。
この本にも書いたんですけど、ユーロ危機もそんな1〜2年で収まらない。10年単位の問題だから、しばらくは円の暴落はないんじゃないですかね。だから金利が上がらないから、ひたすらまだ国債発行できてしまうんですよね。
池田:短期的にはまだしばらく邦銀も日本国債と預金の金利差で儲かる?
藤沢:あと、邦銀は、他にもいろいろビジネスしています。団塊世代の退職金がたくさん口座に振り込まれるわけで、それを見て、電話して、特別なお客様にプライベート・バンキングのサービスを提供したい、とか言って上手いことおだてて、変な投資信託なんかを買ってもらうというようなビジネスもやってますけどね。結構、儲かるみたいですよ(笑)。
池田:でも、この本にも書いてあるけど、いままでの投資のパフォーマンス見てると、何にも考えないで、日本国債を買ってた人が、結局勝ち組になっちゃったんですよね。
藤沢:勝ち組になっちゃいましたね(笑)。皮肉ですね。結局日本のお年寄りは強かったですよね。一番儲けましたね。
池田:こういうことって、ちょっと珍しくないですか?
藤沢:いや、そんなことないですよ。大方の金融のプロって、昔からサルと変わらないんですよ(笑)。
池田:長い目で見ると、やっぱりその株式の方が、収益率が高いはずでしょう? 50年とかで見ると。ここ20年くらい、歴史的にみると珍しいことが起こっている。
藤沢:でも日本の株式はずっと下がってますけど、アメリカの株式はまた戻ってきたし、バーナンキのアグレッシブな量的緩和策も効いてると思いますけど。
でも、どうなんですかね、日本はやはり、ある意味課題先進国だから、日本の失われた10年、20年を、いま、アメリカとヨーロッパが経験しつつあって、それまでみんな株っていうのは普通にやれば上がっていくもんだと思っていたのが、下がり続けて、日本をほかの国が追いかけるとすれば、別に株の期待収益率は、これからの時代はそんなに期待できないのかなっていう気もしますけどね。
池田:さっきの財政の話にもどると、ヨーロッパの場合はドイツというディープポケットあったんですよ。だからここまでズルズル延びるんだけど、日本の場合、課題先進国になりそうなのは、今度日本の財政が破綻するときは、財政というディープポケットが破綻するので、銀行を救済する金がないんですよ。
藤沢:結構大変な問題ですよね。大変とはいえ根本的に考えると、やっぱり数字合わせの問題かなぁ、という気もしないでもないですけどね。
池田:そのときの対策は、さっき言ったように2つしかないんですよ。日銀がお札ばらまいて、インフレにして実質的な債務不履行にするか、債権カットするしか…。
藤沢:そしたらその老人の持ってる預金が、もし、一番何も起こらずに解決してくれるとしたら、日銀がマネタイゼイション(国債の買い取り)して、そうすると老人の持っている預金が、実質的にインフレで薄らいで、みんなに分配されるというか、国家に徴税されるのと同じ効果があるわけじゃないですか。インフレ課税ですね。仮にそれだけで済めば、結局数字合わせの問題と言えば数字合わせ…(笑)。
池田:いや僕ね、財政の専門家にいろいろ訊くと、それが一番まずいと。だって財政が崩壊して通貨の信認がなくなったら、数%のインフレで止まりませんからね
藤沢:そうすると、いまの近代国家の基本である私有財産権とか、民主主義とか、法治とか、いろんなものが確かに壊れる感じがしますね。金融システムは破壊されちゃうわけですし。
インフレだけなら、さっき言ったように、海外の資産を買っておけばいいんですけど、私有財産権とか、そういう国家の基本的な部分が壊れて、預金封鎖とかになると、もう、国外に逃げるしかないけど、まあ、外国に住むのも大変なことだから、みんなで座して死を待つ、というのも乙なもんじゃないですかねぇ。
何も起こらなければ、日銀がマネタイゼションして、老人が持っている貯金がなくなって、若い人たちが勝手に背負わされた債務、これは将来徴税されるということですが、それも無くなる、ということで数字合わせの問題にはなるんですけどね。
池田:リフレ派の人々が想い描いてる、そういうマイルドなイメージで済まないでしょう。藤沢さん自身が一番よくわかってると思うけど、確実にインフレが起こるとわかったら、外銀とか海外のヘッジファンドがどんどん円を売っていくでしょう。
藤沢:一番ダメージが少ないシナリオはそういうリフレ派のいうような、インフレによる資産課税ですが、そこで止まらない可能性がありますね。そもそも、勝手に、そこにあると思ってた財産を、国がインフレで消し飛ばすこと自体大変なことですが。
でも、それでいろんな社会の遵法精神だとか、そういうソフトなインフラが、根本的なところで壊れることによって、どこまで日本という国が劣化するかわからないですよね、確かに。
経済学で一番あっさりした簡単なモデルでは、貨幣中立説といって、貨幣を増やそうと減らそうと、名目の物価が変化するだけで、実質的なモノやサービスの生産は変わらない。これらのモノやサービスを交換するための、目盛りだけ変わる。だから、財政破綻すると、インフレが起きて、老人の預金が消滅して、若者が過去の借金を返すために重税を課されることもなくなる、ということも貨幣中立説とか貨幣数量説の理想化された世界の中では起こりますね。
まあ、それだけで済まないですよね、やっぱり。貨幣の信用がなくなると、金融システムが破壊されて経済が回りませんからね。ものすごく日本の経済活動が劣化するでしょうね。
池田:長期で考えると、いずれはリセットされちゃうんだろうと思うんですけど、過渡的にはそれこそ金融資産が半分になっちゃうとか、日本経済は大混乱が起きる。完全に機能停止しちゃうわけですよ。さっきの徳政令が大規模に起こるわけです。おそらくヨーロッパのような結果になるしかない。
ただヨーロッパの場合、ギリシャとか相対的に小さな問題ですが、日本の場合は邦銀が国債を200兆円ぐらい持ってるから、それを徳政令でやると邦銀が逝っちゃいますよね。つまりギリシャのような奉加帳方式でやると、いま邦銀の資産の25%が国債だから、そのうち20%ぐらい吹っ飛ぶ。一番危ないのは地方銀行で、日銀が危ない危ないというレポートを毎年出している。メガバンクは早めに逃げ始めてるみたいだけれども。
藤沢:一応、決算書や財務諸表を見ると、メガバンクは、そんなに日本国債のデュレイションも長くなくて、国債が暴落しても、そんな大したことないよ、みたいなこと言ってますけど、実際のところよくわかんないですよね。
地銀とか保険会社は、ほんとにもうシンプルに預金とか保険料を集めて長い債券買うっていうビジネスしてますよね。だから金利が上がっただけで、すごく大変なことになりますよ。でもまあすごく大変なことになったら、会計ルールが変わったりして、一応、決算書類上はごまかせるように、政府がいろいろやってくると思いますよ。
池田:最後のウルトラCは、会計規則を変えるんですよ。時価会計を停止する。
藤沢:会計規則を恣意的に変えるのは、困ったときによくやることで、ウルトラCってほどのことじゃないですよ。実質的につぶれてる銀行を助けるために、政府がいろいろやりますね。ライブドアの堀江さんみたいな人だと、些細な粉飾決算みたいなことでは実刑判決になりますけど、国と一緒にやれば、みんなお咎めなしですね(笑)。
池田:でも、会計規則いじったって取り付けは起きますよ。預金者はみんな銀行に金がないと知ってるわけだから。
藤沢:しかもそれは日本の銀行全体になるから、取り付けが起きるとすると、日本の銀行からほかの国の銀行に預金を移したり、みんなで海外の資産買うんでしょうね。そうすると預金封鎖とか、海外資産に課税とか、いろいろやってきますよ。まあ、要するに、そこまでの財政破綻をするなら、本当に日本から出ていく覚悟じゃないと、ダメなんですよ。
池田:資産逃避ね。そんなことはある日突然起きることはないんだから、ある程度、前からわかってるでしょ。そうすると、まさにその藤沢さんのようなプロが、どんどんと海外の資産に移したり、取引先替えたり、金に替えたりね、いろんなことやり始めるじゃないですか。
藤沢:でも、その割には、日本円が一番よかったんですけどね。まあ、いつかは動き始めるかもしれませんけど。結構、そういうの始まると、割と変化は急なのかな、という気はしてきますけどね。起きるときはすぐに起きますよ。だって、アメリカの住宅バブルが崩壊して、世界同時金融危機になるまで、1年もかからなかったから、起こるときは結構アっという間に起こると思いますね。
池田:この本にも書いてある2007年のパリバ・ショックの辺りがきっかけだったんですよね。
藤沢:まあ、きっかけというか、いろんなニュースの流れ的には、そこがひとつのターニングポイントだったという話です。
しかし、別にBNPパリバがおかしいわけじゃなくて、BNPパリバの傘下のファンドが、CDOなんかで運用していたんですけど、CDOの買い手が市場にいなくなって値段が分からないからファンドの時価の計算と解約を停止します、と発表しただけなんですけど、これで世界中の投資家がCDOとかアメリカのサブプライム住宅ローンが入ってるのはみんなヤバイと気づいちゃった。これがパリバ・ショックですけど、そこから結構早いですよね、リーマンがつぶれるまで。
池田:1年くらいですね。しかし日本についていうと、まだその局面はかなり先だと?
藤沢:最近は、日本国債がさらに値上がりして、もう、大人気ですよ(笑)。危機は遠のいたというか、相対的に比べられるほかのユーロとかドルがこけましたからね(笑)。通貨の信用というのは相対評価ですから。
※次号「第六章 不良債権問題とは何だったのか」に続く。(この対談は、アゴラから電子書籍として販売される予定です)